砂の惑星「お前ってパスポート持ってるか?」
八月中旬酷暑、扇風機の前で涼む私は首を傾げた。
「持ってはいるが、なぜ?」
するとマトリフは古びた雑誌を開いて私に向けた。それを受け取って目を通す。扇風機の風がページを弄ぶのを抑えながら、書かれた文字に目を通した。
「バカンス?」
そのページには青い海が紹介されていた。大きな文字で魅力的な言葉が並ぶ。
「行かねえか」
バカンスには少々遅い気もする。幸か不幸か私には職がなくいつも時間に余裕があるが、マトリフには仕事があった。しかしその都合も付けずにマトリフが提案するとも思えない。今年は夏の休暇がないのかと思うほど、マトリフは仕事を詰め込んでいた。もしかしたら、それもこのバカンスのためだったのだろうか。
16110