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    みしま

    @mshmam323

    書いたもの倉庫

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    みしま

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    リクエストまとめ①「Vとジョニーがひたすら飯喰ってる話」

    #サイバーパンク2077
    cyberpunk2077
    #cyberpunk2077

    ベルゼブブにはわからない トムズ・ダイナーの定番メニューと言えば、ハンバーガーもしくはホットドッグとポテト。だが、おれの一番のおすすめはパンケーキだ。二段重ねの黄金色に焼けたふかふかの生地、見た目通りの温かな香り。たっぷりの合成バターとシロップをかけて、準備完了。ナイフで四分の一を切り取って、湯気の立つそれを口いっぱいに頬張る。スポンジからシロップとバターが染み出し、バターの風味と甘い香りが鼻腔へ抜ける。コーヒーで一度リセットして、また次のひとくちへ。飲み物は気分次第で、濃縮還元オレンジジュースやミルクでもいい。
    《なあV、いいだろ?》
     狭いブース席の向かい側から、ジョニーが耐えかねたように言った。
    《無茶はしねえって約束するから》
    《おまえの約束ほど信用ならないものもないな》
     おれはパンケーキをもぐもぐやりながら頭の中で答えた。前に体を譲ったときは酷い目にあった。記憶は断片的で、アルコールに胃も頭もすっかりやられていたし、タバコの吸いすぎで喉がいがらっぽかった。要は好き勝手に羽目を外されたってこと。そしてただでさえ体調が芳しくない今、もう一度やろうなんて気概も理由も持ち合わせちゃいなかった。
    《デジタルゴーストなんだから腹は減らないだろ。他人の体だからって空きっ腹に酒ばっか流し込みやがって。ウェアの処理にだって限界があるんだ。自分のせいじゃない二日酔いで目覚める立場にもなってみろ》
    《調子にのりすぎたことは謝るよ。けどな、今回は違う。呑みたいんじゃなくて食べたいんだよ》
    《おれが食べれば体は満足。おまえも味がわかる。それでいいだろ》
    《それだけじゃ足りねえんだよ! それにおまえとおれじゃ好みが違う……》
     おれはジョニーの抗議を無視して、そばを通りがかった馴染みのウエイトレスを呼び止めた。
    「追加、いいかな?」
    「いつものね。コーヒーは?」
    「ああ、もらうよ。ありがとう」
     ウエイトレスは空になったカップへコーヒーのおかわりを注ぎ、店主兼シェフのトムへ注文を伝えに行った。
    《いいかV、食べるってのは味覚だけじゃない、五感を使うんだ。食感に匂い、噛んで飲み込んで腹に収めて。そういうのを全部ひっくるめて『食べる』ってもんであって……》
    《講釈垂れるわりに主食はヤニと酒だろ。好みだ? おまえだってダブルAは美味かったって言ってたじゃないか》
    《それはそれ、これはこれ、だ。あとピザにはタバスコをもっとかけるべきだな。なあ、頼むよ。自分の体で実感したいんだ》
    「だれの体だって?」
     腹立たしさが極まって、つい声に出してしまった。ひとつ向こうのブースでバーガーをがっついていた男がちらとこちらをみやったが、それ以上気にすることもなく食事を続けている。頭のおかしなやつも、ホロコールで見えない相手と大声で話しているやつも、傍からしたら大差ない。ナイトシティの日常風景。
     今回ジョニーがハンドルを握りたいと騒ぎ立てている理由は、人間の生理的欲求の一つ、『食欲』を満たすこと。生死を別つタイムリミットに迫られている状況を思えば、実に些細で取るに足らないもののように思えるが……しかし肉体を持たないってのは、空腹を感じない一方で、むしろ食べることへの懐かしさや恋しさが募るのかもしれない。ヤニヤニとうるさいのもそれと同じことだろうか。
     そんなことを考えていると、間もなくベーコンエッグが運ばれてきた。料理油の芳ばしい香りが漂う。カリカリに焼いたベーコンに、目玉二つのサニーサイドアップ。目玉にナイフを入れると、ぷつりと膜を割って半熟の黄身が溢れ出てくる。完璧な焼き加減で仕上げてもらえるのは常連に許された特権だ。白身を切り分け、とろとろの黄身と一口大に割ったベーコンを包む。口に放り込むとベーコンが砕け、サクサクとした歯ごたえと塩気にまろやかな卵が絡む。ふわふわあま~いパンケーキの付け合せとして申し分ない。
    《わかってる、おまえの体だ。でもなんの楽しみもなしに生きるってのは、生きてるなんて言わねえだろ?》
     おれは返事の代わりに盛大な溜息をついた。ジョニーのしつこさに。そして自分の押され弱さに。途端に伝わってくるジョニーの嬉々とした感情が腹立たしい。
    《起きたときにゲロまみれになってたら、二度と代わってやらないからな》

