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    NC58_5

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    NC58_5

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    前に界隈でDom/Subユニバースの話をしているのを思い出して書きました
    あまり知られていない設定らしいので広まって欲しいです
    ※現パロ・Dom/Subユニバース・誤字脱字

    セーフワードはHey Siri的な気軽さで使えるものが良かった

    慢心は身を滅ぼす「言い訳は聞かねぇ、仕置きすっから風呂はいってこい」
    「…わかった、少し待っててくれ」
     これが僕が家に帰って開口一番に言われた言葉だ。森君はたいそうご立腹のようでギリギリと歯ぎしりをして眉間の皺がいつもの三倍は濃くなっていた。言い訳は聞かないと言われてしまえば特に言うことはなく、両手を上げて降参の意を示して風呂場へと向かった。そんな取り付く島もない僕は今、浴槽に浸かっている。
     事の発端はとても単純、僕が森君との約束を破ってしまったのだ。大学生の彼と社長の僕では家にいる時間帯は全く違うし、なんなら同じ時間の方が珍しい。それでも一緒に暮らすとなれば最低限のルールは決めた方がいいと二人で相談していくつかの項目をあげた。
     今回僕が破ったのは「日付をまたぐ時は連絡をする」だ。仕事柄外食やら残業やらが多くなるからと僕自身が提案した決まり事、連絡は電話でもSNSでもなんでもよくて一言「遅くなる」と送るだけの簡単な作業だ。そうすれば夕食を作って待ってくれている森君もラップをかけて次の日の朝に出してくれるし、帰らない僕を待って待ちぼうけ、なんてことも無い。
     今日は特段忙しかったわけでもなく、かと言って暇すぎた訳でもない。いつも通りの忙しさにいつも通りの業務、帰り際に取引先の社長からお誘いがあったからふらっとその誘いに乗って少し長居しただけ、普段と変わらないスケジュールを送っていただけだった。それでも慣れてきたら一度は忘れてしまうのが人間だ、まぁこれが一度目なら森君だってあんなには怒らなかったんだろうけどね。悲しきかなこれは二度目の失態、一度目の時は少し不機嫌な森君に小言を言われただけですんだけど彼は同じ失態を許さない男、二度目の今回はさっきの通り怒り心頭だ。
     ため息をついて浴槽に口まで沈む。ブクブクと空気を出していつ出るべきかを吟味するが先延ばしにするほど出にくくなるのは理解出来ていた。
     出たくないと駄々を捏ねる体に鞭打って浴槽から立ち上がり脱衣所に出て体を拭く。あの様子だと今日は本番は無しだと思って洗浄はしなかった。これからお仕置きされる人間の考えることじゃないが僕だって男だ、欲はある。
     丁寧に畳んであったスウェットに袖を通して髪を乾かし、重い足取りで廊下に出た。ひんやりとした空気が肺を満たして体の熱が外に逃げていくのがよくわかる。ペタペタと素足で廊下を歩き、森君が居るリビングの扉の前まで来た。いつもは簡単に開ける扉も今は鉄で出来ているような重圧を感じる。一度大きく深呼吸をして、なるようになれと心を決めてドアノブに手をかける。すると扉は簡単に開き、僕のお仕置の始まりを告げるようにカチャリと音を立てて廊下とリビングを遮った。
     
