Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    伊那弥彪

    ラクガキと二次創作文物置。支部にアップしたりする。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 133

    伊那弥彪

    ☆quiet follow

    隊士if宇妓←炭、妓隊士化。炭のひたすら一方通行。何でも許せる方向け。
    タイトル付けるの本当苦手。

    ##宇妓
    ##隊士化if

    掴むことのできない匂いこの人とは絶対に分かり合えないと思ってた。
    「鬼よりも人間が嫌いだ」とか、「人間よりも鬼の方が可愛げがある」とか…人間嫌いっていうのは人伝に聞いてはいたけど、それは俺の想像以上だった。だったらどうして鬼殺隊に入ったんですかと聞けば、ニヤニヤした不快な笑みを浮かべて「金の為に決まってんだろ」と……。それは紛れもなく本心だった。悪びれのないこの人の本心。
    この人にとって命って何なんだろ。この人にとって命はそんなに軽いものなのか。俺は初めて人に対して嫌悪感を持った。きっと歪んだ顔で見つめてたんだと思う。

    「良い顔するなぁぁ。そうそう。そうやって人間の醜い部分見てこれからは生きていきなぁぁ。人間なんざ醜悪の塊なんだからよぉぉ」

    相変わらずニヤニヤとした不快な笑みを浮かべながら、そのゴツゴツとした手で…鬼の血の匂いが染み付いた手で、俺の頭を撫でてきた。手付きはとても優しかったのに、その匂いで俺は吐き気をもよおした。心の底から嫌っていたんだと思う。その手に撫でられる事を。
    俺は絶対にこの人のようにはならない。人間が醜悪の塊だけじゃないんだってこの人にいつか分からせてやる。その為にもこの人よりも強くならなくちゃ…そう決意した。

    「…キラキラした眼すんじゃねぇよ。テメェが今から生きる世界は地獄だぜぇぇ?」

    不快な笑みが表情から消えた。俺の決意が伝わったのか知らないけど、すごく不機嫌そうだ。でも俺には関係ない。この人が不機嫌になろうがそんな事知らない。俺はその地獄の先にある光ある世界の為に走るんだ。俺の決意は固い。
    失礼します、と言って俺はその場を後にした。決して振り向く事なく…
    もう一度言う。俺は絶対にこの人のようにはならない。

    そのすぐ後だった。あの人…妓夫太郎さんが、妹さんの為にお金を貯めている事を知ったのは。自分の事には使わず、妹さんの嫁入り支度の為にずっとお金を貯めているって。それを知るきっかけは、街で妓夫太郎さんと妹さんを見かけた時。俺と初対面した時はどんよりした血生臭い匂いだったのに、その時はとてもキラキラしてて、温かい匂いに包まれていた。
    その匂いにすごく懐かしさがこみ上げてくる…
    鬼に襲われる以前の俺の家族の匂いに似てたから…

    「な?アイツはそんなわりぃ奴じゃねぇんだよ。ただちょっとばっかし捻くれてるだけなんだわ」

    そう教えてくれたのは、この場所に俺を連れて来た音柱の宇髄さんだった。妓夫太郎さんが妹さんの為にお金を貯めている事を教えてくれたのも宇髄さんだ。宇髄さんは隊で問題を起こして誤解されがちな妓夫太郎さんの事をよく理解しているらしい。妓夫太郎さんの境遇も知ってるらしくて、俺は妓夫太郎さんが何故あんなに人間嫌いになったのか気になって、どんな過去があったのか聞いてみた。けど、

    「それは俺の口から勝手に言える事じゃねぇな」

    そう真剣な表情で告げられた。確かにそうだ。人の過去を本人の了承無しに聞くなんて非常識極まりない。俺は反省した。
    それからは少しずつだけど、妓夫太郎さんに話し掛けるようにしていった。自分でも何でか分からなかったけど、妓夫太郎さんの事を知りたいと思ったからだ。最初は嫌な顔されて煙たがれてたけど、めげずに頑張って話し掛け続けた。そして気付いた。妓夫太郎さんは妹さんの話になると聞いてくれる事を。禰豆子の話をしたら笑みを浮かべながら「俺の妹の方が…」と妹さんの自慢話をしてきてくれる。俺も負けじと禰豆子の自慢話をしたらそれにまた応戦するように妓夫太郎さんは妹さんの自慢話をしてくる。それの繰り返しで、それが何だか楽しくて俺は自然と笑顔を浮かべていた。妓夫太郎さんもヒヒヒッて特徴的な笑みを浮かべて、楽しんでる匂いを纏ってくれた。
    それからは妓夫太郎さんは俺が話し掛けても嫌な顔をする事はなくなった。「妹の様子はどうだ?」とか禰豆子を気にかけてくれたりもした。それが嬉しくて俺はいつの間にか妓夫太郎さんに会う事が楽しみになっていた。死と隣り合わせの鬼殺隊の任務の合間…会えない時も沢山あったけど、その分会えた時の嬉しさは倍以上になって、妓夫太郎さんとの一時が何よりも癒やしになっていた。
    そんなある日…任務から帰る途中、俺は妓夫太郎さんに出会した。出会したけど、声を掛ける事はできなかった。だって……妓夫太郎さんは、宇髄さんと口づけをしていたから…。
    人の気配が無い森の中で、妓夫太郎さんは宇髄さんに抱き締められながら口を唇で塞がれていた。人工呼吸かとも思ったけど、二人の匂いがそうじゃないと告げていて…何でか分からないけど、俺の胸はズキンッと痛んだ…
    俺は少し離れた場所から二人の様子を伺った…そうするしかできなかった。足が何故か動かなかったんだ。

