『アルバム』「ねぇ、ノボリ。」
「どうしましたか?クダリ。」
二人は早朝、ギアステーションに向けて歩いていた時に、ノボリの真横を歩いていたクダリは呟いた。
「ここ最近、バトル少ない。みんなも家か休憩室でしかボールから出してあげれない。」
バトルは年中しているのだが、学生にとっては新学期が始まり、大人にとってはさまざまな業種が繁盛期を迎えている今日この頃、挑戦者は通常よりもかなり減っていたのだ。
「そうですね……ポケモンフーズを与えたり、手入れをするぐらいしか、遊んであげれてませんね。」
「だからさ、今出してあげようよ。」
「しかし、今は早朝ですよ?」
いくら騒いではいけないと言っても、10体もいれば、それなりに賑やかになってしまうだろう。
「う……そうだね。」
「ですから、お昼あたりに、売店でお弁当を買って、公園で軽くピクニックでもしましょうか。」
「っ!それ良い!すっごく良い!!」
カタカタと、嬉しそうに腰元の手持ちたちの入ったボールも震えている。
「早く行って、仕事終わらせよう!!」
タタタッ!と嬉しそうに走り始めたクダリ。
「まだ始業まで時間がかなりありますよ??」
心なしか頬を緩めながら追いかけていくノボリ。
その後、ギアステーションに着くと、ドリュウズが書類をせっせと運んだり、イワパレスが体調不良のお客様を乗せて運んだり、オノノクスが迷子の子供の世話を見てくれたこともあり…
「やったー!!早めのお昼!!」
「ええ、よく頑張りましたね。」
ポケモン達の活躍も相まって、お昼のことをモチベーションにし、二人はいつも以上に頑張り、ポケモン達との時間を獲得したのだ。
数時間後、ライモンシティの住人は、サブウェイマスターと、その手持ち達10体の楽しそうなパレードを見れたとかなんとか。
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「クダリ、そろそろ寝ましょうか。」
「うん………」
うとうととソファに座っていたクダリは、ノボリに連れられて自室に行こうとした時、ダストダスが長い腕を伸ばして、二人を捕まえた。
「ダストダス?」
「だす〜」
そのまま長身の二人を持ち上げ、のすっとソファに座った。
ノボリの世話もあって、ふわふわなダストダスの体に、二人は身を委ねた。
「一緒に寝たいのですか?」
するととても嬉しそうににっこりと笑った。
「しびぃ!」
「ぱれっ!」
するとシビルドンとイワパレスもズルイと言わんばかりにこちらにやってきた。
「シビルドン、ちょっと重いよ」
というが、クダリも心の底から嬉しそうだ。
続々と他の手持ち達も集まってきて、彼らの温かさと、心の豊かさを感じ、二人は目を合わせて微笑み、眠りについた。
「……ギギギ。」
幸せそうに眠る彼らを見つめ、ギギギアルもふんわり浮かびながら眠りについた。
夢の中でも、幸せな時を過ごしたからか、次の日も、また次の日も、世界は素晴らしいものだった。
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『みなさんスマイル!!』
そんな彼が泣くのは、一人の時なのです。
「………クダリ、こんな所に居たのですね。」
「……ひっく、ぅっ………」
雨でずぶ濡れの弟と、寄り添って困ったように足元で弟を見つめる彼。
「シャァン……」
優しく妖しい光を放ちながら、心配そうに見つめる彼女を嗜めて、そっと傘を差しますと、チラリとこちらを見つめてきました。
「……あの、ね。なんで、ここ」
私ととてもよく似ているその顔は、雨で濡れているのか、涙で濡れているのか、私にはわかりませんが
「貴方が何処で何を想っているのかなど、分かってしまうのですよ。」
すると気を遣ったかのように彼女はサイコキネシスで傘を持ってくれたのです
濡れることも構わず、隣に座るとそっと弟の背中を撫でました
そしてようやく、我慢をせず、思いっきり泣いてくれました
「………聞いてくれて、ありがと。」
一通り話終わると、いつものように笑顔を浮かべてくれました
「私だけでなく、この子たちにも言ってあげてくださいまし。」
元気になった?なった??と言うように、私たちよりも濡れてしまっているデンチュラはこちらを見つめてきました
「……そうだね。デンチュラ、シャンデラ、ありがと。」
こうして、『みんなでスマイル』になれるのです。
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「命というものは、皆等しく、心から愛しいものですね。」
ノボリはふと、抱えているヤブクロンを見つめてそう呟いた。
「うん。大きい子も、小さい子も、強い子も弱い子も、人もポケモンも、みんなおんなじ。」
勿論ぼくたちも。とにっこりと微笑みながら言った。
「これからもいっぱいいっぱい、出会いがある。きっと、お別れもある
でもその一つ一つが愛しくて大切になる
だから、ぼくはとっても楽しみ!」
きみ達がもっと大きくなるのも楽しみなんだ!