     
    「セーフワード」
    「…AI、言い訳はしないから、キミの気が済むまでお仕置きしてくれ」
     
     微かに漏れるGlareに居心地の悪さを感じながらも抵抗の意志はないことを断言した。こんな状況でも律儀にセーフワードを確認するあたり森君の育ちの良さが垣間見える。
     森君はソファに深く腰かけ足を組み、自分の膝に頬杖を着いていた。言い方が気に食わなかったのだろう、彼は足を直して腕を組み大きく舌打ちを漏らした。
    「Come」
     ぶっきらぼうに放たれたコマンドに体は従順で、糸で引かれたように足が前に動いた。ソファに座る森君の前まで歩いていつものように足下へ座ろうと軽く膝を曲げると、座ろうとしていた場所に森君の足が移動してきた。
    「オレはKneelなんて言ってねぇぞ」
    「っ…そうだね、すまない」
     いつもなら許してくれるお座りも今日は許してくれないらしく、彼がどれだけ僕に怒りを覚えているのかを体感した。これは下手に動くとさらに機嫌を損ねてしまうと即座に理解し大人しく従うことにした。
     今僕は森君を見下ろすように目の前に立っている。これが酷く居心地が悪い。普段並んで立っているだけでも身長差で森君のことを見上げ、隣に座っていても勿論床に座っていても常に彼を見上げる体制になる僕にとって、森君を見下ろすという行為はあまり好ましくなかった。若干感情にモヤがかかる中、次は何をすればいいと森君を見下ろすも彼は特に何も言わずじっとこちらを見つめるだけだった。
    「…森君?」
    「Speakとも言ってねぇ、黙ってろ」
     彼はただ僕に黙って立っていろと言った。不快感が募るこの体勢に不満しかないがこの程度のお仕置きなら可愛いものだと甘んじて受け入れた。
     そんな状態で大体五分くらい経った。ムカムカする気持ちを抑えながら立ち続けていると漸く森君が口を開いた。
    「てめぇ、なんで連絡しなかった」
    「…特に理由はないよ、単に忘れてただけさ」
    「前回二度目はねぇって言ったのは」
    「勿論覚えていたとも、それでも忘れたんだ」
     言い訳はしない、しようがない。忘れたのは僕、悪いのも僕だ。
     それでも一つだけ、怒られること覚悟で伝えなければいけないことがあった。
    「けどわざと連絡しなかったわけじゃない、それだけは信じて欲しい」
     これは故意ではなく偶然である。それだけは伝えておかなければと思った。キミを怒らせるようなことを軽んじて行った訳では無いと、言葉だけでも伝えておかねば気が済まなかったのだ。
     真剣な僕に対して森君の表情に特に変化は無く、だから?とでも言いたげに僕を見上げる。
     やめてくれその上目遣い、居心地が悪くて胸に針が刺さった感じがするんだ。
     
     
     それからまた十分くらい経っただろうか、特に何か言われることも無く見つめあっている状態が続いた。何度か視線をずらして森君の足下をチラ見し座りたいアピールをしたけど効果はなく、許してくれる気配もない。
     リビングの時計はデジタル式だから、室内は僕らの呼吸音のみが響いている。よく聞くと森君の呼吸より僕の呼吸の方が二倍くらい早くなっていることに気づいた。乱れている、とまでは行かないけれど軽くジョギングをしたあとのような早い呼吸、立っているだけなのに早まってしまうのは間違いなくこの体制が原因だ。
     いつまでこうしていればいいんだろうと彼を見下ろしながら考えていると、数時間ぶりにも思えるゆっくりとした動作で森君が組んでいた腕を解いた。
     
     触れてもらえる
     
     直感的にそう思った。いつもならとっくに頭を撫でて貰ってる時間だし今日はまだ帰ってから一度もその手に触れていない。
     反射で腰を曲げて頭を差し出すも、その手は棒の横を通り過ぎて部屋の隅の方を指さしていた。
    「へ?」
    「Corner」
     Corner、部屋の隅に立っていろということだ。小学生が廊下に立たされるようなお仕置きの一つということは知識として知っていたが、実際森君に命令されるのは初めてだった。
     まだ許されていなかったようなので素直に指定されたところまで歩いた。これでいいかいと森君の方を見たがそれでも少し不満そうな表情でまた腕を組んでいる。
    「壁の方向け、そのままStandだ」
     追加の命令に従って回れ右をし壁の隅を見つめる。きちんと掃除してくれているのかホコリも汚れもない壁が視界を埋めつくし、同時に疑問が浮び上がった。
     これ、本当にお仕置きになってるのか…?
     これならさっきの見下ろしている方が気分が悪かった。でも壁を見つめてたっているだけなら別になんとも思わないし辛くも痛くもない。森君の意図が分からずに脳内で首をひねっていると、突然この数十分では聞き慣れない音が背後から鳴った。
     ソファのスプリングが軋む音、それに次いでトントンと一定間隔で響く足音だ。どうやら森君が立ってどこかに移動しているらしい。足音は横に移動して行ったがすぐに止まった。何をしているのか気になるが壁の方を向いていろと言われた以上振り返ることは許されていない。だから耳に意識を集中させて森君の動向を探った。
     
