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    キモオタ

    五悠のみ
    くるっぷ在住
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    キモオタ

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    付き合ってないけど両片思いっぽいジュセン五悠

    #五悠
    fiveYo
    ##ジュセン

    先人の智慧に伏す慮るって変な日本語だと思う。
    漢字のくせに半濁音の読み仮名なんかついちゃって。漢字自体も書きやすいもんじゃないし。なんでこんな言葉作ったんだ。
    俺はこの字に良い印象を持てたことがない。この言葉を俺に押し付けてくるやつが嫌いだと言い換えても良い。
    相手のことを慮れとか、そういうのは俺向きじゃない。自分にとって大した益のない生き物のことを、なぜ俺が脳の容量を割いてまで考慮してやらなければいけないのかが本気で理解できない。
    俺は、会話のテンポというものが他人よりも早いらしい。他の人間と会話の聴き比べなんてしたことは無いのでよく分からないが、何が原因かとすれば恐らくこの心持ちなのだろう。他人に合わせる気がない。他人のために深く考えることをしたくない。だから基本俺のペースだけで話す。
    傑や硝子は良い。あいつらは俺に熟慮なんてもの求めないし、早かろうと普通に会話についてくる。面倒なら会話をしない。良くも悪くも俺と同じくマイペースなのだ。
    後輩どもには大概不評だが、俺に表立って文句言うようなやつもいない。つーか多分俺にそこまでの興味がない。つめてえ〜。
    学長あたりには窓の連中が困ることもあるから少しは思いやれなんて言われるが、やはり俺にはその必要性を感じない。俺は俺の思考速度についてこられる奴とだけ会話出来ればいいと、本気でそう思っていた。

    「…だァから、そこちげえって何度言や分かるンだよ! バカ!」
    「ギャア! 怒らんでよ!」
    バシンとデカイ音を鳴らして真横の背中を引っ叩く。痛えよ…とか涙目でほざくアホ。マジでバカ。ただでさえ少ない脳細胞のために頭ぶん殴らなかったことに感謝しろよ。
    俺と虎杖が何で放課後の教室でこんな大声を出しているのかと言うと、それはこいつの頭がめちゃくちゃ悪いからだ。要するに補習のようなもの。虎杖は賢くないわけではないが、勉強はからっきしらしい。試しに小テストの点数たちを見た俺は軽く絶望した。何をどうしたらあんな悲惨な数字の羅列になるんだ。全部足しても50に満たない点数の紙束を見て、俺はゾッとした。どんなグロい呪霊見ても動じない俺が。才能あるよお前。
    そもそも俺はこいつの成績なんか知らなかった。学年もちげーし、一般の学校とは違うからそこまで学業の成績に重きは置いていない。微分積分ができなくても命張って呪霊が祓えれば支障はない生活だからだ。
    ただ余りに字が読めなかったり計算ができなさ過ぎれば、それは呪術師としても問題になる。呪霊だって等級が上がれば比例して知能も上がる。罠や条件付きの出現なんかの搦め手を使うやつだって少なくない。敵よりバカで敵に勝てるかと言われれば、さすがの虎杖でも勉強せざるを得なくなった。
    が、もう一度言うが俺はこいつの成績なんてこれっぽっちも知らなかった。ただ俺は優しい先輩なので、暇な時間があれば虎杖に稽古をつけてやっていた。虎杖の都合?知るかそんなもん、俺を優先しろ。

    だが一昨日、俺のこの後輩を思い遣る誘いのメールに、このアホはNOを突きつけやがったのだ。それも、先約が入っているとかいうクソみたいな理由で。めちゃくちゃ嬉しいけど、という枕詞が入っていなければ俺は深夜0時でも間違いなくこいつの部屋まで殴り込みに行っていた。
    誰と。何の。俺の端的かつ怒り滲む返信に、虎杖はこう返してきた。
    “俺が頭悪すぎるから、夏油先輩に定期的に勉強見てもらう約束してんだよ“
    何だそりゃ、だ。いや、虎杖の頭が悪いのは普段の言動から想像つく。むしろ成績良かったら怖えだろ、こいつの場合。俺がハ?となったのはそこじゃない。
    定期的にだァ?
    ハ?じゃあこれが初めてじゃないのか。俺の知らない間に傑に勉強見てもらってたってこと?
    ハ〜?なんだが。
    冴え渡る俺の脳は虎杖の返信を見て1秒で傑へ電話をかける信号を指へ繰り出していた。
    『君何時だと思ってるんだい、今』
    「お前虎杖の勉強見てやってるってマジ」
    『会話をしろよ。見てるけどさ』
    それが何?と眠そうに低い声で言われた俺は、ギギギと歯を食いしばった。言えよ俺に。それを見越したかのように、傑は言葉を続ける。
    『私が虎杖の勉強を見て、君に何の関係があるんだい。1年全員揃って勉強会なんてする時間滅多にないんだし、少しでも余裕のある3年が空いた時間に見てやって良いじゃないか』
    「じゃあ!」
    余裕、を殊更ゆっくり強調する傑に、俺は脳を通さず脊髄反射で叫んだ。
    「じゃあ、見てやる、俺が!」
    『……む、…いや、うん、そう。じゃあ虎杖にそう言っとくよ。じゃ』
    何か言おうとしたが、眠さからどうでもよくなったのか、傑はさっさと電話を切った。つかまだ0時だぞ。ジジイかよ。

