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    kinopino3

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    kinopino3

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    大分前に言ってた露仗ネタ。
    少しずつ書いてってます。終わらん…どうして

    タイトル『』



    悲しいかな。
    この世の中、どれだけ不得手で不必要なものだと心の底から思っていても、いたとしても!
    【人】は誰しも、多少なりとも【他人】と関わらなければ、この現代社会では生きていけないのだ。
    そう、だからか。
    【他人】から様々な感情を寄せられることだって、間々あるのだろう。
    例えそれが自分の望んでいない…恋愛感情というもので、それが絶対に関わりたくないと思っている相手からであっても、だ。


    あー 気持ち悪い


    ただそれだけだった。
    季節は秋深まる、夕焼けの公園。
    目の前には同じ町に住んでいる…ある時は敵対、またある時は共闘した…東方仗助という、時代錯誤も甚だしい特徴的な髪型をしている不良少年。
    そんな彼に、所謂【愛の告白】というものをされた岸辺露伴が抱いた感想は、ただこれひとつだけだった。

    気持ち悪い。

    これがその時の正直な感想だった。

    元々思った事、言いたい事は絶対に言いたい性格なので、露伴はこの感想を仗助本人にはっきりと伝えたのだ。

    『ぼくは以前から君の事が嫌いだ。
     君がぼくにした行為の数々を思い出せば、一体何をどうしてどうやって好ましく思えようか?
     もし思えると思うのなら、君の思考が全く持って理解が出来ないね。』

    それなのに何をとち狂っているのか、この田舎の不良男子高校生は再度口を開いた。

    『おれは岸辺露伴が好きです。
     あなたに恋しています。
     おれと付き合って下さい!』

    ………溜息しかでない。
    このクソッたれ。今度は一体何を企んでいるのやら。
    仕事上、観察と情報収集を必要とする為、そこにはかなり自信がある。
    だが今日のこの仗助の表情と声色、その仕草からは悔しい事に彼の意図が正確に読めない。
    唯一分かる事と言えば、夕焼けに照らされこちらに微笑む仗助は何故か絵になるなと思った。
    本当にご両親に感謝しろよと言いたくなる、極上に容姿の整った奴。
    衝動的にスケッチブックとペンを持つ手に力が入るが、それを抑え、目の前の仗助の微笑みに睨み返す。

    (面倒くせぇなあ…)

    この告白自体、質の悪い悪戯なのでは?
    そう思い辺りを見渡すも、ここはすでに子供達の帰った静かな公園で、他人の気配もない。
    仗助とよくつるんでいる、アホの億泰もいないようだ。
    こいつ、本当に一人で……?
    少なからず仗助は露伴が自分に友好的でない事も分かっているし、仗助本人もこれまで露伴は康一の友人…または近所で顔見知りの有名人位の距離感だったはず。
    何が…この【愛の告白】に至るまでの、どんな心境の変化があったのだろうか。
    そういった疑問は少なからず残るが、内容が内容なので拗らせる前に早く終わらせなければいけないという思考が勝る。
    正直好いた惚れたなど今の露伴には興味もないし、時間の無駄だし、勝手にすればいいのだ。
    そも成人である自分が、今年高校生になったばかりの16歳の子供(同性)相手に恋愛感情なんて生まれる訳ないだろう。
    ぼくの職業を何だと思ってるんだ!
    これ以上仗助の相手をする事が心底煩わしいと思い、しっかりと向かい合い、はっきりとした口調で目を見て言う。

    「東方仗助、ぼくは君の事が嫌いだ。
     このぼくが君の事を好きになる事はぜーーーーーーったいに!ない!!」



    ■ ■ ■



    東方仗助を盛大にフッてやったのが、先週の出来事。

    我ながら手酷くフったものだと思う。
    その後カッハッハと笑いながら去ったのは、正直どうかとも思うが。
    これまで仗助から受けた鬱憤もたまっていたのだろう。
    正直にいえば…爽快だった。
    本当に露伴にとっては迷惑でしかないのだから、間違った対応はしていない。
    だが嫌いな、しかも同性の少年から告白されるという…ある意味貴重な体験が出来た事にだけは、感謝してもいいかもしれない。
    大迷惑でしかないのだが。

    この時の露伴は思っていた。
    これでこの件は終わり、再びクソッたれ仗助に極力関わらない日常が戻って来ると。



    「こんにちは、露伴先生」
    「……あぁ、こんにちは」

    何故だ。
    ………フッて以降町で仗助と出会っても、彼はまるで何事もなかったように接触し、挨拶をして来る。
    以前挨拶ぐらいしろよなと言った事を、あの軽そうな?頭で覚えてるらしい。
    もちろんこちらも大人として挨拶(軽く)を済ませれば、以降相手にはしないことにした。
    面倒だし、あぁもう面倒だ!
    クソッたれ仗助なんかより奴の隣にいる、もうどうしてこんな奴と一緒にいるんだいぼくの親友・康一君
    今日も君に会えて本当に嬉しいよと、沸き上がる喜びを隠せず挨拶している横で、微笑む仗助の姿がやけに目に入った。

    (……何だ?)

