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    kasaikuzu

    @kasaikuzu
    おえかきの練習してます。〆ギド。

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    kasaikuzu

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    帰ってこなかったフォのカスフォカ

    ##メ

    彼が約束もなしに部屋にやって来たのはおそらく最初で最後になるだろう。控えめで規則正しいノックの音でカスピエルにはその主が誰だかすぐにわかった。眠る前に一杯と以前に倉庫からくすねてきた秘密の酒をグラスに注いだところであった。彼が来るとわかっていたら絶対に手を出さなかったのだが、今の彼が見たらいったいなんと言うのだろうか。


    「すまない、寝ていたか」
    「いや、まだ起きとったで」

     とりあえず中入りや、扉を開け放して迎え入れると憔悴しきった表情にわずかばかり安堵の色が伺えた。めずらしいなと一言かけると自覚があるのか先程の不安げな様子がまた顔をのぞかせる。目を伏せ、しおらしくなってしまった肩を支えてベッドの上に座らせると彼の身体からはふわりと黒い油の臭いが漂った。

    「武器見とったんやな」
    「何かしていないと落ち着かない」
    「無理ないわ、随分大事にしとったもんな」

     昼間に幻獣退治に向かったフォカロルが壊れた武器を手に戻ってきたのは夕刻を過ぎてからだった。力を取り込む核の部分が壊れてしまったのでこれ以上手の施しようがないのだと。茫然自失のフォカロルは帰って来るとすぐさま少し一人になりたいとややふらついた足で自室に引っ込んでしまっていた。
     グラスに注いだ酒を手渡してやる。先程飲もうとしていたそれにまだ口はつけていない。差し出されたそれを訝しむ仕草にこういう時は酒を飲むのが一番やと返せば躊躇いがちに受け取った。そして琥珀色の液体をまじまじと眺め中身を飲もうとして顔を少し近づけてから、やめておくとカスピエルに付き返した。返されたグラスの液体は当初どおりカスピエルの喉元へ収められていった。
     しょぼくれた頬に手を添えてそのままキスをする。引き結んだ唇を柔らかく食んで緩ませてから酒気をまとった舌を侵入させ好きにいじくると、驚いた様子の瞳を一気に潤ませた。やや乱暴に口内を弄んでわざと糸引くように唇を離すと頬に添えていたカスピエルの手を他ならぬフォカロルの手が引き止めた。熱のこもった吐息が鼻にかかる。口にしていない酒気を感じるのは自分の舌のせいだ。

    「なんでジブンが俺のとこ来たか当ててやろか?──抱かれに来たんやろ?」

     さぁっと彼の頬がわずかながらに染まった。明らかに図星とわかる様子で俯くとカスピエルの手を引き止めていた指に縋るように力がかかる。普段セックスするときはそんなしおらしい様子見せへんくせに、思いながらまた口付ければ今度は向こうの方から舌を絡ませてきた。いつもこんな風に誘ってきたことなんてなかったやろ。こういう時だけずるいやつやな。望むままに身体をシーツの上に押し倒し、誘いに乗ったふりをして、唇を離した。悪いけど気分やない、口の周りで場違いに光っている唾液を指で拭ってやる。眉を歪ませて帰り道のわからなくなった子供のような、痛ましさをにじませた表情を隠すように手で覆ってしまったのは恐らく後ろめたい気分からだろう。

    「……悪かった」
    「別にフォカロルが悪いわけやない。気分じゃないってのも嘘や」

     実際にあのまま抱いてやることだってできた。熱の溜まった股間はわずかではあるが兆しを見せていたし、望まれたまま彼を抱いてやるのは彼の行き場ない感情を一時の間押し流すのには充分だっただろう。ただカスピエルのよく知るフォカロルは自暴自棄になって抱かれるような真似はしない。ただそれだけだった。一生懸命やってくれたんに悪いなぁ。顔を覆っている手をどかして弱った身体をやや強引に抱きこむ。背中を子供をあやすようにさすってやると次第に糸か解けたように強張っていた身体が緩んでくる。

