掌編小説(ロビエド)①1.『もう一度、あの夏で』
(※ワンナイトロビエド)
一度だけエドモン・ダンテスを抱いたことがある。
常夏の開放感に酔ったのか、繰り返される修羅場のせいで判断に鈍ったのか。
どちらが誘ったのかすら朧気だが、何回目かのループの夜に衝動的に2人ベッドへ雪崩れ込んだ。
普段は死人のように白い肌が赤く色づく様や、控えめに溢される吐息に、ひどく興奮して貪り尽くした。
激しい夜が明け、特異点が消滅してからというもの、彼とはほとんど顔を合わせていない。
それでも、あの夏の夜の熱を思い出す度に、胸に焦げ付くような痛みが走るのだ。
2.『泣くくらいだったら、笑ってやる』
(※カルデア最後の日の前夜)
エドモンを抱き寄せると、彼は抵抗することなく腕の中に収まった。
自分よりも低めの体温が触れる箇所からじわりと伝わってくるのが心地良く、手放すことが恐ろしい。
「俺は、幸せでしたよ」
「俺もだ」
俺は上手く笑えていただろうか。
彼が返してくれた穏やかな笑顔は忘れたくねえのにな。
我らが偉大なマスターは過酷な道程を踏破し、世界を取り戻した。
そして、明日、俺たちの世界が終わる。
3.『指先に塗られた嘘と本当』
(※片思いロビン)
白い手袋に包まれた手を恭しく持ち上げ、指先にそっと唇を落とす。
「何の真似だ」
「日頃の感謝と尊敬を込めてですよ」
戯けながら返すと、エドモンは呆れたように溜息を吐き、ロビンの手を振り解いて影へと消えた。
手袋を隔てて感じた体温はあっという間に消えてしまい、それがひどく残念な気持ちになる。
さっきの言葉ももちろん嘘ではないけれど、本当は布越しなんかじゃなく肌に直接触れたいって言ったら、アンタはどんな顔をするんだろうな?
4.『泣きたくなるのは間違いだ』
眠るロビンフッドに気付かれないよう、そっと彼の胸に触れる。
「…俺は、お前の名前すら知らないんだな」
「ロビンフッド」という名は、彼の行いがかの義賊と結び付いただけで、本来の名前はおそらくどこにも残っていない。
孤独に戦い、守った人々に裏切られ、最期は誰にも知られることなく命を散らし、それでも人を恨まず、人を愛し、人の営みを尊いものと考える、心優しい青年。
その在り方はひどく純粋で眩しい。
名も無き英雄に敬意を込めて、胸元に唇を落とした。
5.『それは恋なんてものじゃなかった』
(※ロビンがちょっとひどい)
彼とセックスしたのは「なんとなく」だ。
元々俺にとっては愛だの恋だのとは関係ない行為で、手段であり娯楽の一つでしかなかった。彼との関係も、興味本位で誘ったら乗られて、そのままずるずる続いているだけ。
なのに最近はおかしい。
行為が終わったらさっさと出ていくんじゃなくて、朝まで側にいてほしいとか。
ただキスをしたり、抱き締めるだけでもいいとか。
もっと他愛のない話がしたいとか。
欲を発散するだけの、都合のいい相手に求めることじゃない。
これは、まるで。