    そう言うわけで、俺は今優しい先輩としてこのクソ頭が悪い後輩の勉強を見てやっている。
    が、しかし。こいつ、マジで頭が悪い。戦闘では冴える思考がミリ単位ですら発揮されていない。英単語は覚えられんわ、首相は分からんわ、極め付けには「何で数学にxとyが出てくんの…」と恨めしそうに呟くときたもんだ。中学上がりたての初めて数学に触れたお子様ですか?テメーはよ。
    ついにうめき声をあげて机に突っ伏した虎杖に、俺は軽く蹴りを入れた。
    「なーにへばってんだよ」
    「へばるっしょそりゃ…」
    そんなんこっちの台詞だ。と舌打ちする前に、虎杖は顔を上げてじとっと俺を睨んだ。
    「つか、先輩すぐ怒るじゃん。こえーよ」
    「ハア〜?お前わざわざ教えてやってる先輩に良い度胸じゃん」
    「いや、つか何でマジでわざわざ先輩が来たんだよ。俺夏油先輩に教わってたのに」
    「そ」
    れは。そんなん、俺の脊髄に聞けよ。などとこいつよりもアホなことは言えず、ぶすくれた虎杖は続ける。
    「俺、頭悪いからさ。絶対五条先輩イラつかせるの分かってたし、だから夏油先輩に頼んでたんだけど」
    「そ、…」
    んなことはない、と言い切れるほど、俺は自分の言動を忘れられる脳をしていなかった。ばっちりイラついていたし何なら手も出た。夏油先輩そこそこ気長いし教えるの上手いから助かってんだよ、などと言う虎杖。お前目の前の先輩ほっぽって他の男ばっか褒めやがって。けど事実なので特に反論もできない。虎杖はちょっとの間俺を見ていたが、そのうち少し申し訳なそうな表情になった。眉が下がっている。
    「…やっぱ、いいよ。俺ひとりで勉強する。先輩の時間使うの勿体ねーし」
    「そっ」
    「先輩ソの音しか出なくなった?」
    クラリネット?とか抜かす虎杖に、それは嫌だと反発しかけて、俺は内心首を傾げた。
    嫌だって何だ。こいつの言う通り勉強は全然進まなくて、そのせいで俺はイライラしていて、こいつもやる気を無くしていて。なら今日はお開きにして、また別の日にでも稽古なり遊ぶなりすれば良い。でも、これで終わりにすんのは嫌で。何が?上手く教えられなかったっていうのが癪に触ってんのか?けどそれってこんなにムキになることか?
    黙り込んだ俺に、虎杖がきょとんとして、それからどこか納得したような顔をして口を開いた。
    「先輩、ゆっくりでいーよ」
    ゆっくりでいい、なんて、俺はこれまで誰にも言われたことがない。それは、気遣われなかったとかじゃなく、気遣われるような隙を見せなかったからだ。いつだって俺は思ったことをそのまま口にしてきたし、他人を前にして黙り込むなんてことをしなかったからだ。なのに、こいつの前では思考がグルグルと巡って、一向に口から出てきやしない。
    虎杖は、こんな俺の態度に慣れていると言わんばかりの様子で、俺の言葉を待っていた。いや、事実、慣れているのだ。上手く言葉が出てこない俺、なんていうクソ珍しい状態をいつものことだと思えるくらいには慣れている。つまり、俺はこいつの前だとよく考え込むし、こいつが理解できるように言葉を砕いて思考を割いているってことだ。今更気付いたそれが異常にむず痒くて、俺は頭を乱暴に掻きむしった。
    「俺は」
    「ん」
    「俺はお前がアホのままだと困る」
    「こ、困る」
    自分の成績が俺に影響すると言われた虎杖は、真剣そうな顔をしてアホみたいにオウム返しした。そうだよ困るんだよ。現在進行形で困ってんだ。
    「お前がアホだと、戦ってて死ぬかもしれないし、お前がアホだと、勉強で時間取られて、俺と稽古出来ないし、お前がアホだと、他の奴にばっか頼って俺ンとこに来ない」
    一息でここまで言って、俺は落としてた視線をハッと上げた。今俺の方がアホみたいなこと言ってなかったか?つかアホって言いすぎて意味わかんなくなってきた。
    見上げた先の虎杖は、そのでっかい目をさらに見開いて全力でびっくりしましたって顔で俺を見ていた。口もポカンと開いてる。けどその顔は不思議と、アホっていうよりは好ましかった。ああクソ、何で俺はこんなにこいつのこと考えてんだろ。
    「…先輩って、なんつーか、思ったより」
    「何? アホとか言ったらヘコます」
    「どこを!? 言わんし! 違くてさ」
    自分が言ったことの恥ずかしさがじわじわ効いてきた俺に凄まれ、虎杖は慌てて手を振る。そして、また下がった眉で、今度は嬉しそうに頬を緩ませた。
    「なんか、結構俺のこと考えてくれてるよなーって、嬉しくなっちゃった」
    そしてピンときたように、急に目の前の教科書を開いた。現代文の一行を指さして、俺に笑いかける。
    「これってあれだ、そうこれ! 先輩って、俺のこと、おも……慮ってくれてんだなって」

    ちょっとだけ勉強身についたかも。
    ワハハと誤魔化すように笑う虎杖は、アホみたいだった。
    アホみたいに、すげえ、可愛かった。

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