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    hizume310_ai

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    hizume310_ai

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    中間発表を終えて、とりあえず獄寂が書きたかった

    ECHOES(H→J) この光景は一体何なのだ。
     獄は眼前の事実を受け止めきれず、控室の机を拳で叩いた。隣に座る四十物十四が、大きな音にビクリ、と背を震わせたことにも気づかず、歯軋りをした。
    「何で……何でお前が膝をつくんだ……⁉」
     韻踏闘技会前回優勝者の麻天狼に、劣勢の色が濃い。
     イケブクロもシブヤも、必死であることに変わりはない。だが、獄を幾度も負かしてきたあの寂雷が――神宮寺寂雷が、その長身をぐらりと揺らす。尖った顎から流れ落ちた汗の雫が、シンボルの狼の瞳を濡らす。
    「……てよ」
     聞こえるはずもないのに、獄は叫ばずにはいられなかった。
    「立てよ、寂雷! お前はこんなもんじゃねぇだろ⁈」
     こんなもんじゃない。
     幾度となく獄に敗北の辛酸を舐めさせた男が、こんなところで膝をついて良いわけがない。苦しげな吐息を漏らして良い道理もない。増して、敗北など――あり得ない。
    「俺以外のヤツに負けるお前なんか、俺は……俺は、見たくねぇんだよ!」
     薄いテレビの液晶を掴み、揺さぶる。決して届くわけもない言葉は、鼓舞だろうか。それとも愛憎入り交じる罵詈雑言なのだろうか。獄には分からない。ただ今、こうして遠くにいるかつての友に、どうしても言葉が溢れてくるのだ。
    「スーパーマンになるんだろう⁈ 全ての人を救うんだろう⁈ だったらこんなところで負けんじゃねぇよ‼ 立て‼ 立って、言葉を吐け‼ 誰よりも強く、優しく、激しいお前のリリックを紡ぎ続けろよ‼」
     獄の脳裏には、共に机を並べ、学びし日々の思い出ばかりが蘇る。穏やかに笑う寂雷の、菫色の髪がさらりと流れ、低く甘やかな声が獄の名前を呼ぶ。
     訣別した日に、視界の端に焼き付いた顔は、今にも泣き出しそうだった。バトル前に再会した日は、どこか嬉しそうにはにかんだ顔をして、バーに現れた。
     先のバトルで対峙した時は、吹っ切れた獄を見て薄く笑った。
     その顔の意味を、知っている。
     怪我をした獄を手当てした後の、もう大丈夫、と笑った顔と同じだったから。
     そうだ。俺はもう大丈夫だ。大丈夫だから、お前はもう、お前だけのために戦えよ。
     会場の歓声が、心なしか他の二チームへの声援が多い気がする。二度も玉座にはつかせまいと、立ちはだかる若者達を応援するものも多いだろう。
    「……俺以外のヤツに、何負けそうになってんだよ……! お前を負かすのは、俺だ……俺なんだから、それまで絶対に負けるんじゃねぇっ‼」
     誰よりも麻天狼の――否、寂雷の勝利を願う男がここにいる。
    「全ての人間がお前の勝利を望まなくても、俺だけは絶対にお前が勝つって、信じてやる……!」
     地を這うような声でそう呟き、獄は意識的に深く呼吸を繰り返した。目を閉じ、祈るように天を仰ぎ。
     この部屋にいる空却と十四は、気づいていた。
     獄の言葉の意味に。
     世界中の誰もが敵に回ろうとも、獄だけは最後まで、寂雷の見方であり続けると。そう言ったことに。
     だが獄自身は気づいていない。
     憎まれ口の裏に隠れた、本心があることを。
     歓声が高まる。
     再び目を開けた時、寂雷は震える脚を叱咤しながらも、悠然とステージ中央に凜と立った。その姿はまさに、一輪の竜胆の如く美しかった。
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