過去の孤独、今そこにある希望(笙主♂)放課後、一緒に帰ろうと部長からWIREが来た。
珍しいと訝しむが嬉しく感じるのは誤魔化せず、教室で待つことにする。
手持ち無沙汰なので窓を見やる。
ふと、現実の自分を思い出す。
昼間でもカーテンを閉め切った薄暗い部屋の中で縮こまるように座っている自分は、過去の罪に囚われて曇った虚ろな目で仕方なく、その日その日を生きている。
もう逃げないで現実を生きると決めた。その決意を捨てるつもりなどない。しかしどうしても、不安と少しの罪悪感を捨てられない。
自分は本当に現実を生きていけるのか。見殺しにした一凛を置いて前を向いて良いのか……。
「笙悟」
聞き慣れた声によって暗い思考の底から引き上げられた。
そして無造作に放っていた手にぬくもりを感じる。
見ると、自分の手に誰かの手が重なっている。
目線を上にずらせばいつの間に来ていたのか。部長の端正な顔が見えた。部長は机を挟んだ向かい側に座っている。
「よかった。戻ってきた」
「……おう」
「ねえ、笙悟」
部長はやわらかく微笑む。
同時に重なった手に力が込められた。ぬくもりがじんわりと沁みる。
「笙悟は一人じゃないから」
時が止まる。
そうだった。こいつはこんな奴だ。相手の底にある気持ちを察して、するりと入り込んでくる。
「俺たちがいる。俺たちは、俺はずっといる。このさきは痛いのも辛いのも一緒に感じていく。それに」
部長は変わらず微笑む。しかし不安げに眉は顰められている。本気で心配してくれているのだ。
「そこには一凛さんだって一緒だ。笙悟がいるから。だから、大丈夫」
瞬間、重なった手から沁み入ったぬくもりは心に達して喜びが突き上げてきた。
曇っていた世界が晴れ渡っていく。
同時に、目の前の男に向ける分不相応な欲望のかけらを自覚した。
なんとも単純な自分に呆れた。
うんざりして自然と呻くような声が漏れる。
「勘弁してくれ…」
「え?」
突然の声に彼が目を丸くして俺を見る。それにかわいい、と思ってしまう自分にも反吐が出た。
end