     Vは食いもんに無頓着だ。口じゃああ言っちゃいるが、おれ以上に見境ない。パンケーキにはシロップをかけすぎだし、ジャンクフードも好んで食べる。好き嫌いがないこと自体は悪いことじゃないが、かと言ってけして舌が肥えているとは言い難い。なんでもかんでもウマイウマイと喰いやがる。あの焼き鳥モドキですら。
     前に屋台で食った焼き鳥は、およそその名で呼ぶには相応しくない代物だった。見た目だけは『つくね』のように見えるが、串団子かってぐらいデカいし無駄に香辛料が効きすぎている。塩であれタレであれ、食材の味を損なわない程度の味付けと、炭火焼きの香ばしさを楽しむのが焼き鳥ってもんじゃねえのか? ついでに言えば、『ねぎま』や『もも』に『かわ』、そうした代表格の品目すら無いのに焼き鳥屋の提灯を下げていることも気に食わない。少なくともおれは、前にツアーで日本へ行ったときに現地の焼き鳥を食ったから、本物がどんなもんか知っているつもりだ。だからこの件についてだけは、あのアラサカの駄犬に同意できる。あれは、焼き鳥じゃない。しいて言うなら鳥の串焼きだ。
     しかしこの腐れサイトシティでは、あのモドキ日本食が一般的なようだ。日本食と言えば寿司も大概だ。養殖のネタが悪いとまでは言わねえが、そこらの屋台で出るようなのは酢飯が妙にパサついてるか水っぽいか、わさびも西洋わさびで辛いばっかりだし、おまけにナイトシティ仕様にカスタマイズされた変な海苔巻きまで登場する始末だ。
     中華は幸いにしておおよそ原型をとどめているが……今回はパス。わざわざハンドルを握ったからには食べてみたいものがあった。
     ラーメンだ。
     おれはジャパンタウンが名所、桜花マーケットへ向かった。日系の地区だから、少なくとも他の地区に建つ店よりは期待できそうだ。そしてこの店にしたのにはもう一つ理由がある。〈SAMURAI〉初ライブのハコの跡地に立つ以上、まずいラーメンを出されていたんじゃなんだか悔しいような気がして、機会があればその味を確かめなきゃならんと思っていたのだ。
     店先に足を踏み入れた時点で、周囲の様々な臭いに混じって出汁の香りが鼻をくすぐった。よし、最低ラインをクリアだ。下手な店じゃ出汁ってものを用意してないことすらあるからな。
     おれはカウンター席に腰を下ろし、メニューをずらっと眺めた。定番の醤油、味噌、豚骨、塩。サイドメニューにはギョーザと炒飯、アルコール類。なるほど、期待できそうだ。
     少し迷って、おれは決めた。
    「味噌ラーメン一つ」
     焼き鳥と同じく、日本へ行ったときに食べた思い出の一品だ。ラーメン自体は中国発祥らしいが、ジャパナイズされたそれは全くの別物だった。実際食べたのがどんなだったか記憶に怪しいが、とにかくうまかったことは覚えている。
     店主の親父は「あいよ」と愛想なく答え、トレーから麺を掴み取った。ザルに入れ、沸騰した湯の中へ入れる。茹で上がるのを待つ間にラーメン鉢に何種類かの調味料と味噌を入れ、出汁で溶く。あっという間に茹で上がった麺を湯切りし、そっと鉢へ流し入れる。トッピングは塊肉の薄切り(確かチャーシューって名前だ)に、ネギ、海苔、メンマ、ゆで卵。最後にレンゲを添えて、おれの目の前に到着。
    「味噌ラーメン、おまちどおさま」
     湯気とともに食欲を誘う香りがおれの顔を包む。最低限のトッピングはシンプルイズベスト。ネギと海苔の香りがいいアクセントだ。細麺が浸るスープは細かな脂が輝き、その下で味噌が雲母のように揺らめいている。 
    「イタダキマス」
     日本式の挨拶をして、おれは箸とレンゲを手に取った。
     まずはスープから。口に入れた瞬間にわかる――うまい。浮いている油もしつこさはなく、思いの外あっさりとした出汁と味噌味にコクを足している。次に麺。細麺を箸で持ち上げ、勢いよくすする。細いながらもしっかりとしたコシがあり、スープとの相性も抜群だ。値段からして予想するに、さすがにトッピングは外注だろう。だが、肝心のスープと麺の邪魔にはならない味だ。
     ものの五分とかからず麺も具も無くなり、残ったスープまで飲み干す。鉢をテーブルへ戻すと、店主がじっとこちらを見つめていることに気が付いた。
    「何だ?」
    「いや……あんた、うまそうに食うねえ。よほど腹を空かしてたんだな」
    「飯を食うのは久しぶりでね」
    「そうかい」と店主はニヤッと笑った。冗談だと思われたんだろう。
     ついがっついてしまったせいか、ちょっと物足りない。追加でチャーハンとギョーザも注文した。おれの食いっぷりに気を良くした店主は「特別だ」とギョーザを一個おまけしてくれた。もちろんこれも美味かった。ナイトシティもまだ捨てたもんじゃないかもな。
     帰りがけ、Vのためにギョーザ一パックを持ち帰り用に購入して、店をあとにした。おれのじゃなくてVのエディーでになっちまうが、どうせあいつは気にしない。またウマイウマイと言って食べるところが目に浮かぶ。また近くまで来たときは、Vにこの店を勧めよう。
     さてシメの甘味はどうするか。舞い散るサクラのホロを見上げながら、おれはタバコを取り出した。
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    みしま