    「俺はなフォカロルのためなら『優しい恋人』にもなれるし『クズな友人』にもなれるで。でも『都合のいい男』にだけはどうしてもなれんねん」

     腕の中でフォカロルの謝罪の言葉が聞こえる。悪かった、すまない、許してくれ。カスピエルには彼の苦悩に寄り添うことはできても慰めることはどうしてもできない。そんな仮初の慰めをフォカロルだって内心では望んでいなかった。
     彼の武器は兵士としての彼の生き様であり、追放されても力を失っていないメギドとしての誇りだった。それを喪失した時の気持ちは同じ追放メギドの身として想像に難くない。こういう時、普通のヴィータだったら泣くのだろう。やるせない感情を涙を流すことで処理することはヴィータとして当然の現象だと少なからず見てきた女の涙でカスピエルは知っている。涙を流したところで彼が失ったものが戻ってくるわけではないのは明確だったが、カスピエルはフォカロルが涙を流すならそれを拭ってやりたいと祈るように思った。
     いつのまにか眠りについてしまっていたカスピエルは腕の中のぬくもりがいなくなったことで目を覚ました。かたんと物音がしてそちらに寝返りを打てば彼はまさに部屋を出ていこうとするところだった。部屋がうっすらと明るいので習慣どおり日の出と共に目覚めたのだろう。恐らく先に眠りについたのは自分の方なのでフォカロルはきちんと眠れたかどうかはわからない。真っ直ぐに伸びた背中はカスピエルが思っていたよりも華奢だった。真っ直ぐに伸びているのに強い風が吹けば折れてしまう茎を思わせる。フォカロルは強い男であるのは確かだが、痛み、悲しみ、苦しみを感じないような超人的に強い男ではないのだと身に沁みた。そんな弱々しい姿を見送るのは恐らくこれが最後になるだろう。そんな確信めいた予感だけはあった。静かに開いてそして閉じていく扉を見つめながら誰に言うでもなく呟く。

    「戻ってきたら起こしてな」

    俺はここで待っとるから。




    ──wake me up when you come back
    ──I'll be waiting here for you




     部屋から出ていくフォカロルをこっそり見送ってそれから二度寝した。次に目を覚ましたのは昼過ぎで、いつもこんな時間まで寝ていようものならフォカロルに叩き起こされていただろうなと思いながら広間に顔を出せば、フォカロルはアジトの仲間に囲まれあれやと気を遣われていた。立ち直るにはまだ時間がかかるだろうなと見つめているとフラウロスに捕まった。今ならアイツの目を気にしないで酒飲めるぜ、ええなあ、フラウロスの提案に乗ったのは今は「クズな友人」でいる必要があるからだった。押しの強い仲間からの声かけに律儀に返事をしているならもしかしたら説教かます余裕も出てくるかもしれんな、と酒風呂なんて馬鹿げた提案をしてみるが、それに乗ったのはフラウロスだけだった。俺に説教をする資格なんてない、聞こえてきた弱音に思わず力が抜ける。説教するのに資格が必要なんか。やがてフォカロルはソロモンに連れられ出かけていった。うまくいくとええな、とだけ思って真面目に酒風呂のための湯を沸かしに行ったフラウロスを止めに行く。わざわざ湯で酒薄めてどないすんねん。なんだよじゃあそのまま入れればいいのか。ちゃうわアホ、誰やこんなアホみたいなこと言い出したの。
     お目付け役の代打を買って出たウァレフォルの静止を程よくかわし好きなだけ酒を飲んだ。フォカロルの代わりとしてアジトを見守るウァレフォルはフォカロルと違ってすぐさま獲物のダガーを振り回すのでいつもとひと味違ったスリルがあった。夜更けまでたらふく酒を飲んでから部屋に戻り、翌日目覚めたのは昼過ぎだった。明らかに狂い始めた生活リズムに苦笑しながら、昨夜アジトに入ってきたソロモンからの連絡を思い出していた。「フォカロルの武器を治せる職人に会えたが事情があり戻るのはしばらく先になる」そんな内容だった。その報告に多くの仲間が安堵した。自分も漏れなくその一人だ。こんな様子じゃ戻ってきたら怒られてまうな、言いながらも身体はベッドの中で寝返りをうつだけだった。昼間に起きたところで何もやることが思い浮かばない。いつまで寝ている気だ?と枕元にいつもの彼が立っている幻覚まである。あかんまだ酒抜けてへんわ。毛布を深く被るとまた戻るのかとまで言ってくる。うっさいわ、幻覚は黙っとき。あかんとは思っとんのや、でもフォカロルがおらんとどうにもならん。


