「何でこんな事に……」
ぶつくさ言いながら一護は自分のアルバムを持って尸魂界へと来ていた。
切っ掛けはルキアが白哉の前でベラベラと一護の幼い時の写真を見たと話していた所為である。
その時に白哉が「見てみたい」と言えばルキアが一護に持ってくるように圧を掛けてくるのは予想出来た流れであった。
「俺だって白哉のちっちゃい頃みたいのに、不公平じゃねぇか」
ぶう、と一護は唇を尖らせる。
白哉が如何いう気持ちで一護の子供の頃の写真を見たいと言ったかは一護には分からないが、密かに恋心を抱いている相手故に一護も白哉の子供の頃を見てみたかったのだ。
だが「無い」と一言すげなく言われてしまえば引き下がるしかない。
見た目とは違い白哉は何百年と生きている。
白哉が子供の時というのは何年前なのかは分からないが写真機無かったのかと一護は不満ながら納得するしかなかった。
辿り着いた六番隊の執務室の扉をおざなりなノックをした後に開ける。
一護が近付いているのは霊圧で気が付いていたのだろう。
白哉は何時も座っている執務机ではなく来客と応対する用の長椅子の方へと座っていた。
しかも白哉だけではなく、
「何で恋次も居るんだよ!」
「俺は六番隊の副隊長だぜ?執務室に居るのは当たり前だろうがよ」
白哉の向かいににやにやと意地の悪い笑い方をしている恋次も座っていた。
一護を揶揄う為だろう。
何時もの流れであれば恋次と喧嘩を始める所であるが今は目の前に白哉がいる。
仲裁の為の花弁の刃を一護も喰らいたくは無いのである。
「ほらよ!お望みのものだ!」
バン、と音を立てて一護はアルバムを机の上に置く。
その乱雑振りに白哉が眉を顰めた。
「物に当たるな」
「誰の所為だと」
膨れツラを隠そうともせずに一護はそっぽを向いて恋次の隣に座る。
一瞬白哉が何か言いたそうな顔をしていたが一護はそっぽを向いた儘だったので気が付かなかった。
「恋次、茶を」
「あー……、ハイ」
白哉と一緒になってアルバムを見て揶揄う心算だったが白哉は本を読む様に自分だけが見るようにしていたので恋次は「後になるかぁ」と言いながら立ち上がり執務室を出て行った。
後に残ったのは静かにアルバムを見ている白哉とその反応が気になってちらちらと白哉の方を見ている一護だけであった。
アルバムをめくる音だけの空間に耐えきれなくなった一護は白哉へと話し掛ける。
「……言いたいことがあるなら言えよ」
「兄は幼子の頃も随分と可愛らしかったのだな。見てみたかったものだ」
「な、かかか、可愛いとか言うんじゃねぇ!」
小さい子が可愛い、というのは一護も同意する所であるが白哉が今見てるのは自分の子供の時の写真である。
白哉が何歳ごろのページを見ているかは分からないが素直にうなずく事等出来る訳がない。
好きな男から「可愛い」など言われるのは複雑な年ごろなのだ。
「今戻りましたー」
妙な空気を破ったのは茶を持ってきた恋次であった。
「お、遅えぞ!」
「んだと!持ってきた俺に感謝しやがれ」
白哉の前には静かに、一護の前にはやや乱雑に置かれる。
一護にだけ茶請けの菓子があるのは恋次なりのもてなしだろうか。
白哉は甘い物が嫌いなのは知っている為、自分だけ良いのか、とは言う事はしない。
「おう、サンキュー」
「余り物の菓子があったから持ってきてやったぞ」
一言多いな、と言いながら一護は恋次へと一回舌を出した後に包みに入っていた菓子を取り出した。
薄桃色の饅頭は一口かじればふわりと甘さが口いっぱいに広がる。
「うみゃ」
旨い、と言おうとした一護の口は上手く滑らず、隣で茶を啜っていた恋次がねこの呻き声の様な声を出した一護を揶揄おうと隣を向いて、そこにあった姿にぽかんと口を開いた。
その拍子に持っていた湯呑を変に傾けてしまい淹れたてで熱いお茶を膝の上に零して悲鳴を上げた。
騒がしさに顔を上げた白哉も目の前の信じられない光景に思わず驚きで普段は殆ど動くことのない表情を変える。
ほんの数秒前まで普段通りだった一護の姿が、5歳ほどの小さな子供の姿に変わっていた。
一護も自分の姿が変わっていた事は気が付いていたが何が起こったのか理解できずに固まった儘だ。
その態度で外見は変わってしまったが、中身までは退行していないという事が分かる。
白哉はアルバムを開いた儘机の上に置くと立ち上がり、一護を抱き上げる。
服までは縮まなかった様で死覇装で包む様にしたが、あまりに一護が小さいので肩からはすべりおちてしまった。
「びゃ、びゃくや」
混乱する一護を他所に白哉はちらりとアルバムへと目を落とす。
丁度同じころの一護の写真がそこに貼られていた。
もしや見たいと強く願っていた所為で黒崎は斯うなってしまったのかもしれない、と勝手に納得し、
「ふむ、責任を取って黒崎は私が引き取ろう」
「いや、その前に四番隊か十二番隊行きましょうよ……」