と、アーケンを抱えて微笑むと、空を飛んでるような高さが嬉しいのか、満足そうに鳴いた。
「……ふふ、」
「どうしました?クダリ。上機嫌ですね。」
「んーん。なんだか、嬉しいなって思っただけだよ。」
「………そうですか。貴方が嬉しいと、私も嬉しく感じますね。」
小さな命、しかし、それでいて大切な命の温もりを感じながら、二人は微笑み合うのだ。
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勇者は魔王を倒し、世界の平穏をもたらす。
勇者はいつだって主人公。
そしてその主人公は
「ぁぁぁあ!!!もうちょっとだったのに!!」
世界を救い、地下鉄に乗り、情けない悲鳴をあげていた。
「ぼくクダリ。ノボリと一緒に勝てちゃった。」
「やっぱり強いなぁ……サブウェイマスター。」
「初めていらした時よりも、お二人は強くなってきておりますよ。」
手持ちをボールに戻し、ピタッとまっすぐ背筋を伸ばして立つ二人
その姿は強者の棲んでいそうな白と黒の双塔のようで……
(……正直、マスターとかボスよりもラスボスの方が名前として合っていそうだな……)
なんて思ってしまうほどだ。
「またいつでも、きみ達の挑戦待ってるね!」
「心躍るバトル、心よりお待ちしてます。」
にっこりと笑うと、帽子を被り直し、その瞳が影に浮かぶ。
すると、ピリッ!!!とその場の空気が張り詰めた。
「「またのおこしを、お待ちしております」」
勇者達は、ゴクリと喉を鳴らした。
「「絶対にまたここまできて、貴方達を倒しますから!!」」
両者の気高く強き瞳が交わり合った。
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「今回は二体目にシャンデラを出そうかと思っているのですが……」
「あれ、今日はそうでいいの?」
「ええ。近頃バトルに選出できておりませんし。」
「おっけー。じゃあぼくは」
…………
…………………
…………………………
「ねぇ、今年の夏はサザナミタウン行きたい」
「おや、いいのですか?」
「そうしたら、泳いで、それで……」
「ならば、行く前にホドモエシティでカイスのみでも買っていきませんか?折角夏ですし……」
「それ最高!あと、コンビニで冷凍ヒウンアイス一箱買おう!」
…………
………………
「ねぇ、ノボリ、目玉焼きは塩だよね??ケチャップかけないよね??」
「ケチャップはオムライスにはかけますし、いいんじゃないんですか?カントーでは醤油をかけますし、わさびだけつけて食べる方も」
「………お二人って、よく話しますねぇ……」
と、それら全ての会話を見ていたてつどういんはつぶやいた。
聞こえていたからか、くるんと二人はそちらを向いた。
「おかしいですか?」
「い、いえ。ですが、お二人は生まれた時から一緒に育ってこられているんですよね?」
「うん。ずっと一緒。これからも。」
何を当たり前のことを言ってるんだという顔を二人揃ってしている。
「なら、なおさら話のネタなんてないんじゃないんですか…?」
「「・・・?」」
二人は全く同じタイミングで首を傾げた。
そして先にノボリが口を開いた。
「私たちは双子とはいえ、別の人間です。」
「見てるものが同じでも、感じたことは違う。」
「ですから、」
「二人で感じたこと、共有したい。」
例えば、あっち。とクダリは、クラウドに怒られているカズマサを見つめた。
「カズマサ、遅刻かな。」
「恐らく、書類に不備があったのかもしれませんね。昨日も何かあったようですし。」
「よくみると、寝癖ある。」
「寝坊、ですかね………」
