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    伊那弥彪

    ラクガキと二次創作文物置。支部にアップしたりする。

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    伊那弥彪

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    墓海様からうぎゅにゃんお借りしました。解釈違い大いにあると思います_(._.)_
    宇妓、死描写有り、擬人化、何でも許せる方向け

    ##宇妓

    巡る想いは光に包まれて宇髄天元は猫を飼わない。もう二度と。
    子供や孫に何故?と聞かれたら「俺の猫はアイツだけだから」と変わらない答えを告げていた。
    そんな彼の部屋には猫の写真が飾られている。まるで毛玉のようなもふもふな緑毛に黒の斑点模様のある特徴的な猫。それは彼が飼っていた猫「ぎゅうたろう」だった。そして部屋に飾られている写真は1枚だけではない。若かりし頃の彼や妻と一緒に写ったぎゅうたろう。妹猫「うめ」と一緒に寝ているぎゅうたろう。頭に飾りを付けられ戸惑っているぎゅうたろう。何枚ものぎゅうたろうが飾られていた。
    そんな部屋で高齢となった天元はロッキングチェアに座り、自分の死を待っていた。己の身体だ。もう死がそこまで来ている事ぐらい分かっている。本来なら愛する家族に囲まれて看取られる事を望むのだろうが、天元は違った。
    この部屋で…ぎゅうたろうとの思い出が詰まったこの部屋で息を引き取りたい。そうすればアイツが迎えに来てくれる。そう感じていた。
    「ジジイの最期の我儘だ。頼むから聞いてくれよ」と懇願したら渋々ではあるが了承してくれた家族には感謝しかないと、天元は薄っすらと微笑みを浮かべた。
    重くなってきた瞼を徐々に閉していく。鼓動も弱くなってきているのが分かる…

    あぁ…もうすぐだ……

    色んな記憶が天元の脳裏に蘇る。その中でも色鮮やかに蘇るのは、大雪の日に、雪の中に埋もれていた兄妹猫との出会い…そしてそれから送る彼らとの楽しい日々……
    天元は心の中で笑ってしまった。嫁や子供たちとの記憶よりも、彼との思い出の方が色鮮やかな事に対して…。彼が自分にとってどれ程大きな存在だったのか…どれ程彼を愛していたのか…死の寸前に改めて気付かされた。

    もっと…沢山抱き締めてあげれば良かったなぁぁ……

    「ぎゅぅ、たろ……」

    その名を愛おしく呼んで、天元の意識は無くなっていく…身体の力も抜けきり、その腕を椅子から落としていく…そして死の間際、最期に耳に聴こえてきたのは……

    「んなぁぁぁ」

    懐かしいあの声だった……





    ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





    天元は暗い闇の中にいた。年老いた姿ではなく、若かりし頃の姿で。今のこの状況を、あの世って本当にあるんだなぁ…と呑気に考えて頭を掻きながら辺りを見渡していると…

    「んなぁぁぁ」

    愛しい声が聞こえた。その声に振り向けば、そこにはちょこんと座ってこちらを見上げている小さな彼…

    「ぎゅう、たろ…」
    「なぁぁぁ」

    名前を呼ばれたぎゅうたろうはトコトコと天元の足元にやって来て、スリスリと頭を足に擦り付けてくる。その感触はとても懐かしいもので、天元は目頭が熱くなってくるのを感じた。

    「ぎゅうたろぉぉぉッ!」

    満面の笑顔でぎゅうたろうを抱き上げ、ぎゅうたろうの顔にスリスリと顔を擦り付ける天元。そんな天元にぎゅうたろうは「うにゅぅ」と少々困り気味な表情を浮かべていた。

    「何だよお前!もしかして俺を待っていたのか!?」
    「んなっ」

    言葉は通じなくてもそれがイエスという返答だと解った天元は、溢れ出てきそうな涙を必死に堪えた。
    何十年もの間ずっと自分を待っていてくれた。こんな暗い闇の中で。たった一人で。

    「お前はっ本当に…どんだけ健気なんだよッ…あぁクソッ!可愛いなぁぁッ!」

    その小さな温もりを抱き締める。力いっぱいに抱き締めたかった天元だが、それではぎゅうたろうが潰れてしまうと経験上分かっていたので程々な力加減で抱き締めた。
    もふもふで見た目よりも軽いぎゅうたろう。この感触だ。ずっとこの胸に抱き締めたかったのは。
    天元はぎゅうたろうの温もりを心ゆくまで噛み締める。

