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    ティアナ

    @Jv0NoX9boQD60J2

    現在、スタオケ小説置いてます。イラスト描くのは苦手。

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    ティアナ

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    唯疾。成宮からの策略?
    少しキャラストネタバレ有です。

    花あかり ~前編~お前と出会ったのは、桜の咲く頃。
    最悪の形で。
    今年、俺はお前と“初めての春”を迎える。


    「竜崎先輩は、朝日奈先輩に抱きつかれたことありますよね?」
    「だっ…抱きって…お前…」

    成宮の突然の問いかけに、竜崎は頬が熱を持つのを感じる。
    朝日奈が誰彼かまわず抱きつくのは、いつもの事だ。
    竜崎も例外ではない。
    改めて聞かれると…両手で足りない程。

    「二人共、いい感じに音が変わったので…頃合いかなと。」

    成宮の言っている意味がわからない。
    含みのある言い方なのは、間違いないが…

    「頃合い?一体何の、だ?」

    翡翠の瞳が、少し怪訝そうに細められる。

    「ほら先輩って、柔らかくて温かいじゃないですか?」

    ふわっと温かい香りと同時に、腕が背中にまわって、やわらか…
    その感覚を鮮明に思い出し、もうどうしようもなくこみ上げる。

    「なっ、何考えて!やわって!」
    「思い出しましたか?わぁ、竜崎先輩もそう思っていたんですね。やだなぁ~。」

    あははーと台詞のように笑う成宮。
    神経を逆なでする、こいつの笑いは嫌いだ。いつも“何か”を含んでいるから。

    「茶化す為に、お前は来たのか!?」

    少し高い位置から、ニヤリと双方の瞳が窺う。

    「いや~、竜崎先輩はわかってますよね。茶化してはいませんよ?」
    「は?」
    「気づいて良かったです。」
    「…そういう事か。いや…気づいていない訳ではないのだがな。」

    ふむ。思うところはある…か…。
    それを意識させる、又は意識する事はあるし、試みてるといったところかな。

    「先輩はきっと、待ってますよ。竜崎先輩が余りにもヴィオラを愛でるのに夢中だから…」
    「それは違う。俺はヴィオラ以上に…だから慎重にっって…言わせるな。」

    俯く竜崎の耳は赤かった。
    わかっているのなら、これ以上の言葉はいらないだろう。きっかけさえあれば、進む。
    確信をし、成宮はスマホを取り出した。

    「…もしもし?はい、俺です。宜しかったらこの間のお話し、2名でお願いしたいのですが。」

    ちょっとまってねと、相手が受話器を置いた音を確認して

    「竜崎先輩、据え膳食わぬは…ですからね?」

    一言、低いトーンでプレッシャーをかけた。


    「わあっ…!ここ?ここだよね?すごいすごい!」

    両手を上げ、子供のようにはしゃぐ。
    少し恥ずかしいが、そういう所は嫌いじゃない。
    朝日奈の前に出て、彼女の喜ぶ姿に頬が緩むのを隠す。

    「おい!はしゃぐな。恥ずかしい。」

    成宮の計らいで予約されたホテル。
    ネットでホテルの外観、特徴等を調査しておいたので、全くの初見ではない。
    服装もそれに見合うよう取り揃えた。内心の喜びを雰囲気に合うように抑え、冷静さを保つ。

    「…もう時間だ。チェックインするぞ。」

    ビクッ…
    肩を跳ねさせる彼女。
    ホテルが豪華だから緊張しているだけではない。
    竜崎も入り口に歩を進める毎に鼓動が大きくなるのを感じる。
    自動ドアの前に二人の警備員。
    歩を進めていく彼らに目を配り、ドアが開いたと同時に左右のホテリエが深々と会釈をする。


    「名前等は一切口に出さないで…んーそうだなぁ…フロントに寄る必要はありません。
    ロビーの一角にガーベラとピンクのカスミソウを用意してもらいますので、そこで待ってて下さい。」

    竜崎は成宮の言葉の通り、朝日奈の手を取りその一角に辿り着いた。

    「り、竜崎…ど、どうしたの?」

    急にそこでピタッと止まったのに、朝日奈は訳が分からず狼狽える。
    少し遠くから品のいい、ホテリエとはまた違った装いの男性が歩いてくる。
    朝日奈より遅れて、竜崎がその男性に気づくと、目を丸くさせた。

