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    ケシエイ習作
    ケシーはでてきません

    君を待つと日が長い ざくざくと生い茂る森を抜けて俺は一人でケシ―の家にやってきていた。
     今までは危ないからとエスターやモルフィス、ケシ―にも一人で森に入ることを止められていたのが、最近ようやく道中の獣のやり過ごし方もそれなり身について一人でケシ―に会いに行くことが解禁されたのだ。
     というわけでさっそく一人でケシ―の家の前にいるわけだ。

    「おーい、ケシ―。こーんにーちはー!……って留守かな……」

    動物用の罠でも見に行っているのか何度呼び掛けてもケシ―が出てくる気配はない。
    そろそろ昼時だから待ってたら帰ってくると思うんだけどな。
    まあいいか、と勝手にドアを開ける。一人で来るのこそ初めてだけどエスターやモルフィス、オリビンと一緒になら何度も来たことがある、勝手知ったるケシ―の家だ。「いない間に家の前で野垂れ死にされたら面倒くさいから」と家主の了承もちゃんとある。

    「お邪魔しまーす」

    誰もいない空間に向かって声をかけながら中に入る。相変わらずシンプルで必要なものしかない、でも不思議と不思議と温かみがあって、生きるための部屋って感じだ。
    社畜時代の俺の部屋の方が余程素っ気ない部屋だった気がする。寝に帰るだけだったし、エナジードリンクの缶が転がってる以外は生活環なんてほとんどない殺風景な部屋で我ながらなかなかに荒んでたなと思う。
    それが今じゃほとんど遊んで暮らしてるようなものだから、人生どうなるか分からない。
     不躾とは思いつつも簡素なキッチンを覗くと干し茸を水に浸けてもどしてあった。料理の下ごしらえだろう。もどしている間に用事を済ませるつもりで出たのなら、すぐに戻るはずだ。それまで何か暇潰しできるものはないか探すけど、なにもない。本やパズルの一つもないのだから本当に退屈だ。ケシ―は娯楽とか興味ないんだろうか。同じ森の住民でも玖夜とはえらい違いだ。あの部屋は退屈とは無縁だよな、とトランプや知恵の輪と子供のおもちゃから俺の得意分野の大人のおもちゃ、その他にも用途の分からない怪しげな道具で埋まった棚を思い浮かべる。あそこまでやれとは言わないけど、本くらいあってもいいのに。まあこれも、今の俺に余裕があるからそう思うだけか。それにケシ―にはトパもいるし、いつも眠そうにしてるから退屈なんてしてないのかも。
     ぼすん、と家主が帰ってこないのを良いことにケシ―のベッドに腰かける。いつもケシ―が使ってるふわふわの枕が目に入った。抱えこむと、ケシ―の匂いがした。なんというか、落ち着く匂いだ。香水の類じゃない自然の草木の香りと、ほんのり土の匂い。それからほんのり甘いような気がするのは、多分ケシ―の体臭。
    抱き締めて顔を埋めると、肺がケシ―の香りで満たされて多幸感が溢れてくる。
    うーんやばい、癖になりそう……。
    枕を抱きしめたまま布団に転がって壁をにらみつける。
    せっかく来たのにケシーはいないし、やることもないし、なんかこう、すごく手持ち無沙汰だ。ここに来るだけでも結構な運動量だから外に出るなんてもってのほかだ。というか、勝手に森の中をうろうろしたらケシーに怒られそうだし。
    ふかふかの枕とケシーの匂いを堪能しながらケシーを待つ。
    さすがにもう一時間くらい経ってるよな。そろそろ帰って来るんじゃないか?
    エスターが「ご主人様も時間くらいは気にしたほうがいいよ」と誂えてくれた懐中時計を確認する。
    「……って、15分しか経ってない?」
    そんな、嘘だろ。もう一時間くらい経ったような気がしてたのに?!
    何度見ても時計の針は同じ時刻を指していてこの家だけ時間が進むのが遅いんじゃないか、なんて馬鹿みたいなことまで考える。もちろんそんなことはなくて俺がこの部屋に入ってから実際に15分しか経っていないというだけだが。前に遊びに来たときはケシーと罠の回収に一緒に行ったりご飯作ったりで夜まであっという間だったのに、一人でケシーの帰りを待つと果てしないくらい長く感じる。
    もう一度布団に身を埋めながら大きく息を吸い込むとケシ―の残り香が強くなって全身に染み渡った。
    帰ってきたら面倒くさいって怒られそうだけど絶対にかまい倒してやろう。あわよくばそのままエッチなことに持ち込めたら最高だ。
    まあそれもケシーが返ってこないことには始まらないんだけど。
    「あーもう、早く帰って来いよケシー……」
    まだまだ日は高いし、ちらりと見た時計の針は相変わらず遅々として進まない。
    退屈だ。つまらない。
    それでもベッドの上で待つことしかできない俺はケシ―のいない時間を少しでも短くしようと、必死にベッドの上で寝返りを打つのだった。
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