宇妓短編3本『夢心地』人×鬼
鬼ってのは夢を見ねえぇ。つうか、眠る事自体しない。
だけども俺はたまに夢を見る。
ムカつく程顔が綺麗に整った、銀糸の髪の色男に愛を囁かれながら抱かれる夢。
鍛え抜かれた肉付きの良い身体で俺を抱き締め、大きくも色白で美しい手で俺の身体を撫で回し、柔らかな唇で俺の肌に吸い付く色男。
鬼である俺は、そんな色男の愛撫に快楽を感じ、剰え喘ぐ声を上げて色男をもっとと求める。
何度も何度も愛され、何度も何度も果てる俺。
そんな夢を度々見る。
その話を、布団に横たわる俺に全裸で覆い被さっている寝ぼけ眼の色男に話すと、
「いや、それ夢じゃなくて現実だからな」
「そうだっけかぁぁ?」
「今の状況で何で「夢」って言い切れんだよ」
「あぁぁ。あんまりにも夢心地だったからかなぁぁ」
俺の言葉に最初呆れたような顔してやがった色男は、次第に頬を赤らめていき、「誘ったお前が悪いんだからな」と俺の耳元で囁いた後、俺の首に顔を埋め、ちゅっと音を鳴らしながら吸い付いてきた。
別に誘った覚えは無ぇんだけどなぁぁあ。にしても寝起きなのに元気だなぁコイツ……
まぁ、また夢心地にしてくれんだからいぃかぁぁ
俺は色男の背中に腕を回し、その柔らかな唇へ口づけをし、身体を再び色男に委ねた。
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『名前』鬼殺隊if
「お前、名前変えろよ」
「は?」
突然屋敷に呼び出して突然何を言い出すんだこの色男は……
俺はいつも以上に眉間にシワを寄せ呆れた表情で目の前にいる色男、宇髄を見つめた。
「いやだから。『妓夫太郎』って名前変えろって。これ柱命令な」
柱命令って……どんだけ横暴なんだよコイツはぁぁ。
確かに自分でも『妓夫太郎』って名前は酷ぇ名前とは思ってる。『妓夫太郎』ってのは遊郭で色々と働く男の名称だ。『営業』とか『事務員』を名前にしているようなもんで、人名に使う名前じゃねぇ。
つっても親から名前を貰えなかった俺にとっちゃ、ずっとそうやって呼ばれ続けてきたもんだから名前を変える気は今更無ぇ。……まぁ、妹の嫁入りで改名が必要そうだったら変えるかもしれねぇけどなぁぁ。
「この派手で華やかな色男、宇髄様がお前にピッタリの名前考えてきてやったしな」
「いや全然望んでねぇよ……」
「よーく聞いとけよ」
「お前は俺の意見をよぉぉく聞けやぁぁ」
こっちの意見なんざお構いなしの横暴派手柱に、俺はげんなりと表情と崩す。
つうか、派手好きのコイツが考えた名前なんざ俺に似合うわけねぇし…外国被れした、変な名前だろどうせぇぇ……
「『あまぎ』って名前でどうだ?」
自信たっぷりに告げられた名前は意外と日本風だった。
いや、その前に…
「俺が『あまぎ』って面じゃねぇだろぉぉ」
俺に似合わねぇ名前なのは確かだった。この面で『あまぎ』は無ぇ……
「いやお前にピッタリだろ」
「どこがだぁぁ」
「目の色が空色でピッタリだろ」
まぁ俺自身の唯一自慢なのが、妹とお揃いのこの空色の目だけどよぉぉ。
この年になって名前を付けて貰うってのは何だか気恥ずかしい。それも身体の関係をもったこの男にだ。
気恥ずかしさから頬をボリボリと掻き始める。でも、何だか悪い気はしねぇんだよなぁぁ…
「…満更でも無さそうな顔してるじゃねぇか」
俺の顎をクイッと指で上げ、互いの視線を交差させる宇髄。フッと笑った顔がいつにも増して色男に見えて心底ムカついた。その綺麗な顔を俺に近付けんなぁぁ……
つか『あまぎ』ね……まぁ、『妓夫太郎』よりは人名には向いてっけども……でも今更名前変えるなんざ……響きは好きな方だけどよぉぉ……俺が『あまぎ』。『あまぎ』………
「…ん?ちょっと待てよぉ」
「ん?」
「…『あまぎ』ってまさか、『天元』の『天』に『妓夫太郎』の『妓』から取ってねぇかぁ?」
俺の指摘に「チッ。気付いたか」と悔しそうに舌打ちしやがる宇髄……オイコラ。
「何で人の名前を自分の名前から考えてんだよぉぉぉッ」
「いや、名前で俺のもんって分かるように」
「ぜってぇぇ変えねぇよそんなもんんんんッ」