    まぁ…あいつのことだから、支配人自ら…というのも珍しくはないのか。
    溜息しか出なかった。
    朝日奈は竜崎の百面相に、ただただ不安な表情を向ける。

    「ガーベラとカスミソウのお客様でお間違いないでしょうか?」

    支配人と思われる男性が、低く柔らかなトーンで尋ねる。

    「は…はいっ!」

    背筋をピンと張った竜崎を見て朝日奈は、もしかして…と察した。
    目線を合わせると、支配人は人懐こい笑顔で

    「そんなに緊張なさらないで下さい。お二人とも。」

    ゆったりとした口調で会釈をしたかと思うと、荷物をお持ちしますよと手を差し出された。

    『え?えっ?でも…』

    二人同時のリアクションで男性は、ふふっと笑い荷物を軽々と持ち歩き始めた。

    「それではご案内します。」


    「ここがお部屋になります。」

    ドアを開けると、窓からの夕陽が視界を満たす。
    影になっているのは、特徴のある枝を持つ樹木。
    はらはらと落ちる影。花びらが一片、また一片と影を作る。

    「幸い、ここは冷えますので見頃になっております。窓を開ければ、いたずら好きな花びらが忍び込んでくるかもしれませんね。」



    目の前の大きな窓には、大きな桜の木が揺蕩っていた。
    設備の説明をあれやこれやとするが、呆気にとられてぽかーんと間抜けな表情で
    固まっている彼ら。
    男性がふふっと小さく笑うと、

    「ごゆっくりお寛ぎください。」

    と静かに男性は会釈をしたあと、パタンとドアを閉めた。

    「…何というか、この部屋だと桜の色が極まっていて…美しいな。」

    うん、と首だけ上下に振って応える朝日奈。
    竜崎は窓の前で足を止め、窓を開けた。
    流れてくる風と桜の香りで、ハッと我に返り駆け寄る。

    「言葉が思いつかないんだけど…」
    「なんだ」
    「すごく、やわらかくてあったかくて…いいにおいがする!」
    「…その語彙のなさはなんだ?」

    柔らかくて暖かくていい香り…
    それを表現できる言葉…
    出てきた言葉を口にするより早く、目の前の彼女がぴったりだと思った。
    同時に、抱きつかれた時の感覚を思い出し、今はこれ以上思い出すなと明後日の方向に視線を反らした。

    「ん?あそこに何か…?」

    近づくと湿度が高いのがわかり、引き戸をそろそろと開けると…
    ふ、風呂っーーー!しかも檜のっ!
    用具一式、二人分揃えてある。
    こ、ここで俺は朝日奈とっっ…!

    「わぁっ~お風呂~!これ、ヒノキ風呂ってやつだよね?」

    心の内を知るか知らずか、朝日奈は竜崎の顔を見上げる。

    「ああ…そうだな…」

    ふぃっと背ける視線。邪な妄想を振り払ったが返事をするのもやっとだった。
    その先には…

    「竜崎?顔真っ赤だよ?」

    知らされていたサイズのベッドとは違う大きさ。
    どこがダブルなのか…
    竜崎はクィーンサイズのベッドに成宮の、してやったりの表情を見た。

    妄想は再び頭を苛ませるのだった。

    鏡には、いつも見ている顔より赤らみ、眉には深い皺。
    目つきが悪いのは自覚しているが、不機嫌に見えるのにも程がある。
    竜崎の頭の中は知識を総動員し、相応しい言葉態度仕草を模索している最中だ。
    この機会を逃せば、暫くは訪れないであろう。
    慎重に慎重を重ね、候補を挙げては逡巡している。

    「恋は人を狂わせる…か。」

    練習室の柱に彫られた言葉を思い出し、目を瞑る。
    あの時、お前の返事は

    「恋、してみればいいのに。」

    断じてないと言い切った相手に…。


    「ねぇ~!竜崎!桜、明かり消したらもっと綺麗だよ!見てみて!」

    もう潮時だ。
    いい加減覚悟を決めろと、鏡に促された。

    「もぅ~!竜崎のお風呂、長い!」

    脱衣所から出て、パタンとドアを閉める。
    感受性の豊かなお前なら、気づいているだろうか?
    俺の言葉全ては、自らを強く思わせるための鎧。
    本当の俺は、ヴィオラにしか見せたことがない。
    意気地なしで、情けない男なんだ。


    桜のライトアップを指さす背中をかき抱いた。

    「…唯。」

    微動だにしなくなった彼女に懇願する。その声は弱々しい。


    「…お前を抱かせてくれ。抱きたいんだ。」

    背から彼のぬくもりを感じ、振り返る。

    「…抱かせてくれだなんて言わないで、抱いて。疾風にしか抱かれたくないよ。」

    琥珀の瞳は近づき、そっと唇を重ね合わせた。






















































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