    「…ヒヒヒッ、急にどうしたぁぁ?溜まってんのかぁ色男ぉ」
    「溜まるとかそんなんじゃねぇよ。お前とこうして生きて再会できる喜びを噛み締めてんじゃねぇか」
    「何でぇ、溜まってねぇのかよ……俺はてっきりこのまま続けるのかと思ったのによ」
    「それは俺の屋敷でな?つか、お前は俺との再会嬉しくねぇのか?」
    「あ?嬉しいに決まってんだろぉぉ」

    唇が離れたと同時に始まった会話が俺の耳に届く。妓夫太郎さんの声はすごく嬉しそうでまるでキラキラした色が着いてるみたいだった。善逸じゃなくても分かる、その幸せな音…。
    妓夫太郎さんは微笑みを浮かべながら、宇髄さんの両頬をその手で包み込んで、今度は妓夫太郎さんから宇髄さんに口づけをしていった。その口づけを宇髄さんは受け入れて、妓夫太郎さんの身体を強く抱き締める。
    胸が痛い……ズキンズキンッとずっと続くこの痛み……
    何なんだろ…どうしてこんなに痛むんだろ……鬼の血鬼術を受けてはいない。ここに来るまでは平気だった。ここに来て…二人が……妓夫太郎さんと宇髄さんが口づけをしてるのを見てからずっと……
    ようやく動かせた足で俺は二人に気付かれないようにその場から去った。走って走って…早くあの場所から遠退きたかった。
    二人の口づけをする姿が脳裏にこびり付く。妓夫太郎さんの幸せな声が耳にこびり付く。
    忘れたい……
    忘れたい忘れたい忘れたい忘れたいッ!!!

    その日、俺は眠る事ができなかった。原因の分からない胸の痛みと、胸の中に渦巻くモヤモヤした何かのせいで。
    睡眠不足のまま、俺は小川の辺りに座ってボゥーっとしていた。ゆらゆらした水面に俺の顔が映る。酷い顔をしてた。目は虚ろんで、どんよりした表情…まるで初対面の時の妓夫太郎さんのような…あ、でも妓夫太郎さんはもっとギラギラしてたっけ……周りの人はあの頃の妓夫太郎さんと今の妓夫太郎さんは同じだって言うけど、俺には違うように見えるなぁ…
    妓夫太郎さん……妓夫太郎さ……

    「随分酷ぇ面してんなぁぁ」

    水面に映る俺の顔の横に、ニヤニヤとした顔が映る。最初は嫌悪感を抱いていたその顔…今は会いたいと思うその顔……
    振り向けば、妓夫太郎さんが俺の横に立ってニヤニヤと俺を見下ろしていた。

    「珍しく背中丸めてんなぁぁ。何だぁ?任務で何かやらかしたのかぁぁ?」
    「え…あ、いや…別にそんな事は……」
    「オメェがそんな悄気げるなんてよっぽどの事でもあったんだろぉぉ」

    クックックッと喉を鳴らしながら、妓夫太郎さんは俺の頭を撫でてくる。優しくて、温かいその手の感触に、俺の胸はトクンッと鳴る。

    「まぁ下っ端の時なんざ失敗の連続だからなぁぁ。そんな悄気げる事なんざねぇっての。妹も無事なんだろ?」
    「あ、は、はい。禰豆子は全然無事ですっ」
    「なら良いじゃねぇか。生きてるだけで丸儲けと思っとけ」

    撫でていた手はポンポンと俺の頭を軽く叩いて離れていく…

    「……あ」
    「ん?」

    もっと触れていてほしい。もっとその手で俺に触れてほしい。あの人の頬を包み込んでいたように…

    「どうしたぁ?オメェ今日変だぞ?」
    「……え、あ!す、すみません!そ、その…あのっ…!」
    「どうせ嘘つけねぇ性格なんだ。正直に言えや」
    「っ……」

