ループトラップ「これは何かね?」
後ろからかけられた声にキーボードを打つ手を止めハインラインが振り返るとコノエが立っていた。その手の中にはグレイッシュブルーのスピネルが埋め込まれたタイが握られている。
「先日、私が貴方にプレゼントしたポーラータイですね」
作業が一段落ついた頃、寄港した街で目に留まったそれは彼の少し色素の薄い瞳の色のようで、思わず手に取ったものだった。薄暗い部屋の中でモニターの光を反射し輝くスピネルは想像通り彼に良く似合う。
「んー、そういうことじゃあないんだよ……こういうものを仕込むのは感心しないな」
カチッと爪に弾かれて外れた装飾の下から現れた基盤をハインラインに向けたコノエの軍帽の下からは怪訝というよりは冷ややかな目が覗いていた。その眼差しに思わず喉がごくりと鳴る。
「嬉しそうな顔されても困るんだがね」
指摘されて自分の口元に手を当てると口角が上がっていたのが分かる。これはこのことに気が付いた彼の察しの良さへのものか、その目線へのものか。
「それで、これは?」
「位置情報を取得できる程度のものです。この艦の中でしたら僕の方で把握できるので何かあればすぐ対処できますが、外となるとそうともいかない。周囲の状況を認識してエマージェンシーの発信と追跡ができるようにしてあります」
彼は律儀な人だ。贈り物として渡せば、数少ない外でのオフには大体身につけてくれるだろうと踏んでいたが、それよりも見つけるのが早かった。
コノエはふむ……と、顎に手をあて唇をなぞる。載せられていた機能は思っていたより可愛いものだったが、その真意はどこにあるのかな。もしかしたらアルバートは自覚していないのかもしれないが……さて。
「僕は君が望むなら首輪をしても構わないよ」
「い、や……そんなつもりは……!」
再び装飾の蓋をはめ直したタイを首に緩く掛け、その紐の先を掴ませる。
「無いとは言わせないよ?」
タイを締めるよう促せば微かに震える指先で金具を押し上げる。口を固く結び吸い寄せられるような目でこちらを見上げてくるのは可愛いものだ。だが、彼は機械がフリーズしてしまったようにそのまま微動だにしなくなってしまった。それでも、その中でも再び大きく唾を飲み込むのを見られたのは良い土産か。あぁ、でもこのままにしておくのも可哀想かな。今日はここまでとするか。
「意地悪しすぎたかな?」
紐を掴んだままの手の甲を握ると、やっとまともに息を吸っていつもの表情に戻る。
「……狡いです、アリョーシャ」
「知っているだろう?」
本当にあなたは狡い人だ、と言いながら手を引かれ抱えられるように胸の中に収められた。