    そういえばその微笑み、先週フッた時もしていた事を何故か思い出した。

    目の前で繰り広げられる露伴と康一のやり取りを、さもいつもの光景だと言わんばかりに笑う億泰。
    そして仗助は康一へ、自分達は先にマゴへ行っているから話が終わったら来いよと声をかけてくる。

    (ぼくが康一君と話しているんだ。邪魔をするな!)

    そう思うと同時に、露伴の頭の中に新たな疑問が浮かんだ。
    人は誰しも好意を寄せた相手にフラれたら、多少なりとも傷付き落ち込んだりするものではないだろうか?
    少し距離を置こうとか、会ったら気まずいとかそういう事は思わないのだろうか?
    いや…思うはずもないか、何せこのクソッたれ仗助。
    こちらの考えている事といつも逆の事をする腹の立つガキ。
    今日の東方仗助は普段通りに見える。
    しかし去り際、こちらを微笑みながら会釈するその姿がひと際目に焼き付いて、…何見てんだよクソッたれと、ムカついた…そんな午後だった。



    ■ ■ ■



    「なぁ君。どうしてフラれた相手に会って、へらへら笑ってられるんだい?」
    「…はい?」

    逃れられない己の性分なのだ。
    一度でも気になった事はどうしても、何をしても知りたい。
    いくら嫌いな相手でもその性分に抗えなくなった露伴は、己の内に生まれた疑問を、後日丁度良く道端でばったり会った仗助に問いかけた。
    またいきなり何を言ってきてんだこいつは…と、そんな感情が含まれている視線を隠しもせず向けてくる仗助に、露伴はさっさと答えろよと再度問い詰める。
    深いため息が露伴の耳に届く。

    「はぁ……いや、別に?そりゃああんたにフラれて…結構凹みはしましたけど…。
    でも一回フラれた位で、このおれがあんたを諦めると思ったんスか?
    んなヤワな惚れ方してないんで。残念でしたッ!!」
    「………」

    …つまり仗助はまだこの露伴に恋をしていると?愛していると??
    それはやめろ。気持ち悪い。
    想定外の答えに露伴は眉を顰め、唇をへの字に曲げて言葉を無くす。

    「って何スか~もぉ顔こわっ!
     聞かれたから答えただけで、おれ別に何も悪くねーっスよねぇ⁉
     …暫くは大人しくしてようって思ってただけでよぉ…。
     あっ!何?露伴ってばそんなにおれの事、気になっちゃってます?」
    「なる訳ないだろ。変わらず君の事は嫌いだよ。」
    「あはは〜じゃあ何でまだここに居るんスか。
     こんな質問までしてよぉ…。
     …露伴ってば自分がフった相手の事とか気にするんですね、意っ外。やっさし〜~~」
    「………」

    不快不快不快。とにかく不快。
    何故東方仗助と数分話すだけで、ここまでイライラさせられるのか。
    前回同様フラれたのににっこり微笑む仗助に、腹の底からムカムカとよろしくない感情が沸き上がって来る。
    いっそのこと東方仗助のぼくに対する【その感情】をヘブンズ・ドアーで消してやろうかとすら思う程、不快だった。
    だが…そんな事はしない。
    仗助のその感情は彼にとっては真実。
    それがいかにぼくにとって不快なものでも、ぼくの生死に関わることではない以上手を加えてはいけない…。
    自分のスタンド能力は、使うべきときにだけ使うものだ。
    思春期の好いた惚れたなんてものは一種の風邪みたいなもので、いつか冷めて、気が付いたら次に行くだろう。
    ………もう放っておこう。



    だがこの日以降、仗助の行動が変わった。
    出会えば笑顔なのは変わらずだが、ただそれに「こんにちは露伴先生、今日も大好きっス〜」っと【愛の告白】をしてくる。

    何なんだこいつ。

    朝ならおはよう。昼ならこんにちは。夕方ならこんばんは。
    それだけでいいだろう。
    なのにあいさつの後に、必ず露伴を好きだと告げてくる仗助。
    露伴の中に気持ち悪い以外の感情が芽生えるまで、そう時間はかからなかった。