    DONEiさん(@220_i_284)よりエアスケブ「クーパーからしょっちゅう〝かわいいやつ〟と言われるので自分のことを〝かわいい〟と思っているBT」の話。
    ※いつもどおり独自設定解釈過多。ライフルマンたちの名前はビーコンステージに登場するキャラから拝借。タイトルは海兵隊の『ライフルマンの誓い』より。
    This is my rifle. マテオ・バウティスタ二等ライフルマンは、タイタンが嫌いだ。
     もちろん、その能力や有用性にケチをつける気はないし、頼れる仲間だという認識は揺るがない。ただ、個人的な理由で嫌っているのだ。
     バウティスタの家族はほとんどが軍関係者だ。かつてはいち開拓民であったが、タイタン戦争勃発を期に戦場に立ち、続くフロンティア戦争でもIMCと戦い続けている。尊敬する祖父はタイタンのパイロットとして戦死し、母は厨房で、そのパートナーは医療部門でミリシアへ貢献し続けている。年若い弟もまた、訓練所でしごきを受けている最中だ。それも、パイロットを目指して。
     タイタンはパイロットを得てこそ、戦場でその真価を発揮する。味方であれば士気を上げ、敵となれば恐怖の対象と化す。戦局を変える、デウスエクスマキナにも匹敵する力の象徴。
    7344

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    みしま

    DONEリクエストまとめ⑤「ヴィクターとVがお出掛け(擬似デートのような…)するお話」。前半V、後半ヴィクター視点。
    晴れのち雨、傘はない チップスロットの不具合に、おれはジャッキーとともにヴィクター・ヴェクターの診療所を訪れた。原因ははっきりしている、昨日の仕事のせいだ。
     依頼内容は、依頼人提供の暗号鍵チップを用いて、とある金庫から中に入っているものを盗んで来いというもの。金庫は骨董品かってほど旧世代の代物だったから、目的の中身は権利書とか機密文書とか、相応の人間の手に渡ればヤバいブツぐらいのもんだろうと軽視していた。侵入は簡単だった。一番の障害は金庫自体だった。古すぎるが故のというか、今どきのウェアじゃほとんど対応していない、あまりに原始的なカウンター型デーモンが仕掛けてあったのだ。幸いにしてその矛先はおれではなく、暗号鍵のチップへと向かった。異変に気づいておれはすぐに接続を切り、チップを引っこ抜いた。スロット周りにちょっとした火傷を負いはしたものの、ロースト脳ミソになる事態は避けられた。それで結局その場じゃどうにもならんと判断して、クソ重い金庫ごと目標を担いで現場を後にした。フィクサーを通じて依頼人とどうにか折り合いをつけ、報酬の半分はせしめたから及第点ってところだろう。あれをどうにかしたいなら本職のテッキーを雇うなり物理で押し切るなりする他ないと思う。
    5226

