『俺が嫌いな俺を好きな彼』「……何それ、いつ買ってきたんだよ」
大学から直でバイトへ行って、疲れて帰ってきてみれば共用のダイニングルームのソファを占領して、朝には見かけなかった巨大な熊のぬいぐるみを抱えたデカい男が、二人掛けのソファがもうどこにあるんだというくらいの状態で、のびのびと寝そべってテレビを見ている。その姿に、自分の体から疲れのせいだけじゃない溜息がどっと噴き出した。
「先週ネットで注文したのが、今日届いたんだよね~」
若利くんみたいで可愛いでしょ、と言うが、残念ながら自分にはあの大男も、2メートル級の巨大熊も可愛いとは思えなかった。
「自分の部屋に持って帰れよ? 俺、そういうの好きじゃないし」
「エッうそ! 孝支くん、モコモコするもの好きじゃん」
「2メートル近いのが既に一人いるのに、これ以上部屋狭くすんなよな」
風呂入る、と断って、俺がソファを横切って行こうとすると、伸ばされた大きな手のひらが俺の手を掴む。
「何それ、嫉妬~?」
熊を抱えたまま、フフフと歪められた口角が下から覗いてくる。
「はぁ? 俺が、誰に」
「若利くん。この間も、アドラーズの試合一緒に観た帰りにさ、今とおんなじ顔してた」
反論しようとして、カッと沸騰したのは脳みそだけじゃなかった。くっそ、俺だってあれが嫉妬だなんて、気付いたのはつい最近なのに。
俺には一切牛島と被る部分がない。身体的にも能力的にもまるで正反対。性格だって……天童と一緒に暮らすような事態になる前までは、俺はもっと前向きで、ポジティブで、
「……なんで分かんないかなぁ~。俺は孝支くんが真っ暗な人間だって知ってたよ。俺に"またやるから"なんて挑んできた時からね」
抱えていた熊を横へ押しやって、天童は両腕で俺をぐっと引っ張り、その細いが俺より広い胸の中にぎゅうと抱き込む。
「あんな強がった顔より、今のが断然可愛い……俺にだけだよね? こんな泣き顔見せてくれんの」
「泣いてねーし……」
涙なんか出てないし、ただただ悔しくて、自分が情けなくて、こいつと一緒にいるとどんどん自分に自信がなくなっていくのに。
「……んな、デカいのじゃなくて、もっと俺サイズの買えよな」
「孝支くん、好きだよ」
まだ、信じられない。何度聞いたって、何度キスされたって、俺は決して牛島には勝てないのだから。