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    pome_ga_iru

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    バレンタインメージュ謎シチュ撮影前元相棒

    #左右不明
    unknown
    #元相棒
    formerPartner

     早く終わんねえかな、と声を漏らす。目の前の頭にだけ届くよう抑えた声量は、狙い通り連れの肩を揺らした。クッと喉を鳴らして笑う男が食い尽くさないように持っているパフェの甘やかな香りを前にして、曇るばかりの表情が微かに緩む。悪ふざけにもならない軽口からネロの限界を正しく測り、くるりと首を回したブラッドリーは、他人が喜ぶような笑顔を見せるのが随分と上手い。たくらみ事をしているような笑みを見せつけながら、どこかぼんやりとして――あるいは変に力が入って硬くなっているネロの前で、堂々とその手の中からチョコレートを抜き取って機嫌よく口にした。普段通りであればとうに怒鳴りつけるか首根っこを掴んで阻止する犯行を、はあ、と溜息ひとつで見送るネロが、声音ばかり困り果てている。
    「トッピング全部食っちまったら撮影になんねえだろ……」
     そう、分かっているのに、ブラッドリーが果実をひとつ摘まむたび、プレートを抜き取っても、弱った言葉を放るばかり。堪え性がないとブラッドリーは笑った。待機時間長すぎねえ? とネロは肩をすくめる。なんたってはじめはおとなしくネロと並んで座っていた北の魔法使い様が、すっかりこの場の主顔で寝そべりくつろぐほどの間だ。慣れない依頼に肩身が狭いネロの気を知った上で、遠慮なく肘をついた手に頬を乗せていた片割れは、もう一度首を捻りネロを見上げた。
    「……甘いもん好きでもねえのに」
     吐息で擽るように笑われる。いまだ汚れの見えない黒手袋が伸ばされて、
    「そう甘くもねえよ」
     真っ赤と言うには色味の薄い果実の向こう、ネロの愚痴に付き合う赤い舌、ネロが手にしているものよりも余程鮮やかな赤い瞳が、見つめるのはデザートではなくネロなのに。その口が価値を認めるのはネロが作った料理ではない。美味い? と反射的に聞くより前に「お前はもっと苦いの作れよ」と言われてしまう、その瞬間、肩肘張らずに気が抜けたことに気づくのを、情けなく思うべきか分からないままでいるのが駄目なことなのか、どうか。
    「もっとって、俺はこれ食ってねえんだぞ」
     けれどもネロは、賢者の魔法使いをだしにしたとびきりの宣伝効果を狙う有名店のチョコレートパフェの味など知らないが、かつて至上と仰いだ男の好む味なら知っていた。菓子であっても文句ひとつ言わず大口開いて放り込む味付けを、求めた以上だとはしゃいで喜ぶだろう苦みを、分かっていると言い切れる。スイッチが入ったように頭の中でレシピを組み立て始めたネロの引き締まった表情を見上げ、満足げにブラッドリーがチョコレートに手を伸ばす。最後の一枚を残したところでようやく話のまとまったスタッフから声がかかり、ネロはゆっくりと顔を上げた。
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    DOODLE2022.6.2公開の、フィガロ誕4コマの蛇足のようなフィガファウ。
    4コマ見た瞬間に書いてた。本当はなんでも無い日だって部屋にくらい行く二人です。
    なんでも無い日だって部屋にくらい行くよ。 自分から出向かないと顔を出すまで部屋の扉を叩かれるから。他の賢者の魔法使いは声をかけているのに、一人だけ無視をするのは気が引けるから。理由はいくらでも思い浮かんだけれど、結局の所、僕が伝えたいだけなのだ。
     四百年の間、誕生日という日を特別に感じた事は無かった。それもそうだろう、依頼人くらいしか他人と接する機会が無かったのだ。すると自分の誕生日も有って無いようなものになる。ふと、そういえば今日は自分の誕生日だと思い出す事もあるが、王族の気まぐれで作られる国民の休日と同じくらいどうでもいいものだ。
     それなのに、この魔法舎で暮らし始めてからはどうだろう。二十一人の魔法使いと賢者、それからクックロビンやカナリアの誕生日の度に、ここはおもちゃ箱をひっくり返したような有様になるのだ。自分の誕生日には一日中誰かから祝いの言葉を贈られて、特別なプレゼントを用意されたりして、自分らしくもなく浮かれていた。それは他人が僕のために祝ってくれる心があってはじめて成り立つもので、少なくとも僕はその気持ちを嬉しいと感じた。僕が何か行動を起こしても相手は喜ばないかもしれない、もしかしたら怒らせる可能性だってある。受け取る側の気持ちを強制は出来ないけれど、僕が他人を祝いたいのだ。気持ちを伝えたいだけ、あわよくば喜んで欲しいけれど。
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