真緒が海を越え遠く異国の地を踏みしめる頃、凛月はすっかりくつろいだ気分で歩き慣れた廊下を進んでいた。
真緒の海外ロケが決まったのは突然のことだった。普段はもっぱらユニット毎に行う国内での仕事がメインで、移動を含めても数日程度の規模とはいえ、特にスケジュール調整の必要な海外での、まして単独での仕事となるとそれなりに珍しい部類になる。スーツケースをひっくり返しながら、ああでもないこうでもない、先輩がもっと大きい物を持っているはずだから借りてこよう、インスタントの味噌汁でも持って行くか、等々、本人というより主にユニットメンバーによるささやかな騒ぎの果てに、真緒は旅立って行った。
一方の凛月はといえば、今日片づけなければならない仕事は午前中に全て終わらせたので、あとはもうなんの予定もないオフだった。外は日差しが厳しく気温も高い。のんびり昼寝でも楽しもうと、寮の自室へ帰ってきたところだった。
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