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    Nom_Ishi

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    Nom_Ishi

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    いつもの新婚唐はじシリーズですが、今回はたかしくんが主役です。
    あつしくんはほぼ出ないけどあつトド。
    唐はじと大丁、かすかに十カノ要素も含んでます。

    末弟たかしくんの受難。ちょっと口の悪いたかし君です。

    御祝儀鳥皮ああもうこれなんて罰ゲーム?
    助けてあつしくん、十四松兄さーん。

    いまボクがいるのは、都会の雑踏と喧噪の中でも更にその中心とも言える飲み屋街の中の一店舗。
    いや、ゆるりとした田舎の喫茶店マスターが職業のボクには、それだけでも居心地よくないんだって。
    一応個室を用意してもらったとはいえ、そこかしこから聞こえる下品な大笑いは遠慮なく薄い壁を突き抜ける。うっざ。
    そしてその騒音以上にこの状況を罰ゲーム足らしめているのが、ボクの対面に座ってるふたりの男の存在。

    「いやいやだからさあ!こう……なんつーの?あいつがひとりで家にいるときに行くじゃん?そんで丁呂ちゃん、訪問者が俺だって分かって、照れて目線逸らしながら扉をスー……って開いて迎えてくれるのよ。あれ!!あれさぁ!なんかめっちゃエロくね?愛人のお迎えって感じじゃね?」
    「ひとの大事な弟つかまえて愛人とか、冗談でも馬鹿な事言うな大蔵。ちなみにうちのはじめなんか、仕事で疲れて帰ったら笑顔で『おかえりなさい』ってお迎えのちゅーしてくれるぞ!」
    「え。それ毎日?」
    「え。……いや……年に……2、3回くらい……。いや!でも!笑顔でお迎えしてくれるのは毎日だからな!?」

    互いの恋人自慢してるこのふたり。ちょっと認めたくないけどボクの兄。六つ子兄弟の長男と次男。そしてボクは末弟。
    なんで末弟のボクが馬鹿長兄ふたりのお守りしなくちゃいけないんだよ……
    どうせ兄の惚気話聞くなら、自分ちのカウンターで十四松兄さんのピュアッピュアな惚気話聞いて和んでいたかったよ。
    そもそもさあ。うちの兄弟どうなってんの?なんでおまえら兄弟同士でくっついてんの?なぁ長男と三男。次男と四男。
    ボクとしてはボクに害がない限りは好きにしてって感じだったんだけど、これ今の状況充分に害だろ。
    そりゃまあ個室じゃなきゃこんな話出来ないし、聞いてやれるのもお互いを除けばボクくらいしかいないんだろうけどぉ!?
    そう、この長兄たち。自分たちの特殊過ぎる恋愛事情は世間的には許されない。そこはちゃんと自覚しているらしい。だから周囲にはそれぞれの恋人関係は隠している。
    それでも、恋人の自慢や惚気話をしたくてしたくてたまらない。そこでお互いに白羽の矢を立てたってとこでしょ。
    大蔵さん(長男)も、普段田舎のタクシー運転手なんてしてるけど、こうして都会の居酒屋で気安い相手と呑む……って経験もしてみたかったらしい。
    そこで大蔵さんが東京住まいの唐次さん(次男)に提案して、東京でこんな『互いの恋人惚気合い会』が開催されてるわけ。
    そこになんてボクが巻き込まれてるか?
    うん、ボクも逃げたいわこんなん。
    でもさぁ。はじめさんがさあ……
    大蔵さんが遊びに来るって聞いたはじめさん。けれどその日は所属している大学の学会直前かなにかで、どうしても時間が取れないんだって。
    とはいえ、たとえ相手が大蔵さんといえども、唐次さんに他の人と二人きりで過ごして欲しくないんだってさ。
    そこでちょくちょく東京に遊びに来てるボクに恥を忍んで頼んできたというわけだね。
    ちなみにはじめさん。ボクと十四松兄さんなら、唐次さんとふたりきりでも許容できるんだって。そこの信頼は嬉しいけどね。
    というか絶対長兄ふたり、はじめさんの不在を見越してこの日に飲み会設定しただろ。
    嫁の惚気を存分に語るには、嫁自身はいない方がいい。実際はじめさん同席ならはじめさんが耐えられなくて会が成り立たない。
    まあね。十四松兄さんは赤鹿から出ないし。そもそも十四松兄さんだと場をカオスにしそうだし。
    丁呂介さんにははじめさんと同じく、丁呂介さん自身を対象にした惚気話なんて聞かせられないだろうし……(ていうか、丁呂介さん、この会の開催知ってるのかな。大蔵さん、内緒にしてる可能性高そう)
    はじめさんのたってのお願いじゃあ、ボクも断れない。十四松兄さんとはじめさんには弱いんだよなぁ、ボク。
    そんなわけで、こうしてこの場に同席する羽目になったわけ。
    ただし!!生々しい話はNG!!それは絶対だ。どこの末弟が、兄たち同士の情事なんか聞きたがるんだよ。勘弁して!!
    NG話題とボクが判断したら、その都度千円徴収。一応さあ、いわゆる性行為そのものまで行かなければ許容してやるって。これは事前にしっかり二人に言い聞かせた。
    だというのになんでもうボク六千円も徴収してるんだよ。どういうことだよ。いっそ店の数日間の売り上げここで稼いでやろうか?お前らの冬のボーナスここで刈り取ってやろうか?自営業なめんな。
    大蔵さんから「てかなんでお前いんの?」とか言われたけど。うるさいな、はじめさんから監視頼まれてんだよ。そりゃあのはじめさんだから、まさか自分含む兄弟同士での際どいエロ話が繰り広げられるなんて、思ってもいないだろう。ただ長兄の二人きりを阻止してほしいってだけ。でも、あえてそれはボクは言わない。
    あとで話の内容はじめさんと丁呂介さんにチクるためと言ったらまた二人で賄賂出してきた。容赦なくサーロイン和牛ステーキ頼んでやんよ。自分にだけね。