    妓夫太郎さんの言う通り、俺は嘘をつけない。すぐ顔に出てしまうから…。正直に言えと言われたら、もう真実を話すしかできない…。

    「き、昨日…森の中で、その…見てしまって……」
    「んあ?」
    「ぎ、妓夫太郎さんと、宇髄さんが…その……」

    『口づけをしていた』と言おうとしたのに、その言葉は喉から出てこなかった。どうしても言葉に出したくないと本能が言っているようだった。そんな風に俺が全部を語れずにいると、

    「あぁ。あの気配オメェだったのか。小動物かと思ってたわ」

    妓夫太郎さんは俺が見ていた事を察してくれた。そして俺の気配を小動物だと思ってたとも教えてくれた。

    「アイツも犬かなんかだろって言ってたからてっきりそうだと思ったんだがなぁぁ。アイツが人と犬の音間違えるなんてなぁぁ」

    きっと宇髄さんの事だ。宇髄さんも俺の気配を感じてはいたんだと思う。けど俺とは気付かれてなかったのかな…

    「そうかぁ。アレ見られちまったのかぁぁ。なるほどなぁぁ。……気色悪かったろぉ?」
    「え!?な、何で……」
    「そりゃぁ、俺みてぇな人間の色恋沙汰なんざ見たくねぇだろぉぉ。相手が色男だったとしてもよぉぉ」
    「色、恋……」

    そうだった。やっぱりそうだった。妓夫太郎さんと宇髄さんは恋仲だったんだ。
    分かっていた筈だ。匂いで、二人が特別な関係だって。なのに、妓夫太郎さん本人から改めて言われると……また胸がズキンッと痛みだす……

    「ぁ、ぁの…妓夫太郎さんっ…」
    「んん〜?」
    「妓夫太郎さんは、人間嫌い、ですよね?それなのに、宇髄さんと、その……」
    「あぁ。アイツは特別だからなぁぁ」
    「特、別…?」
    「あぁ。特別だ。アイツはこんな俺でも包み込んでくれる。アイツはこんな俺でもその胸に抱き締めてくれる。アイツになら、俺は甘えられんだぁぁ」

    そう語る妓夫太郎さんは今まで見た事のないふんわりとした微笑みを浮かべていた。妹さんの話をする時と似てたけど、その微笑みとは違う。妹さんの話をする時はお兄さんって感じで…でも今は何か…凄く柔らかくてとても魅力的で……匂いもすごく幸せな心地良い匂いをしていて……
    痛い…胸が苦しい……どうして?こんなにも心地良い匂いなのに……包み込まれたくないとどうして思ってしまうんだろ……

    「オメェもよぉ、長男だからって気張り過ぎんだよ。誰でも良いから、甘えられる人間見つけなぁぁ。でねぇといつか潰れちまうぞ」

    微笑みながら告げられたその言葉に、俺は言葉を詰まらせた…。
    甘えられる人間……それは、アナタじゃ駄目なんですか?
    俺はアナタに甘えて、アナタのその手で撫でられて、アナタの微笑みを独り占めしたい……
    その柔らかい微笑みを、あの人じゃなくて俺に向けて欲しい……
    そんな思いがグルグルと掛け巡る。
    俺はようやく理解した……俺は、この人が好きなん……

    「妓夫太郎、何してんだ?」

    手を伸ばそうとした。欲しくて欲しくて堪らなくなって、思わず伸びそうになった手を、その声で引っ込める。

    「んあぁ。後輩の相談相手ってとこか」
    「お前が?倫理観を妹以外に持ってねぇお前が?」
    「言ってくれんじゃねぇか色男ぉ」

    妓夫太郎さんはニシシッと嬉しそうに笑ってその人の元に歩んでいく…。
    行ってほしくなかった。俺の隣に居てほしかった。でも、妓夫太郎さんはその人…宇髄さんの隣へと行ってしまった。
    二人が並んだ姿は、とても似合ってると思った…。
    二人を幸せな匂いが包み込む。お互いを想い合ってる温かい匂い……
    その匂いが、俺がその間に入れる余地なんてないんだって告げていた……。

    「あ、あのっ…俺、そろそろ行きます!!」
    「んあぁ?大丈夫かオメェ…まだ顔色悪…」
    「大丈夫です!妓夫太郎さんに色々助言頂いて少しはスッキリしましたから!!」
    「なら良いけどよぉぉ…少しは仮眠とっていけよぉぉ」
    「はい!お気遣いありがとうございます!!」

    俺は笑顔でその場から走り去った。無理矢理笑顔を作ったのは気付かれてないかな?でも嘘はそんなに言ってないから顔には出てない筈。
    本当に…本当に、少しはスッキリしたから。自分の気持ちに気付いて…その気持ちは報われないものだって分かって……だから大丈夫。大丈夫な筈なのに……
    胸の痛みが止むことは無くて、涙が込み上げてきそうなのを必死に抑えた。
    善逸も女の子にフラれる度にこんな胸が張り裂けそうになってたのかな…て考えたら、今度は優しくしてやろうと思った。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭🙏👏💞💞👍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works