    「んなぁぁ」
    「ん?どうした?」

    呼ばれた気がした天元は、視線を胸の中のぎゅうたろうへと向けた。そこにはジッと自分を見つめる可愛らしい視線。

    「何だ?何か言いたい事でもあんのか?ん?」
    「なぁぁぁ」

    天元が優しく微笑みながら、まるで恋人に囁くような甘い声で問うと、ぎゅうたろうは照れたように視線を逸らし、一瞬だけ思考しているような表情を浮かべた。そんなぎゅうたろうの様子に天元が首を傾げると、

    「んなぁぁ」

    ぎゅうたろうは何かを告げて、ちゅっと天元の唇にキスをしてきた。その可愛らしいキスに天元は一瞬目を丸くしたが、再び微笑みを浮かべて「お返しな?」と囁き、自身からもちゅっとキスを送る。
    触れるだけのキスを送り、そういえば生前は勢い余ってぶちゅうっとしてしまい怒られたなぁと、目を閉じ上を見上げながら思い出に耽る天元…そんな天元の耳にある声が聞こえてきた。

    「てん、げん……」

    その自分を呼ぶ声は、間違いなく自分の胸の中から聞こえてきた。その声に天元は目を開き、視線を下へと移す。そこには、顔にぎゅうたろうと同じ模様の痣をもち、ぎゅうたろうと同じもふもふそうな癖のある緑髪の青年が自分を見上げていた…

    「……ぎゅうたろう?」

    直感だった。直感でその青年がぎゅうたろうであると天元は感じた。天元の問いに青年はニコッと笑みを浮かべて、

    「うん。おれ、ぎゅうたろうだぁ」
    「…そうか。うん、そうだな。お前はぎゅうたろうだな」

    一緒だった。笑った顔がぎゅうたろうと。大好きなあの笑顔と。
    天元はぎゅうたろうの身体を抱き締め直す。あぁ、やっぱり痩せてんなぁと思えるその細い腰に腕を回して、ぎゅっと力強く、もう離さないと言わんばかりに。

    「やっと…やっとおれのことばつうじたぁ」
    「あぁ分かるぜ、お前の言葉」
    「てんげん」
    「ん?」
    「おれ、ずっと…ずっとてんげんのことすきだったんだぁ」
    「そっか。俺の事そんなに想っててくれたのか。嬉しいぜ」
    「ずっとてんげんにぎゅってしてほしかったんだぁぁ」
    「おう。これからは沢山ぎゅってしてやるよ」

    てんげん、てんげん、と何度も何度も呼ばれる。
    辿々しい喋り方で嬉しそうに自分の気持ちを告げてくれるぎゅうたろうに、天元は愛おしい眼差しを向けていく。

    「あのなぁぁてんげん」
    「ん?」
    「おれ、こんどうまれかわったら、にんげんになるからなぁ。そしたらまたこうやって、ぎゅってしてくれるかぁぁ?」
    「当たり前だろ。さっきも言っただろうが。これからは沢山ぎゅってしてやるって」

    微笑みを浮かべながら、天元はぎゅうたろうの額に額をくっつけ、鼻を擦り付けていく。それはぎゅうたろうが生前何度も自分にやってくれた行為。ぎゅうたろうの天元への愛おしさの現れ。
    ぎゅうたろうもまた生前を思い出して、照れ臭そうに笑いながら、天元に鼻を擦り付けていく。その姿が可愛らしくて、愛おしくて…天元はある気持ちを抱いていく。それは本来なら抱いてはならない気持ちなのだろう。だがもう抱いてしまったのだ。仕方がない。

    「ぎゅうたろう」
    「んん〜?」
    「大好きだぜ、ぎゅうたろう」

    天元からのその言葉にぎゅうたろうは目を丸くした。生前何度も何度も言われた言葉なのに、今言われた言葉は何だか違っている気がした。それは自分が天元に向けている気持ちと同じような気がして。胸が熱くなって、顔も熱くなって、上手く言葉が発せなくなってしまう。でも言わなきゃいけない。自分からも、この気持ちを。

    「おれもぉ、だいすきだぁ、てんげん」

    ずっと伝えたかった、この想い。やっと通じた、この恋心。ぎゅうたろうは満面の笑顔を浮かべて、天元を抱き締め返す。そんなぎゅうたろうに天元はフッと笑みを溢す。

    「ごめんな。今までお前の気持ち気付かなくて」
    「いいんだぁもう。いまこうしてつうじたからなぁぁ」
    「あぁ通じたぜ。お前の気持ち。俺もお前と同じ気持ちだ」

    満面の笑顔を浮かべ合う2人を光が包み込んでいく。暖かなその光は2人を祝福するかのように、新しい生へと導いていく。
    来世ではきっと…いや必ず、愛し合える者として巡り逢えると信じて、2人は共に新しい生へと旅立っていった。
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