それぞれの年明け犬見家の場合
「るくくん?るくく~ん?」
とある年明けの朝、「ちょっと仮眠したら初詣行こうね!」と言っていたるくくんは本格的なおやすみモードに入っているようだ。
まぁ、毎年恒例の地獄のジグソーパズル完成耐久を乗り切ったのだからそれも仕方ない。
「でも早く起きて行かないと余計に混雑しちゃうよ?」
「ん~……」
ほっぺをつつきながらゆるく起こすも、さらにゆるい返事が返ってくるだけだった。
柔らかなモチモチほっぺはいつまでも触っていたいほどにかわいらしい。
近所の神社はそれなりの大きさ故に、毎年朝から混雑してしまう。早い時間に行ってしまわないと帰ってくるのがお昼過ぎになってしまうかもしれない。
まぁ、別にゆっくりと出かけて外食というのもいいのかもしれない。
「何はともあれ、とりあえずお雑煮食べよ?お餅は何個入れる?」
「ん~……。2個、入れて~」
「2個ね?おっけ~。温めてくるから、ちゃんと起きてね?」
「わかった~」
温かいものを食べれば少しずつでも目が覚めるかもしれない。
初詣に行ったらあとは炬燵でミカンやアイスでも楽しみながらゆっくりと過ごそう。
そんなことを思いながらいろんな支度をしていった。
祭夜家の場合
「起きろ~!初詣に行くんだろ~!」
「ん~。もうちょっとだけ……」
お世話になっている神社の主神である神様見習いのなつのさんに起こされるも、ここ数日の寒さと疲れからなかなか起きることができない。
「も~。新年早々ちょっとだらしないぞ~」
「でも、寒い……」
「起きればだんだん温かくなってくるから……ってうわっ」
揺り起こしてくるなつのさんを布団の中に引きずり込む。
「あったかい……」
彼の体温を感じていると、心の底から温かくなってくる。
「もう……。あと5分だけだからね?」
そう言って頭を撫でてくれるその手は優しかった。
イツキ家の場合(ちょっとだけ他家があり)
吾輩は猫又である。え?狐拍のところの居候じゃないのかって?それは別の個体である。
リビングでくつろぐラテさんの膝でごろごろと撫でられていると、同居人のかめ殿が帰ってきた。
「ねえラッチー……。その猫、何?」
「なにって、明後日まで預かってほしいって頼まれたんだけど?」
ちゃんと預かるって言ったよ?となんてことないように返すラテさんのその手つきはとてもやさしくて落ち着ける。なかなかのテクニシャンで、油断しているととろけそうになってしまう。
そんな自分を見てうらやましそうなオーラ全開で「ぐぬぬ……」と睨みつけてくる。そんなかめ殿に自分は、ラテさんからは見えない絶妙な角度で「ニヤァ」と見せつけるように笑ってやる。気分は「羨ましかろう?」である。
「ラッチ―!この猫絶対普通の猫じゃないって!おじじ呼んでお祓いしてもらおう」
「何言ってるの?めっくす君。どう見ても普通の猫じゃん?」
「いやいや!今絶ニヤッて笑ったから」
「猫だって笑うんだからおかしなことないよ」
「いや!今のは絶対悪意全開の笑いだって!おじじ呼ぼ!」
「翁君だってお正月くらいはゆったり過ごしたいんだから、迷惑かけちゃだめだよ」
必死に言い募るかめ殿をゆるふわでかわしていくラテさん。変わらず撫でてくれる手はとてもやさしくてついおなかを差し出してしまう。極楽極楽~。
思わずニヤリとしてしまうが、これは許してほしい。それほどまでに心地よいのだから。
「こ、このっ!泥棒猫~!」
一方その頃。(水面(すいめん)家)
「あら?クッキーが足りない……?」
明後日の新年のあいさつ会に持っていこうと思って焼いたクッキーの粗熱をとっていたのだが、そのクッキーが足りない。
味見で食べた分を差し引いても2枚足りないのだ。
犯人は一人しかいないわけだが……。
「お餅8個も食べてまだ足りなかったのかしら……?」
どんな説教も折檻も、ド天然のカウンターで返されるのは目に見えている。
「そうね。明日の福袋セールに突貫でもしてもらおうかしら」
一言いえば味見くらいさせてあげるのに……。とぼやきながら明日の新年セールの計画を大幅に修正する姿があったとかなかったとか。