彰司SSその1「司センパイ、好きです」
「……はい?」
目の前の後輩、彰人に呼び出され、目が点になった。
真面目な顔をして何を言うかと思いきや。
ぱちくり、とさせるオレに、彰人は「大好きなんです」と真顔で続け
「初めて会ったときは正直関わりたくねぇと思ってたんすけど、段々と接する機会が多くて付き合っているうちに目が離せなくなったんです。今思えば無駄にデカイ声も心地いいし、正直オレを赤兎馬に選んでくれて感謝してるというかぶっちゃけあれで惚れたというかショーに夢に真剣に向き合っている姿に惚れたというか、こはねがフェニランガチ勢でよかったです。こはねのお陰でワンダショのショーはたくさん見ることが出来ましたし、トルペの時はそのこはねに恨まれもしましたけどまあいいです。とにかくトルペに時なんてまるでセンパイがトルペのようで目が離せなくてピアノの音色がまるで光が降ってきたような感覚ですごく綺麗でしたし最高でしたし、お正月も正直アンタに会えるなんて思ってもみなかったんで内心動揺していたんすけど、こういう時杏がマジ羨ましかったしオレもセンパイと歌いたかった!!!」
「そ、そうか…」
ズラズラズラと恥ずかしげもなく言い続ける彰人に、いくらオレでも恥ずかしいぞ!?
彰人は普段こんな感じだっただろうか。
「ハーハハハッ!彰人もオレのスター性にようやく気付いたのだなあっ!
ショーも見に来てくれてありがとう!!次も楽しみにしているがいい!」
はははははっーっと誤魔化しているが―――。
まあ、実の所。
オレも彰人が好き、というわけだ
彰人もオレも夢があるし、オレのことが苦手である、と聞いたことがあるから、この想いは墓場まで持っていこう――と思っていたが。
……まさか、これは両想い!?――ということか!?!?
「ねえ、センパイ。オレと付き合ってください」
「―――はい!?」
「だって、センパイを誰かに取られるの嫌ですし。
特にあの紫には紫には紫には!!」
「いや、それは、だな?」
言うだけ言ってすっきりしたのか、今度は頬を膨らませてきた。
ぎゅうう、と、オレの裾を掴んで。
まるで、子どものように。
ああ、ここで、オレも―――だと、言えたらどれだけいいか。
「―――ねえ、センパイ、オレと――――?」
キス、してくれる?
艶っぽい唇で迫られて。無邪気な笑顔と共に、顔を近づけられて。
――――そして。
「―――本当に、マジですいませんでした………。」
穴があったら入りたい、という顔で土下座をする彰人の姿。
―――あの後、彰人がオレの腕の中で倒れ込んで、保健室に運び…。
目が覚めた彰人は、オレの顔と自分の顔を交互に見た瞬間に、顔を真っ青にして、絶句し、そして、ベッドの上で土下座。
「落ち着いてくれ彰人。お前に何があったんだ?」
「―――実は………」
類がたまたま出来ちゃったらしい、素直になれる薬。
それを人体実験という名のオレで試そうとした所、何の因果か分からんが、彰人がそれを飲んでしまった。
オレに怪しまれないように自動販売機で買えるミネラルウォーターに混ぜたのがいけなかったらしく、彰人が自分の分と間違えてそれを飲んで。
すぐに間違えて飲んでしまったことに気づいたが、効果はすぐ切れるのでどうせなら「東雲くんで実験を」と嬉々として笑う類に危険を感じた彰人はその場から逃走し、その流れでオレを探していた。とのことだ。
「ああああ……マジできおくからけしたい…今すぐになかったことにしてしまいたい……!」
「だ、大丈夫だぞ!!特に問題もなかったわけだしな!!」
――流石になかったことに、というのは悲しいことでもあるが。
「―――どうせなら、もっとちゃんと告るつもりだったのに、あんの紫…!
オレの計画の邪魔しやがって…!!」
――――――は?い、今、なん……
「―――彰人、今、なん……?」
「いやだから!!センパイに告るならもっとちゃんと―――あ」
「―――――ええとその……薬の、効果は切れているんだよ、な?」
恐る恐るオレが聞くと、彰人は「……っす」と呟き、こうなれば、と。
「センパイ、好きです。さっきのマシンガントークも本音なんすけどね」
こうなりゃバレてしまったものは仕方がないと言わんばかりに、彰人は吹っ切れていた!
何で、急に吹っ切れるんだお前は!!
オレは!内心!ドキドキしているというのに!!
「あの、えと、その…!」
「アンタの何もかもが、好きってことで」
アンタの返事は?と聞かれる。
へ、返事、だと!?へんじ、へんじ、へんじぃいい……!!
いつものおちょーしもののアンタはどうしたんです?と言われるが、それとこれとは話は別だばか!!
「ま、答えは分かり切ってるんですけど」
そう言って、オレの額に触れるだけの口づけを落とし
「アンタもオレのこと、好きなの、バレバレなんで」
ニヤリと、意地悪い笑顔の、あきとがいた。