    「あの長い睫がふるふるしてるの見るのも好きなんだけどさぁ。なにもしないと不安になったのか、小声で俺の名前を呼ぶわけよ。その声がもうエロいの!!普段より少し高くて、でもちょっと掠れててさぁ。で、俺もうたまんなーいってなるじゃん!?」
    「はじめは未だにオレがキスしようとすると一瞬緊張した顔になるんだが。でもそのあと『いいよ』って感じで目を閉じてだな。その瞬間のはじめの顔も好きだし……だからその後の反応が見たくなってつい焦らしてしまって、怒られるんだよなあ。でも怒った顔もまた可愛くてなぁ」
    「いや怒るっていうならうちの丁呂ちゃんなんか俺に対しては四六時中ツンツンよ?でもさー、いざ事に及ぶともうメロッメロで。押し倒してあの和服の裾から零れる足から撫で上げていったらさあ……。顔真っ赤にして『やめなさい』とか口ではいうけど。顔背けながらチラチラこっち見て、もう期待が駄々洩れっつーの。マジたまんねー!ビンビンに反応するじゃんそりゃ!もうもどかしくてつい片足無理矢理肩に担い」
    「はーい大蔵さん千円徴収ー。それ先語るなら丁呂介さんに報告ー」
    「ええ!?何でぇ?こっからいいとこなのに!!?まだヤるとこまで行ってねーじゃん!?」
    「うーん、オレもその先聞くのはちょっとな……。でも語りたいのは理解できるんだよなぁ……」

    唐次さんがちょっとしみじみと呟いた。
    唐次さんの方が自制は効くみたいだ。というか、はじめさんのエロイとこ語りたいわけじゃないんだよねこの人は。むしろホントのそういうとこは自分だけの秘密、にしたい性格でしょ。
    だから徴収済七千円のうち六千円が大蔵さんからなんだよ。ちょっと丁呂介兄さんに同情するわ。自重しろよ長男。

    「ちぇー、つまんねえの」
    「丁呂介さんの前で語るならいいよ。何ならみんな揃った新年会の時にでも語れば?あ、丁呂介さんの家って確か日本刀がどっかの部屋に飾ってあったよね」
    「待ってくれ。新年早々流血沙汰は勘弁してほしい。せっかく今回はオレたちも参加するつもりなんだから、そこはどうか切に頼む」
    「あれ?もしかして俺惨殺されちゃう予定?」

    たぶん冗談でもなく、狂気に魅入られた緑土当主に始末されると思うよ。
    新年会で酔っぱらった大蔵さんが口を滑らさないことを願う。ボクだって巻き込まれたくない。

    「新年会っていつだっけ?年末から正月三が日は、唐次とはじめは東京で過ごすんだよな?」
    「まあな。現状オレの仕事がどう転ぶかわからんからな」
    「巧いこと言って、結局はじめちゃんと二人きりでの姫はじめ最優先、だろ?」
    「否定はしない。……その蔑みの目をやめてくれないか、たかし」

    蔑みしかないわ。

    「あれ?そういえばたかしも正月の辺りは赤鹿には居ないとか言ってたっけ?」
    「ああ、うん。東京の友達と初日の出見に行くから……って。何?」
    「……また『あつしくん』、か?」
    「……そうだけど。それが、何?」