    何故挨拶と共に告白を?
    これではあまりに自分を軽く見ていないか?いや、見ていやがるんだこのガキは。
    身の周りに置くなら良いものがいい。粗悪なものはお断りだ。
    様々な思いを巡らせつつ、最終的にやはり仗助に腹が立つ。
    その【愛の告白】付き挨拶をされる度、露伴は「あぁ、こんにちは。ぼくは君が嫌いだ」と…手酷くあしらっていた。
    そしてそれに微笑む仗助。

    そんなやり取りが何度となく繰り返されて幾日後。
    もう半ばふたりだけの挨拶になっていた頃、多少ながら他愛無い会話もするようになった事は、露伴にとって誤算だった。
    ある時はオーソン前にたむろっていたいつもの3人に肉まんを奢ったり、またある時はマゴで仕事中、やって来た彼らと席を共にしたり…。
    今日学校であった事(主に康一君に関して)、スケッチ中何を描いているのか…これから何を描きに行くのか。
    漫画を描くのに使っている道具、最近のファッションについて等々。
    …こうして仗助と話すようになって、分かった事が幾つかある。
    自覚があるなしに、仗助は知的好奇心が強いのだ。
    だから一度関心を持ったものにはとことんのめり込むし、自ら楽しむ為常に思考を巡らせ、言葉を通して他者との交流を図っている。
    それだけなら露伴からすれば、どこまでもうるさい奴だと一掃出来るのに、その反面人の話をよく聞ける奴でもあるのが厄介だ。
    露伴は喋りたくないと思ったなら仗助が自分から話しかけ、露伴が話す事をすれば仗助は黙って耳を傾けてくる。
    そこに、あの微笑みを浮かべながら。
    だから絶対に…そのせいなのだ……魔が差して、どうして仗助が露伴を好きになったのか聞いてみたりしてしまったのは。
    仗助からの答えはハイウェイ・スター戦で助けてくれた時、グッと来たからだとか。
    いや…さっぱり分からない。
    しかし誰かを好きになる事に、そう深い理由などいらないのかもしれないと最近の仗助を見ていて思うようになった。
    東方仗助は嘘つきだ。それなのに今その蒼い瞳に宿るものは紛れもなく真実を…語っていると…そう思う。
    この少年は本当に、岸辺露伴に対し、親愛の情を抱いているのだと、そう…思わされる。
    まさかこのクソッたれのガキから学ぶ事があるとは…と、その話を聞きながら露伴は鼻で笑った。



    その日の夜、露伴は夢を見た。

    ここは見覚えのある部屋だ。
    椅子に座っている人物の前に、自分は膝をついていた。
    指から掌に、広がる温かい感触。
    焦らすようにゆっくりと、自分のものより相手の太い指に自分の指を絡ませた。
    時代錯誤の改造学ランに包まれた、見るからに恵まれた身体。
    それに似合わず驚く程くびれた腰を通り、開かれた胸元の…衣服の黄色に視線が釘付けられる。
    今すぐその服を開いて、直に肌を拝んでみたい触れてみたい衝動がふつふつを沸き上がる。
    なんてもどかしい。
    指はそんな思考など素知らぬ動きで、絡めていた指先から手首に腕…首を通り相手の頬に触れる。
    自分は立ち上がって、手に力を込め、目の前の人物の顔を自分の顔に向けさせた。
    前髪を上げる特徴的な髪型だから、異国の血が通いそれはそれは整った相手の顔がよく見える。
    その蒼い瞳はこれから起こるであろう事に対して、不安と期待を混ぜて揺れているのがいじらしいとすら思う。
    だから絶対に逸らすんじゃあない。
    少しだけ開かれた下唇を親指の腹で撫でてやれば、小さく名前を呼んで来る相手に笑ってしまう。
    あと少し、ほんの少しで触れるであろう自分達の唇。
    それの何を戸惑う必要があるのだろうか。
    だって君




       「ぼくの事が好きなんだろう?」






    驚愕と嫌悪と…罪悪感を抱えて目が覚める朝ほど、酷いものはないだろう。
    今日だけは東方仗助に会いたくないと心の底から思いながら、露伴はベッドから起き上がった。

