キスをする、それだけ。昼下がり、大学の講義がない晴れた日。
大和と岬の二人は、シェアハウスで昼食を摂ると、そのままリビングのちゃぶ台に向かってノートや教科書を開き、課題をこなしていた。
時折、これわかるか?と尋ねあい、他愛ない話をしたりして、二人の時間はゆっくりと流れていく。
(終わった)
そんな中、大和の課題が終わった。
大和は書き物の手を止めると、ふう、と一息ついたあと、おもむろに、横にいる岬へと顔を向けた。
するとそこには、俯いて、かっくりかっくりと船をこいでいる岬の姿。
昼下がりののどかな時に、岬が手にしているペンはノートを滑り、さ迷う線を産み出している。
「み…………」
大和は岬の名前を呼びかけて止めた。
それよりも効果があるものが、あるではないか。
大和は俯く岬に近寄ると、頬に軽く唇を当てた。
「……………………」
柔らかい頬に大和の整った唇が触れても、岬の反応は無かった。
ならば。
大和は岬の顎を強引に掴むと、無理やり横を向かせて唇を重ねた。
軟らかな唇が重なっても、岬は抵抗しなかった。
「………………ん…………」
それどころか、大和が啄むような口づけを注いでいると、上ずった声をあげ、首に腕を絡めてきた。
岬の行為を「了承」ととった大和は、そのまま岬の唇を舌で割ると、岬の口内に舌を入れ、絡めた。
「は……………んんっ………」
大和が口内を愛撫すると、岬は目を閉じたまま、熱い吐息を吐き出し、必死に大和の舌に自身の舌を絡ませ、快楽を得ようとしてきた。
「っ………………みさき………ッ………」
思わず、大和が岬の名を呼び、体を引いた。
すると、寝ぼけ眼の、頭がぽやぽやしたままの岬は、唇を唾液でてらてらとさせたままぼうっとしていたが、はっと我に返ると、たった今行っていた行為を思いだし、恥ずかしさと苛立ちに顔を真っ赤にし、涙目になり、握った拳を戦慄かせていたが、堪えきれなくなり、大和の胸ぐらへと手を伸ばした。
「なにしてくれてんだテメェ!!」
「なにって……岬が眠そうだったから、キスしたまでだが」
「意味わかんねえんだよ!」
「そうか?その割りには気持ち良さそうに……」
「っーーーーーーー!!」
大和が淡々と告げると、岬は言葉に詰まり、大和の胸ぐらを掴んでいた手を荒々しく離した。
「もう一度するか?」
表情ひとつ変えずに告げる大和に、岬は苛立ちを覚えた。
「なんでだよ!!!しねえよ!!あ……………いや………」
だから。
売り言葉に買い言葉とでもいうのだろうか、大和の提案を一度は拒否したものの、岬は口ごもると俯いて、口に手の甲を当ててしまった。
「どうした?」
首を傾げる大和を直視できず、岬は小さく呟いた。
「っ………別の部屋でなら…………して、いい……」
「…………………そうか」
すると、大和の笑顔がこちらに向けられて、岬はちょっとだけむっとしたが、机の上の教科書類をそのままに、立ち上がると、大和とリビングを後にした。
終わり。