いわれなくても今日は昨日と打って変わって春爛漫。
購買でグレープフルーツジュースが買えた私は、上機嫌に外を歩いていた。
しかも大サービスでもう一本。
自分で独り占めしようかな、なんて思ったのだけど。
「――あんなに頑張ってたし、労いの意味も込めて」
念願のリオ役を貰えた、私たちの一番星。
打ち上げはすべてが終わってからだというものの、少しぐらいのご褒美があってもいいんじゃない、なんて思って。
流石にジュース1本だけじゃね、と思って、あいつが好きそうなお菓子も買って。
確か、この辺りでいつもお昼ご飯を――…。
「あ、いた――」
輝く星のような、けれど、ほんの少しの夕焼け色の髪が見えて。
タン、と、小走りに向かおうとした。
その、時。
視線の先には、オレンジ色の髪のひと。
え、なんで。って思ったけど。
2人は――東雲くんと、司は、こいびと、だ。
そっと、伺ってみる。
東雲くんはヘッドフォンで音楽を聞いている。
そんな彼に、背後にくっつき虫のように、引っ付いてる私たちの、一番星。
え、まって、なんで。
というか、ほったらかしって一体どういうことなのか、と問い詰めていきたい所だけど、怒られそうだしね……。
練習の合間にでも渡そう、なんて思って、来た道を戻ろうとしたとき。
「…ん?」
東雲くんが顔をあげて、こちらを見た。
う、目が合ってしまった。
流石に去るのも変だし(余計に怒りそうだし)恐る恐る近寄って。
そうしたら「…ああ、草薙か」と呟かれた。
「……何してる、の?」
「見りゃ分かんだろ」
「…そうじゃ、なくて。後ろ、の」
言いたいことはあるけど、口から出た言葉はそれが精一杯で。
きょとん、としながら、東雲くんは。
「――センパイ、今までの疲れが溜まってたんだろうな。
普段はうるせぇぐらいに話すのに、妙に静かと来た。」
「―――え?」
「とりあえず寝ろっつったんだけど、寝ないんだよこいつ」
腑抜けた顔、彰人に見せられるか!ってぎゃーぎゃーわめいて。
んじゃ、オレの背中にでも顔を埋めといてください。
そしたらオレ、見えないんで。
――そう、東雲くんは言った。
そうしたら司は、ぎゅううっと抱き着いて、しばらくしたら寝息が聞こえて。
今に至る、のだそう。
「―――。」
その光景は、私たちでは、けして見ることが出来ないものだった。
やっとのことで私たちに頼ってくれた一番星。
けれど、それは、あくまでも、ショー関連のことだ。
こんなふうに、けして、何処かで力を抜くことなんて、ましてや、甘えるなんて。
私は、ましてや、司のこんな姿は、見たことがない。
――別に、いいんじゃないの。
誰だって疲れてるとき、あるし。ましてや司、今回、頑張ったし。
そう、言っていいんじゃないの――。
私も、類も、えむだって。
そう、思うのに。
少しぐらい、よわいとこ、見せてくれても。
でも、司は、一番星だから。スターであるから。
天まで駆け抜ける、遥か遠くまで輝いて、私たちを導く。
「……そっか。」
―――だからこそ、その役目は、私でもなく、類でもなく、えむでもなくて。
ましてや、天馬さんや、青柳くんでもない。
頑固者の、肩の抜き方を心得ている、東雲くん。
もう、その役目は、私たちじゃないんだなって。
私たちのスターを、一番星を、あなたに譲るのだから。
「………幸せにしてくれないと、ゆるさないからね」
「……………言われるまでもねぇよ」
ぶっきらぼうにそう答えた東雲くんだけど、その先の答えは聞かなかった。
だって、背中に引っ付いて寝ている司を横目で見る目は、とても優しかったので。
司のためのグレープフルーツジュースと、お菓子を東雲くんに渡して。
さて、戻ろうか、と思っていたとき。
「……お前も、こういうとき、歌の1つでも聞かせてやれば、いいんじゃねぇの」
――言われなくても、そうするから。
東雲くんの呟きに、せめてもの、ニヤリと笑って返してみせた。
この時、私は、何も思わなかった。
なんでヘッドフォンをして、音楽を聞いているはずの東雲くんと会話が出来たのか。
「―――司センパイ、起きてるでしょ」
「…………」
「草薙がくれたお菓子とジュース、オレが全部食っちまいますよ?」
「―――――なんで、おしえてくれないんだ」
「教えたら教えたで、うるせぇと思ったんで」
「…お前こそ、音楽を聞いているんじゃなかったのか」
「音楽を聞いてたら、司センパイが寂しがると思ったんで」
「だ、だれが、だっ……!!」
「はいはい、昼休憩まで時間あるんでまだいいですよー」
「―――むっ……鐘が鳴ったら、起こせよ」
「キス1つでもして、起こしますよ。甘えん坊の一番星」