    その願いが天にでも通じたのか、町でぱったりと仗助を見なくなった。
    とはいっても一週間未満なのだが、何故か毎日彼に会っていた…そんな気がして露伴は一度首を傾げる。
    杜王町は確かに田舎の町ではあるが、人口密度的にも会おうと思えば会える、会わない時は会わない…そんな広さのある町。
    露伴と仗助の生活エリア的にもそう被る事もなく、逆に今まで会えていた事がおかしかったのだと答えが出た。
    それと同時にこれまで仗助と会えていたのは…彼が自分に会いに来ていたからなのだと理解出来た。
    それが会わなくなったという事は、ついに仗助の奴が自分に告白する事を諦めたかと鼻で笑ってから、ふいに止めたその理由が気になってもやもやしてしまう。
    ……理由?そんなもの分かり切っているだろう。

    『普通フラれたら少し距離を置こうとか、そういう事は思わないのだろうか』

    これが分かり切った答えだ。
    …だが仗助は言ったのだ。

    『一回フラれた位でこのおれがあんたを諦めると思ったんスか?んなヤワな惚れ方してないんで』

    そう、言ったのだ。
    なのに…何故?
    知りたい。そう、ただ知りたい。
    あぁ言っていた仗助は今、何を思って行動しているのか…ただ知りたいと露伴は思ってしまったのだ。





    数日後。

    ネタ探しの散策、資料として写真を撮り歩いていた露伴は、ふと足を延ばした駅前で康一と億泰に会った。
    まだ帰宅ラッシュを迎えていない改札は落ち着いていて、すぐ近くのベンチに並んで座っていた二人に気が付かない訳がなかったのだ。
    二人の通学に駅は関係ない。だからどうしてここに居るのかと尋ねる。
    特に予定もなくいるのなら、この後一緒にお茶でもどうかな康一君。

    「仗助君が今日、東京から帰って来るんです」
    「…?…仗助が東京?何故?」

    …本当に疑問しか抱かせない奴だな。
    加えて尋ねても、二人とも詳しい事は未だ聞けていないらしい。
    ただ承太郎さんから連絡を受けて、SW財団に…との事。

    (あぁ…承太郎さん、ね…)

    空条承太郎…仗助の年上の甥にあたる人物。
    仗助も随分彼に懐いていたように見えた。
    実際の所、仗助にとってかなり頼りになる人物だという事は傍から見ても分かってしまう。
    別にふたりが共に居た所を多く見た訳ではないが、あのハイウェイ・スターとの戦いに勝利した仗助が、承太郎の運転で自分を迎えに来た時とか……。
    思えばあの時の仗助はひどく負傷していた。
    それなのになんの治療もせず自分を迎えに来て、治療してきやがったのだ。誰がそんな事を頼んだ。
    それ以前に自分の「逃げろ」の忠告を無視した仗助に対し怒っていたので、その後承太郎さんにこの仗助をさっさと病院へ連れて行くよう進言していた。
    それに対し何か言いたげだった仗助も、結局は彼に逆らわず車に乗って去っていった。

    (……ぼくの言う事は一切聞かなかったくせに)

    思い出したら無性に腹が立った。




    「あっれ~?何だよお前ら、迎えに来てくれたのか」

    ふと視線を下にずらした後耳に届いたのは、変わらず気に障る…久しいあの声。
    仗助は駅の改札から出てくると、友人二人に笑顔で手を振りながら挨拶をし、露伴を見てどもっスと言いながら会釈した。
    普段見慣れたあの改造学ランではなく、シンプルながら彼に良く似合った私服を纏った仗助は、一言でいえばやはり目を引く。
    その整った顔立ちと恵まれた体格は、同年代の少年にとって憧れなのではないだろうか。
    ここまで来ると一種の芸術……と、ここに来て先日見てしまったあの夢を思い出してしまい、露伴は一瞬にして血の気が引いた。
    高校生達の騒が…賑やかな再会劇を終始無言のまま見ていると、その視線を感じた仗助が露伴へと視線を向ける。
    何でここにあんたが居んの?といった風。
    そう思うのも無理はない。
    その純粋な疑問を浮かべた顔をした後、仗助はいつものように微笑んで挨拶をして来た。
    ……ただそこに『好き』という、いつもの告白は続かなかった。

    何故かそれがひどく引っ掛かって、あぁ康一君と億泰の前だからなと自分に言い聞かせていることに、露伴は驚いてしまう。
    そんな思いをよせる露伴を置いて、仗助はその場でふたりに東京土産を渡し、久しぶりに会った承太郎との話や初めて一人で行った東京の話をして解散した。
    康一君は塾へ、億泰は仗助の家の近所なのでこのまま二人で帰るのだろう。
    秋の夕暮れは短い…。
    杜王駅はすでに帰宅ラッシュだ。