俺が完全に拒絶すると、宇髄は心底悔しそうに「マジかぁ」と溜息をつく…俺が溜息つきたいわボケぇぇ。
「良い名前だと思うんだがな『あまぎ』」
「……いらねぇよそんな名前」
そうだ。俺の名は『妓夫太郎』。鬼から取り立てる『妓夫太郎』。変える必要なんて無ぇ。それに……
「…お前から『妓夫太郎』って呼ばれんの割と好きだしな」
「……ん?今何か言ったか?」
いつも以上にボソボソッと呟いたせいか、聞き取れなかったらしい宇髄は、俺の顔を覗き込んでくる。だから、その綺麗な顔を近付けんなぁぁぁ。
「何でもねぇよ」
顔が段々と熱くなってる気がした。コイツの目を直視なんざできず、フイッと顔を逸らす。
「何で顔逸らすんだよ」とかぬかしてるが、珍しく素直に口にした俺の気持ちを聞き取らなかったお前が悪ぃんだ。二度と言うかよぉぉ。
「俺から『妓夫太郎』って呼ばれんのスッゲェ嬉しいって聞こえた気がすんだけど」
「聞こえてたんじゃねぇかボケぇぇぇぇッ!!後、スッゲェ嬉しいじゃなくて、割と好き、なぁぁ!!」
俺が声を荒げてんのに、ニヤニヤとしたムカつく笑顔を浮かべる宇髄。そして俺の肩と腰に手を回したかと思ったらヒョイっと俺を抱き上げて別室へと移動していきやがる。女を抱き上げるような抱き方をされ、俺はただ困惑する。
「そんなに俺から呼ばれんの好きなら、今からたっぷりと呼んでやるよ、妓夫太郎」
宇髄は笑顔のままそう告げてくる。
ちょっと待て。それってそういう事だよなぁ?今からヤるって事だよなぁ?ここで?お前の屋敷で?お前の女房3人何処行ったぁ。そういや屋敷に来た時からいなかったなぁぁ……
コイツッ、最初っからヤるつもりで呼び出しやがったなぁぁッ!
ふっざけんなぁぁぁぁぁッ!!
その後、抵抗虚しく俺は宇髄に何度も『妓夫太郎』と呼ばれながら抱き潰された……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『恋人が誘惑してきて困ってます』キメ学パロ
かなり焦った。いや焦るってもんじゃねぇ。マジで爆発しかけた。
放課後の美術室、夏のジリジリジメジメとしたイヤ〜な暑さで汗をかいた俺の可愛い恋人が、あろう事かシャツを捲って汗を拭いだした。捲れたシャツからコイツの細くも腹筋の割れたエロい腰回りが見えて、俺の劣情は掻き立てられ、その腰へと手を出してしまう。
「……腹、冷えっぞ」
あわやそのまま事に走るかって時に何とかグッと劣情を抑え、捲られたシャツを下に引っ張りエロい腰回りが目に付かないようにする事に成功した。つか、そんなとこにも痣あるんだな。エロ過ぎるわ。
俺のとった行動に俺の可愛い恋人、この学園の生徒である妓夫太郎は目を丸くして俺を見上げて見つめてくる。止めろ。今の今で見上げてくるのはマジでヤベーから。
「あちぃだろ。準備室に移動するぞ」
今朝も壁を爆破しちまったせいで、美術室は一切冷房が効かねぇ状態だから、冷房の効いてる準備室へと妓夫太郎を連れて行く。こうなるんだったら、爆破させなきゃ良かったわ。
あ〜、にしても「卒業まで手を出さない」って決めてんのにさっきはマジでヤバかったな。つか制服のシャツ1枚しか着てねぇのかよ…そんなん汗で透けて……うん。透けてんな……無理。何で今日に限って中に着てねぇんだよドチクショー。
直視できず、妓夫太郎に背中を向ける情けねぇ俺…可愛い恋人の姿を見てえのに直視できねぇこの辛さ……泣けてくるわ……
「なぁぁ……」
「ん?」
間延びした特徴的な可愛い喋り方で妓夫太郎は話し掛けて来る。
「何でこっち見ねぇんだよ……」
襲っちまいそうだからに決まってんだろ。つかヤベー。何か落ち込んでるような語尾だわ。俺が背中向けてるからだよな。寂しがりやかよ。可愛すぎんだろドチクショー。
ヨシッ!今までだってずっと堪えてきたんだ。今日だって堪えれるッ。
気合を入れて、可愛い恋人へと振り向くと、
さっきよりもシャツのボタン外れてんじゃねぇかァァァッ!!!
さっきまでは上1個だけ外れてたシャツのボタンが上半分外れて、そのエロい胸元がシャツの隙間からチラ見せさせられるという…何だこの修行ッ!
暑かったのは分かるけど、もう冷房の効いてる準備室にいんだからそんな露出させるなよ!
