掌編小説(太刀二①)1.『花言葉なんて、貴方は知らないんでしょうね』
(※トリオン異常で身体に花が生えるようになった二宮さん)
「綺麗だな」
身体から生える花を見た太刀川が放った言葉に、二宮は唇を噛んだ。
何も知らないからそんな無責任なことが言えるのだ。己にとっては生き恥を晒しているも同然なのに。
知りたくはなかった。
今日開花したのはアネモネ。昨日咲いたブーゲンビリアはまだ身体に残っている。その前に芽生えて枯れた、マリーゴールド、ペゴニア、ひまわり、アケビ、薔薇、翁草…。
二宮の身体を養分にする多種多様な花々は、この男に対する感情で溢れていた。
2.『甘えたいんだったら、素直になって』
二宮と恋人になって初めて知ったのは、意外にも彼はスキンシップを好むということだ。
抱き寄せれば素直に身体を預けてくるし、キスも積極的に応えてくれる。
しかし、二宮は自分から仕掛けることはできない。「触れたい」と思っても、プライドの高さと太刀川に対する対抗心が邪魔をするのだろう。
今も、物言いたげに太刀川に向けられている視線を、あえて無視している。彼の意図を汲んでやってもいいのだが、たまには太刀川だって二宮に求められてみたい。
我慢はいつまで持つかな。
不満を滲ませた声が太刀川を呼ぶのを想像し、にやけそうになるのを必死に抑えた。
5.『毒には毒を』
(※二宮さん喫煙者)
二宮とキスをしたとき、独特の苦味と微かな紫煙の名残が太刀川の舌先を刺激した。
唇を離した後、太刀川が思わず「苦…」と呟くと、二宮は眉間に皺を寄せる。
「文句があるならするな」
「キスに文句は無いけど、お前また本数増やしただろ。体壊すぞ」
「俺の勝手だ」
不機嫌になった彼が離れていこうとするのを、肩を抱いて阻止する。
意外にも抵抗しなかった彼の顎を持ち上げて、太刀川はにやりと笑った。
「口寂しいならずっとちゅーしといてやろうか?」
その言葉に、二宮はフンと鼻を鳴らした。
「できるものならやってみろ」
4.『なんだ、答えはここにあった』
(※高校生太刀→二前提のぼんちトリオ)
最近、二宮を見てるとおかしい。
目が合うだけで嬉しくなるし、他の奴と楽しそうにしてるとイライラする。年上連中に褒められてるのも気に入らない。ランク戦の時に俺を落とそうと全力で向かってくるとゾクゾクする。
俺の悩みを聞いた迅と風間さんが、揃って呆れたように溜息をついた。
「太刀川さん、それ本気で言ってる?」
「馬鹿だと思っていたがここまでとは…」
散々な言われように流石の俺もむっとする。
「何?二人はわかんの?」
不満げな俺とは反対に、迅が楽しそうに笑う。
「…太刀川さんのそれはね」
恋って言うんだよ。
5.『「私は高いわよ?」』
(※太刀二前提の出水くんとひゃみさん)
「何で私に頼むかな…」
「頼むよ!氷見しか無理だ!」
話を聞いた氷見は、思わずジト目で出水を見た。
曰く、彼の隊長とうちの隊長が喧嘩をして、うちの隊長が彼の隊長からの連絡を一切無視している上、徹底的に避けているのだとか。それがすでに2週間経ったとか。そのせいで彼の隊長の機嫌が悪く、鬱憤を晴らすようにランク戦で大暴れして、その苦情と報告書の提出遅れの皺寄せが出水に来ているのだとか。だから氷見のほうからうちの隊長に働きかけてくれないかと。
「嫌」という言葉が喉元まで上がってきている。
隊長の恋愛事情に首を突っ込む気はないし、作戦ならともかく、プライベートな内容で二宮が氷見の言葉を聞き入れるとは思えない。そもそも彼が現状を知ると、火に油を注ぐ結果になるのではないか。
そう思ったが、目の前でさめざめと嘆く出水のために飲み込んだ。
…仕方がない。駅前に新しく出来たパティスリーのフルーツタルト1ホールと焼き菓子セットで手を打とう。