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    Liru

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    小説/製作途中と倉庫

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    Liru

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    ハイノイ
    AAに使いとしてやってきた天使だったノイ
    戦いが終わりその役目も終わりが近づいていた

    ##種

    翼を失くした貴方へ ここ数日、ずっと探していた姿を捉えて、これは逃してはならないとアルバートはその手を伸ばした。
    「やっと、捕まえました……!このままミレニアムが出港するまで話せないかと思いましたよ」
    「っ、はぁ……」
     目が合って走り去ろうとしたところを強引に腕を掴まれて人気のない甲板に引き連れられたアーノルドはその勢いに観念して柵に手をついて息を整えていた。
    「もう一度ちゃんと伝えさせてください。私は貴方のことを好いています。大好きです。もちろんそれぞれの任務がありますし、私も今からプラントに帰ってしまいます。ですから、すぐにどうとかいうことでは無いのですが、ただ私のことを少しでも本気で考えていただければ嬉しいです」
    「お気持ちは嬉しいですが、あなたの望みを叶えることはできません」
     アルバートから紡がれた言葉は大方予想通りのもの。ただ、アーノルドはその想いに応えることができないことを自身でよく分かっていた。
    「返事は今すぐでなくともいいのです。一緒に艦に乗っていたこの期間、私が貴方に惹かれるには十分な時間でしたが、私のことを知っていただくにはまだ足りないと思っていますから」
    「時間をいただいても変わりませんよ」
    「私が貴方の中で好かれるのに値しない人間であるとか、恋人や他に想い人がいらっしゃるのであれば潔く身を引きます」
    「そういうことではないんです」
    「では……」
     普段のアルバートからは想像もできないような熱い視線で必死に訴えかけてくる。このまま逃げ切れるのが一番だと、なんとか彼が出港するまで明確な言葉を受け取らないでおこうとしていたのに。
    「あぁ、くそっ……あんたは十分魅力的な人ですよ、それとまぁ……そういう意味で好んではいます」
    「じゃあ何故……!」
    「あなたの期待に応えられないからですよ」
    「何が障害ですか、種族の違いや性別が問題であれば、そんな時代遅れの人間が言うことは捨ておけばいいし、問題が発生するなら私が排除します。業務上の所属における物理的距離であれば、少しお時間はいただきますがどうにでもします。仕事の仕方なんて変える為にありますから」
     その熱量は想定以上で、思わず本心を洩らしてしまった。こう言えばアルバートには誤魔化しが効かないと自分でも分かっていたはずなのに。真実は決して伝えるつもりはなかったのになんと意思が弱いことか。もしかしたら納得してもらえなくとも、ただ伝えたくなったのかもしれない。
    「そういうことでもないんです……んー、絶対信じてもらえないような話しますけどいいですか?」
    「貴方の言うことを信じないというのはないのですが」
     聞きましょうとデバイスのつるを押し上げながら言うアルバートに背を向け空に手を伸ばす。
    「大尉は天国って信じてますか?」
    「天国ですか……どういう定義かにもよりますが理想的な環境という意味でしたら概念として認識していますが、神というものがいる我々の暮らすこことは別の世界という意味でしたら、この宇宙の全てを観測できている訳では無いので、否定もできないというところでしょうか」
    「あなたらしいですね。では、天使なんていうのはどうでしょう?」
    「それも同じく観測できていないので、肯定も否定もできな​────い」
     目の前に突然広がった視界を埋め尽くすような羽は太陽の光を受けて煌めいている。純白の鳥の羽だってこんな光の屈折はしない。そしてこの摩訶不思議な物体がアーノルドの背中から広がっていることに気が付く。
    「なんですか、これは!」
    「その天使というものなんですよ、俺」
     振り返ったアーノルドの柔和な微笑みも羽が生み出す光によって煌めいていて、その表情までもが天使そのものだと言われても納得しそうだが、目の前の光景を持ってしてもすぐに理解できるものではなかった。驚嘆の表情のまま固まっているアルバートを見て笑っているのか何かを憂いているのかどちらとも取れない表情のアーノルドはそのまま語り始めた。