    (どうして最後まで残って聞いていたんだ、ぼくは…)

    答えは出てこない。

    「露伴」

    露伴が帰ろうとベンチから立ち上がると、仗助から声を掛けられ振り返る。
    どうやら聞かれたくない話なのか、億泰とは少し距離を置いている。

    「何だよ」
    「…っと…あのよぉ…もの凄く大事な話があるんで、明日露伴先生の家に行っていいっスか?」
    「……何で。嫌だよ、ここで言いな」
    「本っ当にだ~~~いじなッ話なんで!ふたりっきりで落ち着いてお話したいんスよ!ね?なぁ?お願いします!!」
    「………」

    両手を合わせて首を傾げ、上目遣いで『お願い』と頼んで来る仗助を露伴は半目状態で睨みつける。
    なんだそのくっそムカつく仕草。
    それが許されるのは可愛らしいか、または美人の女性だけだぜ。
    露伴の好みかどうかは置いておいても、それがごく一般的な意見ではないだろうか。
    しかし久しぶりに見た仗助は以前と変わらず、露伴に対し微笑んでいたから安心してしまったのかもしれない。
    なんだ、こいつ何も変わっていないじゃあないかと。
    だからそれ以上は断らなかった。

    「…まぁ、いいよ。16時以降ならいつでも来な」

    まさか自分も貰えるとは思っていなかった東京土産を軽く掲げ、こいつの礼に茶くらい…そんな軽い気持ちだった。
    露伴は自分が背を向けた瞬間、仗助がどんな顔をしていたかなんて想像すらしなかった。
    今はふたりきりなのに、それでも仗助から『好き』と言われなかった事は気になった。
    気にはなったけれど…それを頭の隅に追いやり、もうこれ以上考えないようにしたのである。

    東方仗助は岸辺露伴に微笑んでいる。

    それだけは変わっていない。
    ……何かに追いつめられると、人は自分に都合のいい面しか見なくなるものだ。


    ■ ■ ■


    翌日、約束通りにやって来た仗助は相変わらず微笑んでいた。
    玄関の扉を開き、軽く挨拶を済ませた後応接室に招く。
    そして昼間マゴで買っておいた人気のショートケーキとそれに有った果物ジュースを出してやると、仗助は驚いたのか目を見開き、たどたどしく感謝の言葉を口にした。
    …こいつは、ぼくを一体何だと思っているのだろう。
    客として招くと伝えた以上、しっかり準備し持て成すのは当然だろう。
    ……仗助はよくイチゴ牛乳というその風貌に全く似合わない、クソ甘ったるい飲み物を口にしているのを見た事があるので、問題ないだろうと思ったのだが…。
    もしかして、あまり気に入らなかっただろうか…。

    「露伴先生の家来るの、久しぶりっス」
    「当たり前だろ。誰が好んでクソッたれを招くかよ」
    「ですよね~」

    不思議と、とても穏やかな心地だった。
    たった数日、仗助と会わなかっただけで生まれたあのもやもやが噓のように晴れ、今彼が着ている改造学ランがよく似合っているとすら思えてしまう。
    そしてそのデカい図体で、フォークを使い少しずつショートケーキを食べる姿にはもう面白さまで感じてしまう。



    だから油断してしまった。



    「それで、大事な話って?」

    テーブルをはさんで向かい合って座った。
    しばらく他愛もない会話をした後、自分用に持って来たコーヒーを飲み干したから、そろそろ…と露伴から話題を振った。
    ふたりっきりで落ち着いて話したい大事な話とは?
    どうせ何時ものように自分に告白してくるのだ、この仗助は。
    1週間近くご無沙汰だったから、わざわざ家に来てまで伝えたいとは恐れ入る。
    こちらもこの数日分のもやもやの腹いせに、これまた手酷くフッてやろうじゃあないか。
    さぁ早く言えよとばかりにフッと笑いながら目を閉じ、仗助の言葉を待つ。

    「お願いがあります。おれの…露伴への恋、ヘブンズ・ドアーで消して下さい」


    ……は?


