キス 換気扇の回る音がしていた。杉元の住む部屋の台所にあるその換気扇は羽根の色が明るい金茶色をした、紐を引いて起動させるプロペラファンタイプで俺がつけた。煙草を吸おうと思ってその紐を引き、コンロで火も拝借しようと考えていた。あ、という声がして視線を上げると、杉元がどかどかと足早にこちらにやってくるなり、俺の持ってきていた煙草の箱を奪って三角コーナーに投げ入れて、コンロの火を消す。余りに無駄のない動きに思わず見惚れて拍手をすると、間髪を入れず指と指の間に挟んで持っていた残りの一本も取り上げて握り潰し、そいつも三角コーナーの中へ放り込んだ。
その態度に怒りよりも面白いものを見た気がして杉元の顔を見る。こいつは嫌煙家だったけか。そうだと意識はしたことはなかったが、それでも気を利かせて場所を選んで吸おうと思ったのにまだ配慮が足りなかったか。咥える予定で半開きになっていた口を杉元が凝視してくる。
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