猫妖精と過ごす「みゃうぁ~」
「ずいぶんと久しぶりだね、おちび」
「にゃぅ~」
開けていた窓からするりと入ってきたのは小さな猫妖精。
半年ほど前にぼろぼろに汚れていたところを保護してからなぜか懐かれた。
「にゃぁ~」
「くすぐったいよ。って、またずいぶんと汚れてるね~」
腕にすりすりと頬を摺り寄せてくるが、その髪の毛や服がだいぶ汚れてしまっていた。
「今度はいったいどこを旅していたんだい?」
なんて聞いてみたところで、答えが返ってくるわけもなく。その猫妖精はキョトンとした顔で首をかしげる。
「さ、お風呂でしっかりきれいにしようか」
「みゃぁ~」
この猫妖精は普通の猫や猫人族と違って、水にぬれることをそれほど嫌がらないようだった。「個体差がある」と猫人族の友達は言っていたけれど、ここまで受け入れ態勢ばっちりなのは珍しいと思う。
服を脱がせて洗濯機に放り込む。この猫妖精、なぜか下着の類は嫌がる。
ぬるめのお湯を大き目の桶にためて、そこにゆっくりとおろしてやる。
足元から少しづつお湯をかけて全身を濡らしたら、猫用シャンプーを泡立てて洗っていく。
初めて洗ったとき、嫌がるかと思って全身びしょぬれになる覚悟を決めていたのだけど、この猫妖精は終始おとなしくしていた。
耳の後ろあたりを洗う時に、くすぐったそうに身じろぎするだけで本当におとなしい。
洗い終えたらバスタオルで包み込み、しっかりと乾かす。
「ふにゃぁ~」
落ち着いたような吐息を漏らしながら、その猫妖精はリラックスしていた。
まだ服は乾いていないので、別のバスタオルをしっかりと巻いてやる。
腰に手を当ててドヤっとしているさまがなんともかわいらしい。
「ほれ、飯にするぞ」
「にゃぁ~ん」
彼(?)が来たときはいつも握り飯を握る。最初に食べて気に入ったのか、うちに来ると握り飯を喜ぶようになったので定番となってしまった。
漫画で見るように両手で行儀よく持って食べる姿はかわいくて、つい撫でてしまう。
「う?」
「何でもないよ。ゆっくりお食べ」
「にゃう」
その姿を見ていると、いたずら好きと言われる猫妖精とはとても思えなかった。
彼はまたしばらく我が家を拠点とするのだろう。あとで彼が喜ぶようなご飯を作れるように、買い物にでも出かけようかな。
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青年は知らない。
この猫妖精はほかの世界を転々と旅をしていることを。
ある世界では召喚術で騒ぎを起こしてしまい、召喚士協会から追いかけられていることを。
ある世界では強大な竜族にちょっかいをかけて非常食として見られていることを。
さらに別の世界では強いオオカミの縄張りに入ってしまうことでかじられそうになっていることを。
青年が知らないだけで、立派にいたずら好きな猫妖精なのであった。