    「俺が乗っていたアークエンジェル、その名の通り大天使が名前の由来ですが、あれ半分本当のことなんですよね。大天使そのものではないですが、アークエンジェルはその加護を強く受けている艦で、俺はその加護を授ける時一緒にやってきた使い、つまり天使です」
    「そんなこと簡単に信じられるわけ」
    「あんたにも見えてるんでしょ?この羽」
     同意の言葉は無いが、アルバートの目がそちらに吸われている。
    「面白いことに見えていますね​​────」
     そのままブツブツと呟き始め、思考を整理する時のいつものモードに入っている。アルバートなりに告げられた事実と目に今見えているもの、過去の出来事を整理して理解しようとしているんだろう。
     自分の正体を明かしたことは正直どうでもいい。コーディネーターだナチュラルだというよりさらに別物の種族ではあるが、こうやって普通に話せて過ごせているのだから。それよりも自分が今このことを話した訳を伝えなくてはいけない。
     重い気持ちを押して話すかというところで、ある程度整理がついたのかアルバートが先に口を開いた。
    「……アークエンジェルが無くなった今、貴方はどうなるのですか?」
    「鋭いですね」
     今まさに自分の口から告げようとしたことが疑問として一番に投げかけられ、溢れる感嘆の笑みを手で押える。
    「本来なら消滅した時点で役割は終了しているのですぐ帰るのが決まりなのですが、あの戦いの最中皆さんを置いていけるほど俺は割り切れないんです。無理を言ってこの戦いが終わるまではという約束で残りました」
    「ということは……」
    「はい、もう帰らなくてはなりません」
     戦闘は終了した。アークエンジェルのクルー達と共にオーブへ戻ってから報告までがなんとかアーノルドがここに留まれる限界だ。それでも好意を寄せてしまったことを自覚したから、想われていることに気がついてしまったから、送り届けるという名目で着いてきたアルバートが帰るまでは業務を残して留まれるようにした。
    「貴方は!何も言わずに消えるつもりだったんですか」
    「ええ」
    「それが一番いいと?本当にそう思っていたんですか。突然何も知らされず残されるこちらの気持ちにもなってください」
     胸ぐらを掴んで訴えかけるアルバートの顔はやり場のない怒りを通り越して今にも子供のように泣きそうで、宥めるように思わずそのふわりとした髪に指をすべらせたくなる。でもそんなことはできない。襟元を掴んでいるアーノルドの手首に手を添えて押し返しそっと一歩下がる。
    「……少し時間が経てば俺のことなんて忘れます」
    「私の貴方への想いがその程度だと」
    「そうではありません、そういう仕組みになっているんですよ。俺のような特異な存在は記憶に残らない、そこに誰かがいた事実は残っているけれど、個人を特定するような明確な記憶や記録は無くなる、そんな世界のシステムです」
    「では、どんなに私が貴方のことを忘れるつもりがなくともそうなると」
    「そういうことです」
     確定している事実を淡々と述べているはずのアーノルドの瞳から玉のような泪が溢れ出す。光をうけて虹色に輝くそれは重力下であるこの地上ではありえないはずの球体を保っている。
    「……すぐではないんですよね、忘れてしまうのは。それなら貴方のことを全て忘れてしまう前にまた貴方に会ってみせます」
     光の粒を周囲に浮かべながら困ったように笑うアーノルドに堪らず、アルバートは手を伸ばし抱き寄せる。
    「絶対です。僕に不可能なことはありません。貴方のことを再び遣わしてもらえるような、貴方のための完璧な艦を造ります。そして次は何があっても絶対に落とさせません。このアルバート・ハインライン、持ちうる全ての技術にかけて誓います」
     芯の強い良く通る声に包まれ、確かにその意思がしっかりと伝わる。自分がいる未来を疑わず見ているアルバートに泣いている場合ではないと、アーノルドもその先へ目を向けるように顔を上げる。
    「斬新なプロポーズですね」
    「返事は戻ってきた時に聞かせてください」
     そう言って強く抱き締めていた腕を解き左手を取ったアルバートは恭しく跪き、様になる姿で薬指の付け根に口付ける。
    「さよならは言いません。次は新造艦の進水式でお会いしましょう」
     夕日を背に応えるように我らの天使は翼を羽ばたかせた。
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