兄上が突然前世の記憶を思い出してわたわたする話 巌勝は目を覚ました。
正確に言えば本当に目を開けたという訳では無い。ただ、たった今目覚めたように眠らせていた意識をはっきりさせたのだ。
巌勝は至って平凡で幸せな人生を歩んできた。一人っ子である巌勝は両親にきちんと愛されてすくすくと育ち、高校に入学したのが去年のこと。高校でも順調に日々を過ごしているし、気の置けない友人もできた。そして何より、恋人がいることが巌勝の心を大きく占めていた。恋人は、それはもう巌勝の事を慕ってくれていて、巌勝もその想いが嬉しくて付き合い始めたのだ。喧嘩など一度だってしたことがなく、とても順風満帆である。
他人からみても自分はきっと幸せに映っていただろうし、実際にとても満たされていた。
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