     次に聞こえたのは今日のお仕置きの開始音、ドアノブを捻る音だった。
     思わずその場でたじろぐ。だって、森君がこの部屋から出ていこうとしている。お仕置き中の僕を置いて、一人でどこかに。嫌だ、そもそもこんな時間にどこに行くんだ。
     嵐のように色んな感情が吹き荒れる中、背後からは扉の開く音がして無情にもパタンと閉じる音が耳に入った。
     今すぐにでも駆け出して彼を引き止めたいがCornerと命令された以上僕はここから動くことは出来ない、許されていない。
     
     ヒューヒューと呼吸が掠れて細くなり、全身から汗が吹き出る。ここに来て初めて、お仕置きされているという恐怖が襲ってきたのだ。
     僕は痛いのは好きじゃないけど別に嫌いでもないから、効果がないことを森君は把握している。そんな僕にCornerは実に的確なコマンドだった。
     体感では数時間、実際は数分程度しか経っていないだろうか。静かなリビングに別の部屋の音が伝わってきた。
     これは…シャワーの音…?
     どうやら森君は家を出た訳ではなくただ風呂に入っただけのようだ。
     その音を聞いてほっと胸を撫で下ろす。ただの生活音でここまで安心したのは生まれて初めてだ。
     森君の風呂はそんなに長くはない。浴槽に浸かることも加味して長くても二十分もあれば出てくるはず、短ければ十分とかからないはずだ。帰ってきてちゃんとCorner出来ていればお仕置きは完遂できるだろう。
     
     シャワーの音が止んだ。部屋はまた静寂に包まれたが今回は居場所がはっきりしているため先のように焦ることは無かった。汗を含んだ服で体が冷えるが暖房の効いている部屋なのでそれほど寒くはなく、あまりお仕置きの意味を成していない状態で森君を待った。絶対に帰ってくるという自信も彼に対する信頼もあったからこそのこの心持ちだ。
     森君、早く上がってこないかな
     
     
     無心でその場に立っていたら、廊下の方から扉の開く音がした。そんな小さな音に過剰に反応して反射で背筋が伸びる。僕よりも重量感のある足音が段々と近づいてきて、リビングに繋がるドアノブが軋む音が耳に入った。
     
     今か今かと待ちわびた瞬間に固唾を飲む。
     
     出ていった時と同様の扉の開閉音が聞こえ心拍数が上昇する。出ていった時より水気を含んだ足音が部屋に響き、ソファに腰掛けたのかボスンッと綿から空気の抜ける音がすぐ後ろでした。
     全ての神経を背面に向けていると言っても過言ではない、全身全霊をかけていたと言ってもいい。そんな万全の状態で森君から声をかけられるのを浮き足立ちながら待った。
     
     
     森君が戻ってきてから少し経った。彼はまだ何も言わない。
     いつも風呂上がりに水分を摂るから一度だけ立ち上がっていた。しかしその後は音沙汰無し、後ろからはゴクゴクと液体を飲み込む音がする。
     
     
     森君が戻ってきてから五分くらい経った。彼はその場から動かない。
     とっくに水分は摂り終わっているはずなのに僕のことを気にしているような様子は感じ取れなかった。
     
     
     森君が戻ってきてから十分以上が経った。彼はなにか書物を読んでいる。
     今度はペラペラと紙をめくる音がした。めくるスピードからして何かの本だろうか?そういえば栞の挟まった本がソファのサイドテーブルに置いてあった気がする。どんな内容の本かは知らないけど今することじゃないだろ?
     
