俺の嘘なんてお見通しだろうけど背中の傷はじわじわと布地を侵食していた。
かなりの深傷。もう助からない。
追っ手の数が多すぎる。猶予はない。
俺へと手を伸ばす千空ちゃんに意地の悪い言葉を贈った。
どうか。どうか逃げ延びて。神に祈りはしないけれど。
もう君の顔も見えない。最期に俺はちゃんと笑えただろうか。

ささやかな恋の証情事の後。
ミジンコ体力の千空は気を失うように眠りにつく。
ピロートークなどしてる暇もない。
千空の身支度を整えるとゲンも力尽きて千空の横に潜り込む。
朝、千空が起きると誰も見たことのないゲンが居る。
髪はぐしゃぐしゃ、目元は赤い。
安らいだ寝息を立てる胸にそっとキスを落とした。

未知との遭遇ゲンは戸惑っていた。小さな掌、柔らかい感触。
それは何か別の生き物のようだ。
「ゲンくん。そんなに怖がらなくても案外丈夫なんだよ」
杠が笑う。
「その感じ、さっき千空もおんなじだったぞ」
「黙ってろ、デカブツ」
「へぇー、千空ちゃんも」
「うっせぇーわ、怖いに決まってる」

「させねぇって、かっこいいね」「うっせぇーわ」ゲンは岐路に立たされている。
此処が分水嶺ということか。
差し出された手を取れば、まだ一緒にいることを許される？こんな俺でも？
「まぁーた、ぐちぐち考えてんだろ。いいから来い」
ゲンの躊躇を飛び越えて掴まれた手首。
「後悔なんてさせねぇ。来いよ、ゲン」
滅多に呼ばれない名に頷く。

キスの先を教えて「唇って自分の内側の入り口じゃない。だからそこを他人に明け渡すのって、どうしても怖いわけ。だから意識が集中しちゃうし、体も震える。心は恐怖の感情に敏感で繊細だから、怖いって感情を別のものにすり替えちゃう。それが気持ちいいってこと」
企むように笑うゲンに千空はその先をねだる。