不器用な甘えべたのど真面目可愛い子。ひっ、…ぐ……。
ずっと布団でまるまって、暖かいはずなのに冷や汗が止まらない。
朝からお腹はじくじくじんじん搾り取られるみたいで、胃はぐつぐつ気持ち悪い。
(しんどい…なんて、言っちゃ駄目だ。そんなこと言う権利なんてない。)
がチャッ…。
「り、あす……。」
共同通路に接している扉から、ぬるりと兄のリアスが入ってきた。
「なに、お前。顔真っ白なんだけど。」
「せいりで、お腹いたくて…。」
「や、ここまでヤバイなら誰かに言えよ。その様子だと薬も飲めてないんだろ。まともに立てなさそうだし。」
「……。」
「今日は皆…男どもは頼りづらいとしても、ルーシーもアイビーもリビングにいたろ?」
「…っ…。」
‘’アイビー’’
「ア、タシは…アイビーが苦しかった時ズルいと思ってた悪い女だから人に頼っちゃいけない……。」
「ハァ…?何だそれ。」
「アイビーが、多分生理痛で辛そうだった時、ヴォックスが面倒を見てるの見て、アタシアイビー可哀想、辛そうとかじゃなくて、『アイビーずるいっ』て思っちゃったの…。アタシ最低な奴なの…。」
「それで一人でどうにかしようって?…馬鹿じゃねぇの…。」
「うっさい…。そんなの一番あたしがわかってる…、から、ほっておいて…。」
同じ女なのに。アイビーの苦しみだって分かった筈なのに。ヴォックスに開放されるアイビーを見て、アタシはずっとずるいって思ってた。
「…お前、あの時アイビーに薬渡してただろ。」
コツン。腕に当たる水入りのコップと、痛み止めの錠剤が入ったシート。
「お前がアイビーにしてやったことは、別に関係ないオレが今のお前にするのは問題ないよな?」
にやっと意地悪そうに歪んだ顔で、手元に押し付けられたのは紛れもなくリアスが私を思う優しさ。
一人でふつふつと耐えていたところに、きゅうにあたたかくされるとピリピリと涙腺が刺激されてしまう。
「…ッフ、りあずっ…!!!やさじくしないでよっ…。最低なアタシなんがぃ…、!」
「おーおー、泣いとけ泣いとけ。そんですっきりしちまえ。」
「うッ…ほんどっ!!りすぎ…ッ!!ンぐ…。う゛……。」
「はいーん。クッキーなら食えるだろ。」
せっかく自分一人で痛みに耐えることでケジメをつけようとしたのに、リアスはアタシを甘やかしてそれをぐちゃぐちゃにしてくる。
「ング…んむ…。」
「ン、水。」
これじゃあ禊も台無しだし、最低なアタシはなんにも罰されてない。
「…なに。生理で苦しんでる妹の面倒みたら甘やかしてる事になるわけ?」
「、~っ!!!!」
布団で潰れてるぺしょぺしょにわざわざ声をかけるだけでも大分甘やかしてる。
それなのに胃まで気遣って、薬を飲む前用のクッキーまで食べさせるなんて…。
特上の甘やかしにほかならない。
「はぁ……。病人に薬渡しただけだぞ。」
困ったふうにため息を吐くのに、リアスがポンポンとアタシの頭を撫でるその手はどこまでも優しい。
ふわふわ柔らかい手つきと視線に強い自分どんどん崩されて、弱ったミスタが顔を出す。
リアスになら、…すこしだけ弱音をはいても許されるかもしれない…。
「…っ、りあす…。」
「ん?」
「も、しんどいし、つかれた。…お腹もっいたいの……。」
「…そうだよな。疲れたのは絶対無駄に怒ったからだけどな。」
「…そうだよ。アホで最低なアタシはにリアスに八つ当たりして疲れたの…。もう、見ないで、優しくしないで、ほっておいて…。そのうちまた元に戻ってるから…。」
「おいおい。そこまでいってないっつの。大分よわってんなぁ…。」
「よわって…ない。こんな最低女は弱らな…。」
ひぐひぐ。ふとんにこもったって、側にいるリアスには泣き声だってなんだって全部聞こえてしまう。
恥ずかしいのに、喉が引きつるのが誤魔化せない。
「…お前さ、別に最低じゃないだろ。最低な奴は他人に嫉妬した事でここまで落ち込むもんかよ。」
「…………ッ。」
「人のこと羨ましいと思うのは当たり前だし、羨ましいと思ったって罰じゃない。」
「だから、なぁ。何も悪いことをしていないお前は他人を頼っていいんだ。つか、頼れ。」
「痛いのに、一人でよく頑張ったよ…。偉い偉い我が妹よ。」
布団越しに柔らかな手つきでぽんぽんと背中を撫でられて、蒸しタオルで涙でぐしょぐしょに濡れた頬を清められる。
気づかないうちに布団に滑り込まされた湯たんぽに意識しないうちに体まであったかくされて…。
ここまで兄に手を尽して優しくされたら…もう、完全に強いミスタはくずれていった。
「……リアス…。寝るまで一緒に居て…。」
「はいはい。次はこんなになる前に言えよ。」
「…うん…。」
恥ずかしいから、布団に潜り込んでした返事は、涙で少し滲んでいた。
そんな情けない返事に、小さい頃と同じでポンポン背中を叩くリアスに馬鹿みたいに安心してしまって…。
ポンポン、トントン…。
「ん……。」
ゆっくり痛みも遠のいて、だんだんと気持ちよく意識が溶けていった。
?
「ミスタ……?なんだ、もう寝たのか。」
この不器用など真面目が…。
リアスは呟く内容ばっかりが意地悪で、それを紡ぐ声色も、ミスタの額に張り付く髪を払う仕草もどれも「妹が大事だ。大事だ。」と今にも聞こえてきそうなほどに優しかった。
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