     
     森君が戻ってきてから何分経ったか、もう分からない。未だに僕はここに立っている。森君はいつになったらこの意味の無い時間を終わらせてくれるのだろうか。
     微動だにせず立っていたせいか足の裏の感覚が鈍くなってきた。汗を吸っていたシャツはとっくに乾いたしいい加減僕も飽きてきた。お仕置きに飽きるなんて感想は不釣り合いだがそう言わざるを得ない。普段の僕ならとっくに別の事をしているはずだ。
     森君の考えが読めず、かと言ってCommandを無視するわけにもいかない。いつになったらこの意味の無い状況を許してくれるのだろうと上の空だった。
     でもその時、ふと気づいた。
     
     この行為、本当になんの意味もないんじゃないのか?
     
     一度気づくと思考は止まることなく加速すした。こんな時ばかりはこの怜悧な頭脳が嫌になる。
     
     
     森君は僕の方を気にかけることなく紙をめくっている。まるで見えていないかのような、そこに居ないような扱いを続けている。
     
     
     止まることの無い思考に呼吸が荒くなっていく。結論を出すべきじゃないと分かっているのに脳が勝手にこの状況の処理をする。
     
     
     これが本当に意味の無い行為だとしたら
     
     
     嫌だ、駄目だ。それ以上考えるな
     
     
     それは僕に興味が無いと言われているのと同じなのではないか?
     
     
     
     
     
     結論が出た途端、全身が恐怖に蝕まれた。先程のものとは比べ物にならない、奈落に突き落とされたような感覚に畏怖の念を抱く。身体は細かく震え、呼吸は全力疾走した後のように荒くなり、じわじわと溜まってくる涙で視界も霞んだ。震える脚では身体を支えることすら困難で何とか壁に手をつき寄りかかる体勢で持ちこたえた。
     森君は僕に立っていろと命令した。座ることは許されていない。
     命令に背くことはしたくなくて、壁に爪を立てて何とか踏みとどまろうとするがその抵抗は意味をなさず、一瞬にして膝の力が抜けて勢いよく床に座り込んだ。
     これ以上彼を失望させるようなことはしたくなかったのに。
     
     約束を破ったのは自分なのに、失望させないようになんて片腹痛い。でも人間は痛みを感じている時にしか深く後悔できない生き物だ。初めて約束を破った時に反省しなかった訳では無い。その後反省した時の気持ちを忘れてしまったのだ。
     
     
     
     獣のような荒い息で呼吸をしていると、まるで数日ぶりかと錯覚するほど懐かしく感じる声がした。
    「セーフワード」
     
     セーフワード
     森君は使いたきゃ使えと提案してきた。確かにセーフワードを言えば彼は確実にこの行為をやめてくれるし僕のことを沢山褒めてくれるだろう。
     
     でも、それじゃ駄目なんだ。
     
     その時森君が褒めてくれるのは彼がDomだから。Subがセーフワードを使ったらお仕置きを辞めなければいけないルールで、その後はアフターケアをする決まりだから。彼が僕を許してくれて、お仕置きを耐えられ偉いと褒めてくれている訳では無い。それだと僕は彼のGoodboyじゃないんだ。
     だから僕は小さく首を横に振った。まだ出来ると意思表示して森君から許しを得るまで耐えると決めたのだ。
     
    「…そうかよ」
     
     森君は一言だけ話してまた黙った。かと思えば、ページをめくる音と共に小さく一言
    「座っていいなんて、一言も言ってねぇけどな」
     
     その言葉に戦慄する。呼吸が引き攣り、心臓の鼓動が聞こえなくなった。顔から血の気が引いていくのがよく分かる。
     僕に向けてかけられた言葉ではない、ポツリとこぼれ落ちた一言だった。しかしそうだと理解できても反応せざるを得ない内容だった。
     
     立たなければと脳は叫んでいるのに、体は座っていたいと返事をする。自分の中で矛盾が生じもう何が何だかわからなくなってきた。
     段々と思考が落ちていくのが感じ取れる。これはきっとSubdropの感覚なんだろうな、なんて他人事のようにも理解出来ていた。
     