     思い起こせばアジトに留まるようになってからはじめのうちはこんな風な生活リズムだった気がする。アジトに部屋をもらってもはじめのうちは女の家に転がり込むことが多かったし、夜中に気にせず帰ってきたり何日も戻らなかったり好き勝手に過ごしていた。きちんと朝に目覚めて夜に眠るという習慣が身についたのはあの日フォカロルに助けられて、共に死地をくぐり抜けてからだ。
     それまでフォカロルはカスピエルに注意こそすれうるさく説教などしてこなかった。言っても無駄な部類の男だと思われていたのだろう。ろくでもないやつだと思っていた、と彼はあの時口にした。そして誰よりも自分のろくでなしを憎んでそれを甘んじるしかなかったカスピエルの本心にフォカロルだけは気がついた。「クズが嫌いならクズをやめたらどうだ?」彼が放った言葉は今でも時折カスピエルの胸を強くえぐってくる。以来、川が海へ流れるように自然と共に過ごす時間が増えていった。日の出と共に叩き起こされては鍛錬に付き合わされ、夜は身体を重ねたり、狭いベッドに無理矢理身体を寄せながら語っているうちに眠りにつき、明朝また起こされる。夜に会わなくても朝食に顔を出さなければすぐさま部屋に飛び込んできて無理矢理活動させられた。気がついた頃にはあの時と比べると遥かにまともな生活をするようになってきていて、朝食の時間に起きてきては子供のメギド達と他愛ない会話をすることも増えた。昼間はフォカロルの倉庫の整理を手伝うことが増え、意味もなく王都にでかけては適当な女を見つけて空虚な時間を過ごすことも減った。手帳のメモが全部埋まるほどの「使える女リスト」は気がつけば半分以上が線で上書きされ、消えていた。女を利用できる駒だと思うことに罪悪感すら覚えるようになっていた。純粋に自分とのデートや会話を楽しんでくれる女だけを残し、必要以上に貢いだり自分に依存しきっている女達はできるだけ言葉を選んで丁寧に謝罪と離別を重ねた。クズが嫌いなクズはいつの間にかクズが嫌いなだめな奴程度までランクが上がっていた。
     目が覚めても特にやることが思い浮かばず隠し持っていた酒を少しのんだがあまり進まなかった。そういえばいつもフォカロルが行っていた倉庫の整理はどうしただろうとこっそり倉庫を覗きに行けば何やら騒がしい。「マジックオイルは96個…昨日と変わっていないわ」「えーと、マジックオイルは96個ねありがとう!」アムドゥスキアスとブエルの声だ。子どもたちがやっとんのかい、大人たちは何しとんのや、自分は昼間から酒を飲んでいたことはすっかり棚に上げ、高いところに置いてある道具と武器なんかの整理は子どもたちだけでは危ないだろうと手を貸しに行こうとする。ノブに手をかけようとする瞬間「まだかかるのか?」と退屈そうなブネの声が聞こえてきた。しっかり者の子どもたちはきちんと保護者も連れてきていた。よくよく聞いてみれば子どもたちのかしましい声の中に落ち着いた調子の声が程よく混じっている。ブネは今回ソロモンたちに同行しなかったので暇だと思われたらしい。あとはアンドラスだろうか。それなら俺の手伝いはいらんなと倉庫を後にして広間に顔を出せばフラウロスがソファでだらしなく寝転がっていた。あちこちに空の酒瓶が転がっていて、一体なにをしていたかなんて手に取るようにわかる。こいつホンマにダメなやつやなとやはり自分のことを棚に上げて彼を見る。状況はよくわからないが朝から飲み続けていたのだろうか、であれば早く起きたという点においてはカスピエルよりまともである。どうでもええかと思考に見切りをつけ広間を後にする。もう少しすればウァレファルあたりが彼の痴態を見つけ厳しく制裁するだろう。部屋に戻っても特にやることが思い浮かばず、かと言って王都に出掛ける気も起きなかった。取り敢えず寝て夜もだいぶ経った頃に起きて広間に行ってみればメフィストとインキュバスが馬鹿みたいに騒ぎながら酒をコインに博打を始めていたので喜んで参加した。この日も明け方まで飲んで騒いだ。


