はじめて君をみたとき、嫌なことが全て吹っ飛んだ。冗談抜きで。
隅っこで、緊張してるけど、頑張ってて、小さな体で言葉以上の何かを伝えようとしてて、可愛くて、おしゃべりや歌は苦手そうだけどそれも笑顔で乗り越えてる、そんな君をみて頑張ろうと思えた。そんな夏の日のこと。
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「次のお客様、どうぞ」
あれから何度も夏を迎えたが、あの日の思いは変わらず、むしろ大きくなっていた。
一方で僕の推しである佐城雪美ちゃんも有名になり、多くのファンを魅了していた。
今日はそんな彼女の誕生日ライブであり、そのメインイベントの握手会に当選した。
人生初めて雪美ちゃんに会う。
一ヶ月前からドキドキしっぱなしで、職場の先輩にどうした笑と声をかけられるぐらいだった。昨日なんか一睡も寝れなかった。
「はい」
震える声で返事をし、頼りない両足に何とか力を入れ前に進む。
「....こんにちは....?」
情けない音が首の奥から鳴る。
可愛すぎないか、天使か?天使か....
自分の胸あたりまでしかない身長で、テレビやライブで見るより小さくて.....
「.....」
すっと、小さな手をだされる。
え、触っていいの?え、無理なんだけど、
え、え、え.....?
「....握手しよ?」
目の前の天使は小さく呟く。そんな優しさに心が痛くなる。恐る恐る両手で差し出されて小さな手を包んだ。
暖かかった。
「.....いつも....ありがとう....」
小さく微笑む天使。
涙がこぼれそうになった。
「....僕、雪美ちゃんにあったとき何も上手くいってなくて、でも雪美ちゃんみてて僕も頑張ろうと思えて、今すごく頑張れてて、えっと、つまり、その、、生きる希望になってくれてありがとう、って!あ、いや!ごめん!!気持ち悪いよね!!今の忘れて!!」
気付いたら言葉がぽろぽろとこぼれてきた。
言い終わった頃には恥ずかしくて死にたくなった。いや雪美ちゃんの前で死にたくはないんだけど。もっとかっこいいこと言いたかったのに。
「.....ありがとう」
雪美ちゃんは優しく微笑んだ。
「え、えっと、私....もっと頑張る.....だから....
一緒に....頑張ろ......?」
握った手は暖かかった。目頭も少しだけ熱くなった。
「....うん」
振り絞った声は今日一番震えていた気がした。
6年前の僕へ、あの時死ななくて良かったよ。
6年後の僕へ、頑張って生きるよ。