朔の輪郭 Vの体調は、朝から下降線を描いていた。
軽い頭痛に始まり、目眩と吐き気。どうせ〈[[rb:Relic > レリック]]〉のせいだ、そのうち収まるものと軽く見ていた。『おいおいどうした、シャキっとしろよ』といつもの調子を貫く亡霊に悪態をつきつつギャングのアジトに乗り込み(襲撃された連中からしても、独り言を怒鳴りながらぶっ放してくる異常者にしか見えなかっただろう)、揺らぐ照準に無駄弾をいくつかばらまきながらも、どうにかこうにか依頼をこなした。しかしフィクサーへの報告を終える頃には報酬を受け取ることすら忘れ、いつの間にかリトルチャイナの見慣れた街角を前にしていた。
覚えているのはここまでだ。
額に触れる、ひんやりとした柔らかな感触が心地よい。寝起きにまぶたが震え、まつ毛の先が何かをくすぐる。すると短い悲鳴のような軋む音がして、額の感触は離れていった。ふわりと空気が動いて、酒ではないアルコールと薬品臭さに、かすかな整髪料の匂いが鼻を掠める。
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