「やだ! 善さん助けて!!」
「諦めろって」
目の前に聳え立つ山の如く堂々とそこに在る乗り物に、派閥は二分されていた。
と、言っても片方は一人しかいないわけだけれど。
この遊園地で一番の乗り物と言っていいだろう、木製のジェットコースターを前に、霞は善の腕を取り絶対に行きたくないと首をぶんぶん振っていた。
柊と雄三はどちらでも、という顔をしているが、紘と幸夫は絶対に乗ると譲らない。こうなってしまえば、霞が勝つ可能性はほぼゼロに等しいだろう。
「霞、乗ったら怖く無くなるって」
「やだ! 紘はヒーローのくせにそういうことするわけ!?」
「そこは関係ないだろ! じゃあなんだ? 一人で待ってんのか?」
「それもやだ……あ、善さん一緒にいてくれるなら待ってる」
「別にどっちでもいい」
「あ、おいずるいぞ! こういうのは全員で乗るから楽しいんだろ!?」
キャン、と一際大きく叫ぶ紘の声が騒がしい園内に響く。いいから早く決めてくれ。と、思っていたら、先に痺れを切らしたのは今し方コーヒーを飲み干した柊のほうだった。
「あーもううるせえな、俺が待っててやるからさっさと4人で乗ってこいよ」
「えっ柊さん待っててくれるの? やった!」
「………………分かった」
その言葉に、渋々ながら紘が引き下がる。
これは入団当初からの謎だが、紘はどうにも柊には従順に従う。最年長のこちらにはいちいち噛みついてくるくせに、この差は一体なんなのか。まあ、こいつが大人しく言うことを聞いていても気持ち悪いと思ってしまうのも本音だが。
「ほら、さっさと行くぞ」
「霞も今度は乗ろうね!」
「嫌!」
そうと決まれば、と雄三と幸夫がさっさと乗り場へと続く列に進んでいく。その後ろを追いかけるように紘が続き、その後ろをついていく。
その場を離れる瞬間、後ろから「貸し一つな」と聞こえた声は無視をすることにした。
何しろ、無事に乗れそうで何よりだ。
乗りたくない派は一人。
中立が二人。
乗りたい派は三人。
まあ、そういうことだ。
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実は絶叫大好き善さん
紘くんと柊さんは知ってるのでなんとか乗せてあげようという優しさがうんたらかんたら
(うちの)霞ちゃん、善さんのこと駆け込み寺扱いしがちだなと思ったので反省はしてるけど多分これからもする。
ちなみに乗る乗らない戦争してるコースターは今は亡きホワイトキャニオンだよ!