     本当に無理な時には絶対にセーフワードを使うこと
     
     これも森君とした約束の一つだ。
     今がその時なんだろうけどセーフワードを使えばさっき考えたことが起こりうる。でもそのために重ねて森君との約束を破ることが良くないことも分かっていた。
     
     段々と視界が暗くなってくる。
     思考もまとまらない。
     約束通りセーフワードを使って許されないままでいるか、約束を破ってSubdropをしてまで許しを乞うか。
     抽象的に考えて、答えはすぐに出た。
     
     
    「っえーあ…えーあい……もりくん、えーあい」
     
     
     目からボロボロと涙が溢れ出る。息をするのも辛くて下を向き空いている口から唾液が零れた。
     
     
     助けて、落ちたくない
     
     頭を鈍器で殴られているかのような痛みが襲う。目の奥が痛んでグルグルと視界が回る。
     
     
     約束破ってごめんなさい、後でもっと謝るから
     
     ついに視界が機能しなくなった。匂いも分からない。
     
     
     森君、僕のパートナー
     
     
     
     僕の名前を呼んで
     
     
     
     
     ここから引き上げて
     
     
     
     
     森君
     
     
     
     
     助けて
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    「高杉、Goodboy」
     
     まだ機能していた聴覚が、僕を救う言葉を聞き取った。
     独りでに働いていた触覚が他者の体温を感じ取った。
     
    「セーフワード、ちゃんと使えたじゃねぇか…いい子だ」
     
     黒塗りの視界が段々と色を帯びていく。眼前には僕と同じ赤色の髪、両頬を掌ですっぽりと包まれている感覚がよりハッキリとしてきた。
     そこには僕と目線を合わせるように屈んだ森君がいた。
     
    「もり…くん…?」
    「高杉、仕置きちゃんと受けられてお利口さんだな」
    「ぁ……ぼく、ぐっぼーい?」
    「当たり前じゃねぇか、Goodboyだ」
     
     Goodboy
     その一言で今までの不安、恐怖、悩み、全てが消散した。
     
     森君がいい子と褒めてくれるのなら、僕はきっといい子なのだろう。
     彼がお利口と褒めるなら、僕はお利口でいられたんだ。
     森君に言われたら全てがそうであるような気になる。それが嬉しくて、幸福で、先程とは違う感覚で思考が鈍くなっていった。
     
    「おら、運んでやるからこっち来い」
     森君は両手を広げてComeと同意義のコマンドでは無い言葉で呼びかけた。それも嬉しくてすぐ近くにいる彼の方へ手を伸ばし、倒れ込むようにして抱きついた。
     密着するようにまるで幼い子供のような抱え方をされる。それこそ抱っこという名前がピッタリの抱き上げ方だ。ソファまでの短い道のりの間も森君は頭を撫でてくれたし、際限なくいい子だと褒めてくれて頭がふわふわとする。
     
    「このまま座るか、お前だけ床に座るか、どっちか選べ」
    「ん…その前にCollar…」
     どっちか選べと言われて第三の選択肢を取った。
     僕は社長という立場上公にCollarを付けることはあまり好ましくなく、普段はチェーンネックレスで代用している。その代わり家では僕から森君に頼んだ時のみ着物の帯締めのような質感の山吹色のCollarをつけてもらうのだ。オネダリしないと貰えないようにしつけられていると言ってもいい。自分の体が森君好みになっているなんて最高としか言いようがなくこの制度は気に入っていた。
     アレはいつも寝室に置いてあるのだが、欲しがることを見越してか森君はポケットから僕のCollarを取り出した。指先に引っかかるように目の前でCollarを見せられて、ソレが早く首に欲しくて思わず手を伸ばした。しかしそれを阻止するようにCollarを遠ざけられ、森君はその手でソファと床を交互に指さしている。
    「片手じゃ着けらんねぇから、どっち座るか選べ」
    「…膝がいい」
     そう答えると森君は僕の言った通り膝に乗せて抱き合う形で座ってくれて、近くにあった毛布を肩からかけてくれた。
    「Look、首見せろ」
    「んっ……首、落とさないでくれよ…?」
    「今はんな事しねぇよ」
     今はという言葉はさておき、Lookと言われて意味を理解する前に頭が彼を見上げるように上がった。急所を晒す体制は森君に服従していると視認できて非常に居心地が良い。
     森君は手早くCollarのベルトを外し、肌触りのいい生地を僕の首に巻き付けた。キュッとベルトを締めるとき、Collarが少し首に食い込む。その感覚がクセになる。森君に繋ぎ止められていると実感出来て心から安心できる。ネックレスとは段違いの幸福度だ。
     
