どこからここの住所を聞きつけたのか。
最初に出た感想はそんなところだった。
ようやく軌道に乗り始めたレストランの経営。それでもやることはまだまだ多い。全ての仕事を終え疲れ切った身体を引きずりながら、夜半過ぎにようやく辿り着いたマンションのポストの中にあった封筒に、善は嫌な予感がした。
そして、それは的中する。
くるりと封筒をひっくり返し、差出人の名前を見た瞬間、これ以上ないと思っていた疲労感が倍増したのを感じる。
……このまま破って捨ててしまおうか。
なんて、出来もしないことを考えながら、部屋へと戻った。
部屋に戻ったところで、すぐにその封筒を開ける気にもなれず、軽くシャワーを浴びて冷蔵庫から缶ビールを取り出す。
別に大して美味くもなければ酔うわけでもないのに、長い時間を過ごすうちに習慣となってしまったその風呂上がりの一口目を喉に通すと、ようやく一日が終わった気分になれた。ビールと一緒に持ってきたチーズを口の中に放り込んで、さっさと一本目を飲み干す。ほとんど一気飲みに近かった。
そのまま普段は飲まない二本目に手を伸ばす。
――なんで一杯目ってこんな美味いのに、二杯目以降ってあんまり美味しく感じないんだろうな。
遠い過去にぼやいていた声がする。
だったら無理して飲むんじゃねえよ、と半分から減らなくなっていた缶を奪い取るようにその手から取り上げると、何すんだよ、と咎めるような声とは裏腹に、アルコールが回りほんの少しだけ赤くなった目元が緩んだ。
……あれは一体いつの記憶だっただろうか。
缶を持ったままソファに身体を埋める。こんな時に思い出すことなんて、碌なものじゃない。いっそ、このままもう何も無かったことにして寝てしまいたい衝動に駆られた。
ダイニングテーブルに放置されたその封筒を開ける勇気は、まだない。