東京駅純情ものがたりこの日は仕事が早く終わりそうだから、たまには外に飲みにでも行かないか、と、珍しく赤司からそう誘われた。
断る理由もないので、良いですよ、と黒子は答える。オレは仕事終わりだからスーツだけど、黒子は私服で良いからとも言われた。そんなふうに言われても、赤司と行く店はいつもそれなりに敷居の高い店だから、マジバに行きますよみたいな服装で行けるわけがない。そう思っていたのが勘付かれたのか、本当にいつもの服で良いからと笑われた。うーん。疑い深いけれど、彼がそう言うならまあそれで良いだろう。
週の真ん中水曜日、時計の針がまっすぐ縦になった頃。
約束していた時間のほんの数分後に、「ごめん、お待たせ」と言って赤司は黒子の前に颯爽と現れた。まだ蒸し暑さの残る中、背筋を伸ばし、チャコールグレーのスーツを涼しい顔して着こなしている。臙脂色に水色のストライプが入ったネクタイは、黒子が選んで、今朝黒子が結んであげたものだ。人のネクタイなんて結べない、と思っていたけれど、いつしか結ぶのが当たり前の習慣になったことである。そのネクタイが朝と変わらず、赤司の襟元を彩っていた。
4563