「ところでノボリ、今日手袋裏表逆じゃない?」
「……おぉ!?確かにそうですね…ありがとうございます。」
(…………すごいな、なんか。)
別々の認識があり、別々の目線がある。
だからこそ、二人はいつでも楽しいのだろうし、話のネタも尽きることはないんだろうなぁ、なんて思うてつどういんだった。
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「なんや、お前ら何しとん?」
ある日の昼休みの休憩室。
大きなソファがあるこの部屋にクラウドがきてみると、大きな机の上には大量の写真が広がっていた。
「おや、クラウド。」
「あのね、家の片付けしてたら出てきたの。」
ペラリとクラウドがその写真を見てみると、彼らの幼少期の写真や食事やお茶をしているシーンやイベントの時に撮った写真のあまりなどがあった。
「随分幅広くあるんやなぁ」
「そりゃ、二人分だもん。あっこれ!鉄道のイベントで旗持って撮ったやつだ!」
「こうみると懐かしいですねぇ……これは確か、ダンスのイベントの……それに、あぁ、これはシャンデラがお菓子作りして、それを食べた時の………」
懐かしい懐かしい、と口々にしながら写真を見つめていた。
「……….こうしてみとると、お前らほんまに仲ええなぁ」
「でしょ?」
写真を見ているうちに思い出すことは、本当に沢山ある。
あの日、布団の中で幼い二人で夢を語り合ったこと。
あの日、新型の車両を二人で見にいったこと。
あの日、着なれない制服を着たこと。
あの日、二人でポーズを決めて写真を撮ったこと。
そして、二人で話、笑い、怒り、涙したこと。
全て過去から繋がり、今に至り、そしてこれからも繋がっていく。
「ねぇ、ノボリ。」
「なんですか、クダリ。」
パタリとアルバムを閉じて、胸に抱えた。
「これ、一冊じゃ無くて、もっともっと作ろう。ぼくたちの腕で抱え切れないくらいたっくさん!そしたら僕らは最強!」
心の底からの笑顔を浮かべ、嬉しそうにはしゃぐクダリ。
「最強って………バトルはそもそも強いやろ。」
「……….ふふ、そうですね。貴方と最強でいられそうです。」
心なしか口角を上げて、あまり顔には出ないが嬉しそうに微笑んだ。
「あっ、今のすっごいスマイルだった!カメラ持ってればよかったなぁ……」
「おや、そうでしたか…?貴方の言葉が嬉しく、つい。」
「え………」(そんな笑っとったか?)
「ほら!この写真くらい笑ってた!」
そう言って、二人では抱え切れないほど大量の写真を眺めて、顔を見合い笑い合った。
それはそれは、この世のどんな写真よりも美しく、華やかで、それでいて他のどんなものとも比べ物にならない程の価値のある世界だった。
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『ねぇ、きみは、今どんな写真を撮ってるの?
きっと、すっごく素敵な景色なんだろうなぁ。
….…そこに、ぼくがいないのが、ちょっぴり寂しい、けど
あのね、ぼく、きみの分のアルバムも持ってるよ。
勿論、ぼくの分のアルバムもぜーんぶ大事に残してる。
………正直、最初は抱え切れなかった。
でもね、ぼく達には、てつどういんのみんなや、ポケモン達、そして仲良くなったお客さんたちがいた。
みんなみんな、心の中に、思い出をいっぱい持ってくれてる。
みんなで、写真、いっぱい持ってるから!!
だから、一緒に、写真を見せ合いっこしよう。
今じゃ無くてもいい。
この線路のその先で、きっと、ぼくらは会える
だから、その時には、
また一緒に、二人で……ううん。
みんなで、ぼくらの大切なもの全部と一緒に撮ろうね。
約束だよ。』