加護は届かずここ数日で、はじめの様子が変わった。
あからさまにではないが、オレとの接触を避けるようになった。
はじめ自身は普段と変わらぬようオレと接しているつもりのようだが、とても誤魔化せるものではない。
恋人であるオレに対して、致命的な隠し事が出来たのだ。夜の生活もさりげなく(ともいえないが)逃げられていた。
そしてとうとう、キスすら拒まれる事態になってしまった。
あぁ。ここまで来てしまったか。
恥ずかしがり屋のはじめは、照れ隠しでキスを拒むことはこれまでも多々あった。だが、今の様に怯えて反射的に身を引かれたのははじめてだ。
そうか、もう、オレとキスすることすら辛いのか……
それでも急に寝台を別にするのはさすがにオレが察すると思ったんだろう。はじめは今日もいつもの二人での寝台に潜り込んでいる。
寝台の上ではじめは、オレに背を向けて耐え忍ぶように身体を震わせていた。オレに対するやましさと、痛みに苦しみながら。
わかっているんだ。はじめは、オレに知られることを何より恐れている。オレが気付かないよう願っている。
でも。なぁ、はじめ。オレが普段、どれほどお前を見つめ、お前の事ばかり考えていると思うんだ?
そんなオレが、お前の身に起きたことを察しないはずがないだろう?
わかっている。
もう、今のオレでははじめを癒すことが出来ない。はじめを癒せるのは、オレじゃない。
悔しい。
オレは、いったいはじめのなんだというのだろう。こんな事態になるのを、止めることも出来ずに。
けして、はじめを責めるつもりはない。
オレの責任だ。
オレは、はじめを大切に想うあまり、はじめに甘く甘く接し過ぎた。
甘やかしすぎたんだ。
それが、いつの間にかここまではじめを追い詰めることになってしまった。
もう、逃げることは出来ない。はじめがオレを拒絶する言葉を発するのを恐れて、これまで知らぬフリをしてきた。そのツケが、回ってきたんだ。
覚悟を決めなければいけなかった。
オレははじめを、笑顔で淀みなく相手に託さねばならない。はじめがこの先の人生を、憂いなく歩めるように。
オレの大切な大切な、はじめなのだから。
オレから言い出さなければ、はじめは前に進めない。だからオレは、自身に対し心を鬼にして、自分を捨てて、お前にオレの苦渋の決断を告げよう。
オレの覚悟を聞いたはじめが、泣きそうな表情で顔を強張らせる。微かに首を振って、この状況を認めまいとする。
そうだな、オレのこの言葉を、お前は聞きたくなかったはずだ。そのために、自宅ではオレの傍で、けしてオレに知られないようにと耐え忍んでいたんだろう?
だがはじめ、オレがお前に与えてやれなかった、お前自身の安らぎの為なんだ。
オレはいつだってお前が笑顔でいることを願っている。
オレは覚悟を決めた。だからどうか、お前も覚悟を決めてくれ。
「さぁはじめ観念するんだ。行くぞ、歯医者」
「いやだぁぁぁぁ!!うぁぁぁぁぁぁ!!唐次さんの鬼ぃ……!!からづぐざんなんが嫌いだぁ…………」