    一ミリとも思ってもみなかった仗助からの言葉に、思わず妙な声が飛び出しそうになるのを堪えた。
    …動揺なんてしていない。出してはいけない。ましてや仗助に少したりとも感ずかせてはいけない。絶対に。
    そう判断すると同時に、なお浮かび上がろうとした動揺を顔の皮の下に隠し、無言を保ったまま黙って仗助の方を見上げる。
    その先にある仗助の顔からは、ずっと向けられていた微笑みがどこかに消え失せて、ただ真剣に真っ直ぐ見つめてくる蒼い瞳に思わず息がつまる。
    このガキは今、なんと言った?自分の恋心を消せ??
    『一回フラれた位で諦めると思ったんスか?んなヤワな惚れ方してないんで』
    などとほざいたガキは、一体どこに行ったのだろう?
    やはりそうだった。どこまでも自分を軽く見ていやがると、腹の底から巨大な怒りが湧いてくるのを感じる。
    簡単に消せる程度の想いなら!最初から言葉にするな!!声に出すな!!
    ぼくに伝えてくるんじゃあない!!!
    …それが無理だったなら、あの時…一度断られたあの時にさっさと諦めておけばよかっただろう…。
    おかしいと思ったのだ。
    一世一代の告白ですよ的な空気醸して、それなのにフッた翌日から何事もなかったようにしていやがった。
    やはりそういう事なのだ。
    こいつの言葉は何一つ信用ならない。嘘つき。
    東方仗助は嘘つき。
    それに付き合ったぼくの時間をどうしてくれると腹が立つも、ここまで巻き込まれ乱されたので理由だけは聞いておきたい。
    聞く権利は十分にある。
    知りたい。そう、ただただ知りたい。
    仗助が今、何を思って行動しているのか…ただ知りたいと思う自分が確かに居るのに、今はもう何も知りたくもないと反論する声が頭の中に響く。
    いいや、そんな事は絶対に許されない。
    岸辺露伴には知る権利がある。
    仗助自身が【その感情】を消せというのなら…向けられた自分はその理由を絶対に知らなければならない。
    彼の真実を消せというのなら尚更だ。
    その理由を知らずにやるのと、知ってからやるのとでは、あまりに労力への報酬の価値に差があり過ぎるのだから。


    「……何故だ?」
    「…何故って」

    あぁ…えっと…何処から話せばいいのかと言葉を詰まらせ、目を細めた仗助は唇をその手で覆った。


    一番最初に露伴に告白した時、本当に怖かった。
    自分の想いが露伴に受け入れられる訳ないと思っていたし、でも胸にしまっておくにはもう溜まり過ぎて。
    露伴からの答えは案の定で…。
    投げつけられたその言葉は……そう、とても…とても痛くて悲しかったけれど、それでも今は自分のこの想いを伝えられた事に意味がある!
    価値があるスよ!と己を奮起させた。

    『一回フラれた位で諦めると思ったんスか?んなヤワな惚れ方してないんで』

    この言葉は仗助の心からの本心で、希望で願望で……祈りだった。

    露伴は嘘つきな仗助を嫌いだと言ったから、まずは自分の心に正直に、
    彼に会う度心から『好き』だと伝える事にした。
    それは自然と声に出た。寧ろまだまだ沢山あるから、出し足りない位だ。
    胸の中で溜まりに溜まったこの言葉が口から飛び出して、彼に当たって弾け飛ぶのが面白くて…また一周回って気持ち良い。
    もっと伝えたい。何度だって言いたい。
    露伴、あなたが好きですと。
    ……何か最近露伴も気にかけてくれてる気がするし?
    それがどんなに…どれだけ嬉しかったことか、いつかこの人に分かってもらえるだろうか…?

    そんな【愛の告白】が半ばふたりの挨拶になった頃、仗助はふと考えてしまった。
    今までは自分の想いを伝える事しか考えていなかったから…露伴と隙あらば会話し、彼の話に耳を傾けて、その幸せを噛みしめていた。
    けれど改めてこれは、露伴側からすれば迷惑以外の何物でもないのでは?と思ってしまった。
    あぁ何を今更。
    恥ずかしくて申し訳なくて、でもこれ以外に自分の真実はない。
    止めてしまえば自分はまた露伴の嫌いな噓つきに戻ってしまう…。
    自分が【愛の告白】をすれば、露伴はそれを鼻で笑いながらも何かしら返事をしてくれて、彼が自分にかまってくれる事が嬉しくてまた笑ってしまう。
    でも……その仗助の【愛の告白】に対し、仗助が露伴から欲しい【何か】が返って来る事はない。
    そんな事は最初からわかりきっていたのに…。
    出て行くだけでは、いずれ空になるという事は何故わからなかったのか。