    「新しい武器を作る…ね」
    「そうなんだ。しばらくフォカロルはいないけど、いない間くらいはしっかりしろって言われたからさ……」

     あんまり好き放題しないでくれよ…?年若い主にそう頼みこまれてはカスピエルには逆らえない。善処するわ、お疲れさんと労りの声を掛けてその場を後にする。広間を通りかかると隅でまたしてもフラウロスがソファを占拠して爆睡している。昼間からご苦労さんやな。彼が抱えたままの酒瓶がまだ半分ほど残っていたのでそれをありがたく頂戴する。はじめこそフォカロルのいない自由な酒盛りを楽しんでいたフラウロスだったが、数日もするとなんかつまんねえなと言い始め、飲む酒の量が見るからに落ち着いた。次第にはカスピエルが提案した酒風呂にまでケチをつける始末である。馬ッ鹿じゃねーの、そんな無駄遣いするならありがたーく飲めよ。当たり前やろアホか。提案したのはカスピエルだが、本気にして乗っかってきたのはフラウロスだけだ。すぐさまウォレファルに止められたが、あれを本気で実行したら流石にカスピエルも引く。カスピエルにしてみればあれはただの口車でしかない。もしかしたらそれに反応したフォカロルが説教でもしに飛んでくるかと思ったのだが大外れだった。ただそれだけのことなのだ。
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    kasaikuzu

    MOURNING帰ってこなかったフォのカスフォカ彼が約束もなしに部屋にやって来たのはおそらく最初で最後になるだろう。控えめで規則正しいノックの音でカスピエルにはその主が誰だかすぐにわかった。眠る前に一杯と以前に倉庫からくすねてきた秘密の酒をグラスに注いだところであった。彼が来るとわかっていたら絶対に手を出さなかったのだが、今の彼が見たらいったいなんと言うのだろうか。


    「すまない、寝ていたか」
    「いや、まだ起きとったで」

     とりあえず中入りや、扉を開け放して迎え入れると憔悴しきった表情にわずかばかり安堵の色が伺えた。めずらしいなと一言かけると自覚があるのか先程の不安げな様子がまた顔をのぞかせる。目を伏せ、しおらしくなってしまった肩を支えてベッドの上に座らせると彼の身体からはふわりと黒い油の臭いが漂った。

    「武器見とったんやな」
    「何かしていないと落ち着かない」
    「無理ないわ、随分大事にしとったもんな」

     昼間に幻獣退治に向かったフォカロルが壊れた武器を手に戻ってきたのは夕刻を過ぎてからだった。力を取り込む核の部分が壊れてしまったのでこれ以上手の施しようがないのだと。茫然自失のフォカロルは帰って来るとすぐさま少し一人になりたい 5573

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