次の日めちゃくちゃ反省したその日は一日穏やかな日だった。
いつも通り起床し、
いつも通り仕事をして、
滞りなく一日が終わろうとしていた。
デュフォーがオレの部屋に帰ってくるまでは。
「遅いな」
大きなベットの上時間を持て余しながら、ここ最近忙しくて読めていなかった本を捲る。主に戦術について記載された本で興味があったはずだが、今はあまり集中して読むことが出来ない。
それもこれも、いつ愛おしいパートナーが戻ってきてもいいように開けておいた左側が冷えきっているからかもしれない。
今日は特別穏やかな日だった。
ただ一つだけ違うのはデュフォーが初めて「飲み会」と言うやつに参加することだけだった。
きっかけは、好みの飲み物という些細な日常会話から派生していき、デュフォーが一言「酒を飲んだことがない」と発言した事からあれよこれよという間に話が進み、ファウードの会なる絶妙に不謹慎な会が催される事となった。
参加者はまさにファウードの一件に関わった人間ばかりで、黒い魔本のパートナーが「折角なら私の家で盛大にやりましょう」と言うことで大変盛り上がったらしい。
デュフォーも今日の仕事終わりは心なしか浮き足立ちながら「楽しみだ」と素直に話していたので、戦っていた頃の刻薄とした彼をずっと見てきた自分は正直滅茶苦茶可愛くなったなと柄にも無く考えていた。
…いや、話が逸れてしまったが…そんな楽しげな会に参加した自分のパートナーが中々帰ってこないのが気掛かりで仕方ないのだ。
顔見知りの集まりであるし、何より清麿も参加して夜は共に帰ってくると言っていたので全く心配はしていないのだが、デュフォーと清麿が出立してから実に5時間程経っている。
まぁ、人間同士で話したいことも山ずみだろうし、多少長引いてもいいようにデュフォーは明日休みにしているから問題ないのだが、そろそろ日付を超えてしまいそうな時間なので迎えに行こうかと逡巡していると、少したどたどしい足音が聞こえ始めた。
件のパートナーが帰ってきたようでとても嬉しいが、何やらちょっと様子がおかしい気がしてベットの上で身を起こし待ってみる、が
ゴンッ
と言う鈍い音と、ぅう…と言う大事なパートナーの唸り声が聞こえて直ぐにベットから飛び降りドアを開けた。
「おい、デュフォー大丈夫…か……」
「…ん、ぜおん?」
ドアを開けた先では額に手を当て目尻に涙を湛え、顔を赤くしたパートナーがへたり込んでいた。
その様は情事を思い出させるようで、今までこんな顔で外に出ていたのかと、一瞬頭が赤く染まりかけたが自分が怒るより先にパートナーが蕩けた瞳で抱きついてきたことで今度は頭が真っ白になってしまった。
「はぁ…ぜおん、ぜおん」
耳元で酒の香を纏った愛しい人が自分の名を甘く呼ぶ。
「ん、は…ぜおん…すき、すきだ」
顔中にキスをされながら好意を伝えられ、あまつさえ耳を食まれた時には王宮に響くのでは無いかというほど心臓がけたたましく動き、早くこの人間を頭から食べてしまえと本能が騒ぎたてるのを抑えるのに必死だった。
務めて冷静に上ずらないように声をかけた。
「デュフォー、落ち着け」
「ん、ん、ぜおん…ふふ…あいしてる、ぜおん」
「おい、話を…んむ」
いかん。
これは本当に無理かもしれん。元々デュフォーは甘えるのが上手とは言えない奴で精一杯の甘え方はオレの服の袖をキュッと掴むことしか出来ない奴なのだ。
それが今はもうベッタリと言っていいほどくっついて来て、あまつさえキスしながら甘えてきているのだ。
酒に飲まれている者に手をかけるなど倫理に反すると分かっているのだが…これは、ちょっと、いや大分、無理かもしれん。
そうこう考えているうちに、口のキスが段々深く甘くなってきていた。俺がそれに応えないからか、デュフォーは眉間に皺を寄せグイグイベットの方にオレを押していた。
「ん、こら。待てデュフォー」
「んー…はふ、ベット。早く、ぜおん」
「分かった、寝る。寝るから待て。服を脱ぎ始めるな」
「うー、はぁ、あつい…」
気づいたらベットの上に寝転がり、オレの腹にシャツと下着だけになったデュフォーが息を切らしながら跨ってきた。
いやちょっと待ってくれ。
オレの鋼の精神を持ってしてもコレはちょっと耐えられんぞ。
「デュフォー、取り敢えずオレの腹からどけてくれ。」
「……やだ。」
「は?」
「ぜおんと、せっくすしたい。」
ピシャーーーンッ!
と、まさに雷が落ちるが如き衝撃だった。
その後も「最近してないから沢山したい」とか「キスしてから腹が疼いて仕方ない」とか腰を揺すりながら言われる言葉の羅列に完全にお手上げだった。
もう抱く。絶対に抱く。酒が入っているからとか知らん。
そんなことを考えながらも大事な恋人を万が一にも傷付けないように、最後に確認をとる。
「抱いて、いいんだな?」
「ん。」
「今のお前は正気じゃないし、今日ばかりはオレもオレを止められないかも知れんぞ」
「…それでも、いい。ぜおんが満足するまで、抱いてほしい。」
「そう、か。なら、止まらないからな」
「ん。ぜおんになら、いい。たくさん、気持ちよくしてほしい」
返事は出来たか覚えていない。
貪るようなキスをして、そこからは嵐のような一夜だった。