    渋い表情の唐次さんの問いかけに、少しだけムッとした声で答える。
    そういえば前にも、あつしくんとのことで唐次さんに問い詰められたことがあったっけ。恋人じゃないのかって。
    なんだろうね。自分たちが男同士だからって、ボクが友人とちょっとつるんでるだけでも変に勘ぐっちゃうのかな。

    「あーあつしくんってアレ?たまに見かけるたかしのパトロン?」
    「パトロンゆーな。ただの友達だってば」
    「いやしかし。お前東京に頻繁に来てるが、いつもそいつの家に泊まってるんだろう?」
    「今日もそのつもりだけど?」
    「……それで何もないのか?」
    「男友達だからね。普通に考えれば何もないよね」

    兄さんたちが普通に考えられなくなってるのはある意味仕方ないけど、ボクはあくまで普通なんだよ。
    ……まあ確かに、一緒に寝たりとかしてるけどさ。ベッドも広いし、別に問題なくない?
    本人仕事中に合鍵で突発訪問しても、たいがい部屋にボク好みのお菓子とかワインとか用意してくれてたりしてさ。居心地よすぎるんだよ。
    でも、仲のいい友人だったら別におかしくないし、問題なくない?

    「でもさー。東京に出てくるだけでも結構な交通費かかるんじゃねの?今回だって俺とは別行動でこっち来てんじゃん、お前」
    「それは……。あつしくんが、なんか。いつでも来れるようにって……電車の回数券みたいなのくれてるし……」
    「はぁ!?なにそれお前の懐全然痛んでねーの?」
    「食事も奢ってくれるとか、前に言ってたな。……それだけしてくれてて、本当にただの友人か?少なくとも向こうは、そうは思ってないんじゃないか?彼女がいる気配もないんだろう?」
    「いやだから……友人だってば……たぶん」

    ちょっと自信が無くなってきた。
    確かに女っ気が全然ないよな。あつしくん上品だから、会話でもいわゆるシモ方向の話なんて出てこないし。
    ……女性に興味がないってのは、あるかもしれない。二人で街にでると逆ナンみたいなのが絡んでくるけど、どんな美人でも毎回ものすごーくスマートな対応であしらってるし。(なお、その際女性から見てたいがいはボクの存在は無いことになってる)
    でもなあ……。別にボクに対して変なコトしてくるわけでもないし。
    ついでに言うとボクが何しても許容してくれる聖人君子みたいなとこはある。
    たぶんアレはお金のある余裕ってやつ。怒ったところも見たことないしなー

    「えーたかしー。俺もあつしくんの友人になりたーい。紹介してー」
    「は?駄目に決まってるじゃん。あつしくんを金蔓にしていいのはボクだけですー」
    「じゃあたかし。もしそのあつしくんに告白されたり、性的に迫られたりしたらどうする?」
    「いや、有り得ないし」
    「あくまで仮定の話だ。どうする?」

    兄二人がちょっと対称的な視線で僕に注目する。唐次さんは相変わらずの渋い顔で。大蔵さんは、思いっきり目を輝かせてる。恋バナ中の女子会かよ。

    あつしくんに告白されたら……?
    いや……断ったら今みたいな関係じゃいられなくなるだろうし……
    もし、あつしくんがホントの本気ってっていうのなら…………
    あつしくんなら……仕方ないかなぁ……

    「はぁぁ……」
    「え、なに?」

    考え込んでる間に兄二人が盛大なため息をつく。なんなんだ一体。

    「即答しないあたりで、もう答えは出てると思うぞ?たかし……」
    「ひゅーひゅー、おめでとー!!お兄ちゃんご祝儀あげちゃう!!ホラこれ鳥皮うめーぞー」
    「ちょっ、何言ってんの!?そんなわけ無いでしょ!!ボクまでお前らの沼に引きずり込まないでくれる!?それから長男!ご祝儀鳥皮はふざけんな!」

    鳥皮は美味かった。



    そうして夜更けに長兄との飲み会が終わった後、予定通りあつしくんの家にお世話になりに行ったんだけど……
    あの馬鹿長兄たちのせいで、なんかボクの方が意識してしまって。
    ほらー、ボクが目線合わせないからあつしくんが困ってるじゃん。
    この先いまのいい関係が崩れたらどうすんだよ。あいつらに損害賠償請求してやろうか。生涯年収じゃあ足りねーぞ?
    ……結局、朝まで一睡もできなかった。隣であつしくん、スヤスヤ寝てるんですけど?いやホントぜんっぜん他意ないでしょこのひと。絶対有り得ないって。
    ただ、ボクの方は、やっぱりあの兄達と同じ遺伝子なんだという嫌なことを自覚してしまった。
    そんなろくでもない、この一夜。
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