    これからも露伴に【愛の告白】を伝えれば、かまってはもらえるだろう。
    ああ見えて露伴は根はとても優しい人だから、真剣な相手を無下にはしないのだ。
    彼なりに考えて、彼の出した答えをもって対応してくれる。
    それが歯に衣を着せぬ物言いだから、正直言って仗助の心にグサグサと刺さっている。
    最初は平気だった。恋は無敵だ盲目だとは、よく聞いた言葉だ。
    この先も露伴は、仗助が望む関係など絶対に望んではくれないだろう。
    自分の行動が好きな人を困らせていると一度でも自覚すれば、もう駄目で。
    【愛の告白】をしてフラれる度こみ上げていた微笑みは、気が付いたらただの張り付いた笑い仮面に変わっていた。
    【愛の告白】をした口の中に残るのは、もう乾いた砂を嚙み砕いたような感覚だけ。
    何故自分は好きな人に告白しフラれて、彼を困らせていると分かったのに笑っているのだろうか…。



    露伴に好きになってもらえないのならもういい。

    (それは違う)

    この想いを伝える事に意味なんてない。

    (そんな事ない)

    露伴に好きになってもらえないなら…

    (決めつけんな馬鹿)

    この気持ちに価値なんて

    (…ないんだよなぁ)


    露伴に恋焦がれるだけでは、もう嫌だと声に出した筈なのに。
    露伴の心を手に入れる為ならと、彼の嫌いな自分を変える事から始めた
    けれど、自分では頑張って変えてきた…けれど、今その現実は?
    かつて自分が露伴に恋し、焦がれ、この人と…そう夢にみたものになっただろうか?
    冷静を取り戻した今なら分かる。
    どうして自分が変わりさえすれば、露伴に好きなってもらえるなどと思っていたのだろう。
    …え?思い上がり激しくないっスか??
    おかしい…こんな筈ではなかった筈…。おかしいな。
    結局仗助は自身が欲しい未来だけを妄想して、我慢出来ずここまで暴走して来てしまったのだ。
    露伴に恋し、夢に見た関係とは随分かけ離れてしまった。
    そうさせたのは自分の情動だ。
    それに気づいた時【愛の告白】の意味も、価値なんてものももう信じられなくなっていた。
    随分と遠回りをしてしまったけれど…とても迷惑をかけてしまって本当に申し訳なかったですと、仗助は露伴に向かってその頭を下げた。
    露伴のスタンド能力で消せば間違いなし、これまでの鬱憤を晴らして下さいよと…そう続けて。

    「お願いします。」
    「………」

    その言葉を受けて露伴は暫く黙り、目の前に広がる仗助の独特な髪型の頂点を見つめていた。
    思わずそこを鷲掴んで、今その下にあるであろうクソ不細工な顔を拝んであらん言葉の限りを尽くして罵倒やろうかとすら考えていた。
    …黙って聞いていれば、本当にどこまでも自分勝手なクソガキだと思う。

    いいだろう、そこまで言うなら望み通り消してやる。
    確かに最初から腹立つことばかりだったし?
    迷惑ばかりで?
    かと思えばもやもやさせられて?
    この数か月、本当に散々な日々だったのだから。
    本人もこのように反省し、こちらのストレス発散方法を提示して来ていることだし?
    ここは今の仗助にとっての『いい大人』として、対応してやろうじゃあないか。

    ……頭が痛い。

    「分かった。……それじゃあ君の望み通り、『東方仗助は岸辺露伴への恋心を忘れる』と書いてやるよ。」
    「ありがとうございます。」
    「…だがこの後、また君がぼくに恋をして来たら、流石にたまったものじゃあないからさ。
    『岸辺露伴に二度と恋をしない』と追加で書かせてもらう。」
    「いいっスよ。」
    「…そうかよ。」
    「ははっ……もう露伴さ、何でそれわざわざ言っちゃうんスか~言わずにただ書けばいいのによぉ。」
    「……」

    いつの間にか胸の前で組んでいた腕に力が籠る。
    そうだ。これは全く持って仗助の言う通りだ。
    ただ彼にそう書き込めば、二度とこんな面倒なことにはならないのだ。
    この岸辺露伴には、それが出来る能力があるのだから。
    真実を…なかった事にする事が出来る能力が。


    ……それは誰の真実だ?