俺は無言ですぐさま妓夫太郎のシャツのボタンを留め、ポンポンと妓夫太郎の肩を叩く。
「冷房の中にいんだから、んな着崩したら風邪ひくぞ」
間違いない。俺の言ってる事は間違いない。俺が襲いそうになるから服装を整えたとか言えるわけない。
俺にシャツのボタンを留められ、何か知らんが眉間にシワを寄せて、むぅっと不満そうに口を尖らせる妓夫太郎。オイ。だからそういう可愛い顔やめろ。
つか何が不満なんだ?俺はただ、お前の体を心配して服装整えてるだけだってのに…。
「……なぁぁ」
「ん?」
「……手ぇ出さねぇのかぁぁ?」
「……は?」
告げてきた時は俺の目を見てたのに、言い終えると俺から視線を逸らす妓夫太郎。しかも、暑さのせいからじゃない頬の紅潮を見せて、気まずそうにしてやがる…。まさかコイツ…
「……お前、さっきからワザとやってたのか?」
いつもは中にTシャツ着てんのに今日は制服シャツ1枚なのも、シャツ捲って汗を拭う時に腰回り見せたのも、暑さのせいでボタンを外して胸チラ見せしてきたのも全部…
「……悪ぃかよ」
俺の問に気まずそうにしながらも肯定の返事。
全部ワザとかよぉぉぉぉッ!お前なぁぁぁぁッ!!
思わず妓夫太郎の両二の腕をギュッと握り、顔を近付けてしまう。
「おまッ…ばっ…!」
「馬鹿で悪かったなぁぁ…まぁ俺みてぇな醜男に手を出そうなんて思わねぇよなぁぁ」
「いやメチャクチャ手ぇ出しそうになったわ!!メチャクチャ我慢したわ!!」
「……は?」
俺の言葉に逸していた視線を俺へと向け、ポカーンとした表情をしながら「んじゃ何で手ぇ出さねぇんだよ」とか言ってくる俺の可愛い恋人……。
「出せるかよ!お前は俺の大事な可愛い恋人だから卒業までちゃんと大切にしときたいんだよ!!後、懲戒免職になりたくねぇ!!」
「…ぜってぇ後半が本音じゃねぇかぁぁ」
「前半が本音だわ!後半はついでだ!」
「…つか、キスも大概懲戒免職並だと思うんだけどなぁぁ」
「俺の線引きでキスはOKなんだよ!」
「あんなエロいキスがOKの範囲なのかよ……」
俺の線引きに、若干惹き気味の妓夫太郎。オイコラ引くな。今そのエロいキスで腰砕けにするぞ。
「…つか、卒業までってまだまだ先じゃねぇか」
「そんな可愛い顔して残念がるなよ。マジで襲うぞ」
「襲えばいいじゃねぇかよぉぉ」
「さっきの話聞いてたか?卒業まで大切にしてぇんだよ」
分かってくれ、と告げ、妓夫太郎の額にキスを落とす。
まぁ高校3年なんて性欲も湧くし、そういう事に興味持つのも分かるんだけどな。俺だってそうだったし………て、待て。今、メチャクチャ大事な事に気付いた。
「…お前、何か自然と受け身な事言ってっけど」
「んあ?」
「…俺に突っ込まれんの、全然構わねぇのか?」
コイツだって男だ。チ○コだって付いてる。本来なら突っ込もうと思うのが男の性だってぇのに、さっきからのコイツの言動は、まるで女が男を誘惑するような感じだ。いやまあ、俺としてはそっちがありがたいけど、コイツはそれで良いのか?というか、あんな誘惑しといてコイツも俺に突っ込もうとか思ってたり……
「…全然構わねぇけど?」
あぁ良かったわ。俺に突っ込もうとか微塵も思ってねぇわこれ。すんげー「何でそんな当たり前な事聞いてくるんだ?」みたいな顔してるし。
妓夫太郎が俺を受け入れてくれるという事実を確認でき、胸をなでおろす。これで卒業してくれたら、何の問題もなく抱け……
「……一人でする時だって」
「ん?」
「……ぁ、アンタに抱かれてんの、想像しながらヤッてっし」
そう告げてきた俺の可愛い恋人は、耳まで真っ赤に染めて、恥ずかしさからか俺から視線を外して肩を震わせ始める…
おそらくこれはワザとじゃない。今コイツは無自覚に俺を誘惑している…
待て。逃げるな。
逃げるな俺の理性!!
今まで散々堪えてきたろ!!今ここで逃げたら今までの苦労が水の泡だぞ!!
コイツが卒業するまで逃げるな!!!
堪えろ!!耐えろ!!踏みとどまれ俺の理性!!!!
その後、可愛い恋人からのワザとだったり無自覚だったりの誘惑と俺の理性との戦いが卒業まで続く……。