    みしま

    DONEリクエストまとめ⑦。Cp2077で死神節制ルート後。ケリーが「そうなると思ってた。Vはまったくしょうがねぇやつだよ」とジョニーを慰める話。
    ※エンディングに関するネタバレあり。なおスタッフロール中のホロコールを見る限りケリーは節制の結果を知らないようですがその辺は無視した内容となっています。
    アンコール インターカムも警備システムも素通りして“彼”が戸口に現れたとき、ケリーは思わずゾッとした。姿を見なくなってしばらく経つ。アラサカタワーの事件はテレビやスクリームシートで嫌というほど目にしてきた。だがその結末は? マスメディアの言うことなど当てにならない。噂では死んだともアングラでうまくやっているのだとも聞いた。けれど真相は誰も知らない。ならばとナイトシティ屈指の情報通、フィクサーでありジョニーの元カノ、ローグにもたずねてみた。返事は一言、「あいつは伝説になったんだ」。金なら出すと言ってはみたが、返されたのは立てた中指の絵文字だけだった。
     Vはいいやつだ。彼のおかげで――奇妙な形ではあったが――ジョニーと再会を果たすことができた。それに人として、ミュージシャンとして立ち直ることができた。もし彼がいなければもう一度、そして今度こそ自らの頭に銃弾をぶち込んでいただろう。大げさに言わずとも命を救われたのだ。だから生きていてほしいと願っていた。一方で、心のどこかでは諦めてもいたのだ。自分とて真面目に生きてきたとは言い難いが、重ねた年月は伊達ではない。起こらないことを奇跡と呼ぶのであって、人がどれほどあっけなく散ってしまうかも目の当たりにしてきた。Vの生き様はエッジー以外の何物でもない。もうそろそろ、読まれることのないメッセージを送るのも、留守番電話へ切り替わるとわかっていて呼び出し音を数えるのもやめにしようかと思っていた。だからその姿を目にしたとき、とうとう耄碌したかと落胆すらしかけた。
    3482

    みしま

    DONEリクエストまとめ③「コーポVがコーポのお偉いさんに性接待したあと最悪の気分で目覚めて嘔吐する話」
    ※直接的な表現はないのでR指定はしていませんが注意。
    ルーチンワーク ホロコールの着信に、おれは心身ともにぐちゃぐちゃの有様で目を覚ました。下敷きになっているシーツも可哀想に、せっかくの人工シルクが体液とルーブの染みで台無しだ。高級ホテルのスイートをこんなことに使うなんて、と思わないでもないが、仕事だから仕方がない。
     ホロコールの発信者は上司のジェンキンスだった。通話には応答せず、メッセージで折り返す旨を伝える。
     起き上がると同時にやってきた頭痛、そして視界に入った男の姿に、おれの気分はさらに急降下した。数刻前(だと思う)までおれを散々犯していたクソお偉いさんは、そのまま枕を押し付けて窒息させたいほど安らかな寝顔でまだ夢の中を漂っている。
     意図せず溜息が漏れた。普段に比べて疲労が強いのはアルコールの影響だけじゃないはずだ。酒に興奮剤か何か盛られたに違いない。こういう、いわゆる“枕仕事”をするときは、生化学制御系のウェアをフル稼働させて嫌でもそういう気分を装うのが常だ。ところが今回はその制御を完全に逸脱していた。ろくに覚えちゃいないが、あられもなく喚いておねだりしていたのは所々記憶にある。羞恥心なんかどうでもよくて、油断していた自分に腹が立つ。
    3562

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