    「おれがそれだけは止めて欲しいって頼んだら、書かないでくれるんでしょ?本当露伴ってそういうとこ優しいっスよね。」
    「勝手に妄想してろよ。」
    「……ははっ。妄想は…うん。もう…いいっスかね。」

    仗助はまた下を向いて、こめかみ付近を指で掻いた。

    「…それにさ、おれ、んな事言いながらも露伴は絶対書かないと思う。」
    「…書いたらどうする。」
    「したら…おれはそういう人を好きなったんだなって思います。
     んで…おれがそんな露伴に恋をした事、露伴だけが知ってて…覚えててくれるんだって思うと嬉しい。」
    「…はっ、冗談だろ。誰が覚えてなんかやるもんか、キレイさっぱりさっさと忘れてやるから安心しなよ。」
    「…はい」

    再び顔を上げた仗助の表情は、初めて彼をフった時と同じように…どこか安心したと言わんばかりに微笑んでいた。
    本当にムカつくよなぁ…その顔。
    何最初から答えは知ってましたみたいに笑いやがって…と露伴は睨みつける。
    それでも再びその微笑みを描きたいと思ってしまう魅力に敵わず、指先に力が入り、相殺させる為に強く拳を作った。

    こちらだって、最初から分かっていたんだ。
    ただその時はそれがとても気持ち悪くて、ひどく面倒だと思って…遠くへ思いっきり蹴飛ばしたのだ。
    なぁ仗助…君は今、俯いた先で下唇を噛んだんだろう。
    うっすらと赤くなっているのが分かる。
    ぼくの返事を聞いて、本当に一瞬だけ見せた表情を見逃すことは出来ない。
    あぁ…君、今ぼくの言葉に傷付いたんだな。
    君は本当にぼくの事が好きなんだって……今、ようやく分かったよ。
    そしてぼくが目を奪われ、描きたいと思ったその微笑みを見せる度、君はぼくとの未来を諦めて行ったんだな…。

    一番最初に告白してきた時と同じ。
    あの時も君はぼくの言葉に傷付き、それでもぼくを好きでいた。
    そして今もぼくを好きと言いながら、その上でぼくを好きな気持ちを消して欲しいと…。
    それをぼくに頼むのか。
    本当にどこまで面倒で悪趣味で恐ろしいクソガキなんだ。
    ムカつく…。
    何もかも自分の望んだとおりになる訳じゃあないんだぞ。
    …そんな事、ぼく自身がこの最初全部からわかっていたのに。

    「…報酬は貰うからな」
    「え?あ…報、酬……?」

    それは予想外の要求だったのだろう。
    慌てる仗助の傍に、露伴は無言のまま歩み寄り見下ろす。
    椅子に座る仗助と、その横に立っている露伴。
    幾日か前に見たあの夢の再現なのだろうか…。
    正夢なんて信じてなどいないけれど。
    そのまま黙って見下ろせば、髪型よろしく本当によく見える…整った仗助の顔だ。
    見上げてくるその蒼い瞳から、露伴はもう視線を逸らす事なんてしない。
    逆に、あぁそうだよく見ておけよと思う。
    ゆっくりとした動作で仗助の頬に手を伸ばす途中、その手に気が付いた仗助が考えていたであろう回答を口にする。

    「あの…報酬ってのは昨日の土産でなんとか…」
    「…はぁ……もう君、黙れよ」

    今のこの状況、何も分かっていないのだろう。
    これから自分が、目の前の男に一体何をされようとしているのか。
    そもそも勘違いしているんだ。
    制止の言葉を受けてなお、開こうとした仗助の口を露伴は己の口で塞ぐ。
    そして静かに、ゆっくりと離した。
    夢では味わえなかったリアルな感触に、あぁもう一度と……露伴自身は強く望んでいた。
    だがそれを止めさせたのは、驚きに見開かれた仗助のあの蒼い瞳。
    それと目が合った次の瞬間、仗助の顔が本へと変わる。
    倒れ込んだ仗助を支えながら1ページ…また1ページと捲っていく。
    そこには沢山の事が書かれていた。
    本当に、本当に沢山の事……先程、仗助自身が話していた事と全く同じ事が書かれているのには笑ってしまう。
    笑いが止まらない。
    一体この数か月の出来事はなんだったのだろう。

    あぁ、まただ。
    頭が痛い。
    吐き気がする。
    どうしてこのぼくが!!!

    ≪東方仗助は岸辺露伴への恋心を忘れる≫

    腹の奥底から今にも飛び出しそうになる衝動を抑え、仗助の一番新しいページへ…優しく丁寧に文字を書き込んでいく。
    この世界で露伴以外の他の誰も見る事の出来ない、露伴にしか書けない仗助への文章。
    それはまるで恋文だなと思った。



    ■ ■ ■


    ……続く。
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