雲夢の芍薬1(仮題) 午後の授業がなくなった。昼食後、喜色満面にそう告げてきたのは聶懐桑だ。藍啓仁が急用で出かけたのだという。
急にできた時間を学習に使う者もいれば、遊びに出る者もいる。江澄はそのどちらでもなく、用事があって彩衣鎮まで足を伸ばした。
青果物を扱う露店の前で立ち止まった江澄は、腕を組んで売り物をひとつひとつ見ていく。並べられているのはこの時期に旬の枇杷や木苺、桃に茱萸。雲深不知処の味気ない食事を思い浮かべれば、どれもみずみずしく美味しそうに見える。
(あいつはどれを挙げていた? くそ、遮るんじゃなかった、思い出せない)
険しい顔の少年が無言のまま店先に佇む状況に、店主は青ざめた顔でビクビクしている。残念ながら江澄は店主の様子など目に入っておらず、眉間に深い皺を寄せて悩んでいた。
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