     僕が帰ってきたのが日付が変わった頃だから既に時計は深夜を指しているだろう。久しぶりに泣いて体力も削られて、仕事終わりだったこともあって森君に寄りかかって目を閉じたら直ぐに睡魔が襲ってきた。寝るのはもったいないと思ったけど、今寝たらすごく幸せなことも本能で理解している。
     髪を梳くように撫でてくれる森君の大きな手が気持ちよくて、抱き上げられた時から船を漕いでいた僕の意識はふわついたまま落ちていった。
     その日見た夢は幸せなものだったと思う。
     
     
     
     
     目が覚めるとそこは眠る直前の記憶のまま…ではなく、ちゃんとベッドで眠っていた。
     森君に抱きしめられる形で眠っていたのか目の前には彼の鍛えられた胸筋が視界いっぱいに広がっている。森君は既に起きているようで後ろからは紙をめくる音、昨日とは違ってそれに恐怖は感じなかった。
     モゾモゾと動いていると僕が起きたことに気づいたのか森君は本を閉じて顔を覗き込んできた。じっとしばらく見つめられた後、彼は安心したように笑う。
    「顔色は悪くねぇな」
    「お陰様でね…というか、原因はキミなんだけど?」
    「あ?仕置きっつったろ」
     嫌味のように言い返してこの反応、どうやら昨日の一件は許しを貰えたらしい。
     笑顔から一転不服そうに眉間に皺を寄せる森君を見て苦笑する。その皺を伸ばすように親指で森君の眉間をグリグリと押した。そして不意に頭に浮かんだ問いを投げかけてみる。
    「ところでキミ、あそこで僕が落ちてたらどうするつもりだったんだ?僕がセーフワード使わなかった時のこととか考えなかったのかい?」
    「はぁ?考えるわけねぇだろ、そんなこと」
     即答だった。
     そんなことの一言で済まされる事柄では無いはずだが、僕がおかしいのか?
     思わず呆然としていると、森君は眉間を押していた手を払って僕の頬を鷲掴みにした。
    「こちとらてめぇを信用して仕置きしてんだ。んな事考える必要ねぇだろ」
    「!…そ、うか…それはどうも…?」
     信用しているから仕置きするなんておかしなことを言う。でもどこか説得力のある言い分に押し負けてつい納得したような反応を返してしまった。
     割と強く握られている頬は未だ話される気配はなく、少しずつだが力が強くなっている気もする。いい加減離してくれと森君の腕に手を伸ばすと今度はその手を握りこまれグイッと僕の頭上まで持っていかれて覆い被さられた。気づけば頬を掴んでいた手ももう片方の腕を掴んでいる。
    「てめぇを信じてるからオレがいない外食も外出も許してたんだけどよぉ……次やったら二度と家から出られねぇと思え、おめぇはオレのもんだ。他の奴に見せる道理はねぇ」
     先程の笑顔はどこに行ったのか、本当に同一人物なのかと疑いたくなるほどの剣幕に息を飲む。しかし同時にあまり見ることの無い森君の独占欲を目の当たりにして嬉しいと感じている自分もいた。なんだかんだで僕らはお互いのことが大好きなのだ。
     
     とりあえず、次からは必ず連絡をしようと心に決めた。多分次やったら本当に首でも落とされかねないからね!
     
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