愛を乞う者小雨の裏通りを、ボロの唐傘を差して突っ立っている。傘に空いた穴から、ぽたりぽたりと水滴が滴って、色素の薄い傷んだ髪に落ちた。
雨は好きだった。
なにだか世の中の汚れとか未練だとか、そういうものが綺麗に流れてゆく気分だったし、それに。
「やぁ、一晩どうかな」
お互い顔を気にせずに済む。
「宿代だけで結構です」
低く響く良い声だったから、身を任せてみようと思った。軽く瞼を閉じて、あの人の姿を重ねてみる。思い込んでみる。
手慣れたものだった。
だが、薄暗がりの下卑た視線に、一気に興醒めしてしまった。また妄想の中ですら、あの人が遠退いてしまう。
ゲタ吉は、情事の色が濃く残るペラペラの布団に横になったまんま、酷く冷めた心持ちで寝こける男を見遣る。しばしボンヤリしていたが、朝日が昇ったかも分からない曇天の街へ、連れ込み宿から一人、ふらりと抜け出した。
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