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    727tig

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    美容師パロ
    ✂️🐢×🎐生ではない🌸
    ※🌸に暴言を吐くモブの言葉が冒頭にあります

    『なんだその頭は!』
    『気持ち悪い……』
    『えっそれで地毛?』
    『う、ウチでカット……かい?』
    『あのお客さん担当するのはちょっと……』
    『なにあの髪……』
    『ははっ!オレが美容師の代わりにその髪切り落としてやろうかぁ?』

    ――うるせぇうるせぇうるせぇ!そんなに触りたくねぇならテメェで切ってやる!
    桜は大して切れ味が良いわけでもないただの鋏を手に、自分の髪を乱雑に掴んでぐっと力を込めた。


    白い髪がはらはら散るのを虚しい気持ちで眺めたあの日から数ヶ月。桜は美容院にも床屋にも行かず、あの時の鋏のまま自身で髪を切り続けた。誰も自分を見やしない。見たところで髪や目の色に口元を引き攣らせるだけ。それならば素人の自分でどう切ろうと周りの目は変わらないだろう。
    けれどそれすらも面倒に思えてきた桜は、いっそバッサリいってしまおうかとも考えるようになっていた。

    「あ……?んだよ。こんな所に美容院なんてあったか?」

    商店街もある賑やかな駅の南側と反対の一角に、ぽつりと美容院が建っていた。二階が住居のようなので時々しか看板が出ていなかったのだろうか、当て所ない散歩が日課の桜でさえ長らく気付かないような店構え。しかし扉にはしっかりと【Open】と書かれた札が下がっているため運営しているのは間違いないだろう。薄汚れたメニュー看板に目を凝らせば一昔前を思わせる値段設定で桜は思わず顔を顰める。

    「……別に、バッサリやるだけなら技術とかもいらねぇだろ」

    ただ思い切り切ってもらうだけ。どれだけ寂れた店だろうと切る資格がある奴ならそれで十分。自分で決めたことだ、今更怖気付いてんなよと自分を鼓舞して桜はそこの扉を潜った。

    「…………」

    カロンカロンと少し鈍いドアベルが鳴って店内へと入れば、そこには客はおろか店員の一人もいなかった。灯りは少し柔らかな暖色系が点いているが店内の壁が全体的に濃いウッドカラーで占められているため実際よりも暗く見えそうだなと桜は思った。
    やはり寂れるにはそれなりの理由があるんだろうと踵を返そうとしたけれど、奥の階段から人が降りてくる気配がして一旦足を止めた。

    「あれあれぇ?もしかしてぇ、お客さん?」

    カラン、コロン、とゆったりとした足音に間伸びした口調の低い男の声。一応客として入店した以上イタズラと思われても申し訳ないので姿を見せておくかと桜が待っていれば、そこに現れたのは足音の通りの下駄と見慣れない作務衣、室内だというのにカラーサングラスを付けて更には長いパサパサの癖っ毛を三つ編みにした、あまりにも『らしくない』男だった。

    「お前ここの美容院?の、店員か?」
    「うん、一応ねぇ。君はぁ……」
    「っ、」

    目を見開いた男がサングラスを持ち上げて桜の顔をまじまじと眺める。いつもの見慣れた光景、それでも桜はこの後に来るであろう侮蔑や嘲笑に身を固くする。今この場を凌げれば、もう二度と来る必要はない。その時はまた違う店を探せば良いのだからと、ただそれだけを念じながら。

    「綺麗な白黒頭してるねぇ。オセロだぁ」
    「ああ!?うるせーもじゃもじゃ!」
    「ははは。元気元気。さ、こっちへどーぞぉ」
    「は……?」

    日頃ケンカに明け暮れる桜が咄嗟に取ったファイティングポーズが見えていないのか、男はサングラスを元の位置に戻すといつまでも入り口の前に立っている桜を店の奥へと促す。揶揄するような言葉に思わず食ってかかったけれど、男はただ見たままの感想を述べただけで桜を追い返すでも拒否反応を示すでもなく、ただ他の客と同じように桜に接する。それが当たり前の筈なのに、桜は何故だか拍子抜けしてしまう。それもこれも、見た目に反して男がいやに穏やかな雰囲気を纏っているからだろうか。

    「ん〜?髪切りに来たんじゃないのぉ?」
    「い、いや。切ってもらいに来た」
    「だよねぇ。はい、じゃあここに座ってぇ」
    「わかっ……たぁ!?」

    桜は男に促されるまま指定された鏡前の椅子に座ろうとしたが、その瞬間に座面ががくんと沈み、桜は危うく舌を噛みそうになった。男はけろりと「ごめんごめん、ペダルの踏み方間違えちゃったぁ」などと言って再び高さを調整して桜を鏡に映し出す。
    切る資格があれば十分だと思ってはいたものの、この男に本当にその資格があるのかかなり疑わしい。先程も店員かと言う問いに「一応」と答えたのはそういうことなのか?と桜が本格的に訝しんでいると、背後で男がなにやらきょろきょろうろうろとしているのが鏡越しに見えた。

    「あれぇ〜?オレのシザーバッグ……どこ置いたっけぇ?っていうか鋏……あイテ――っと」
    「……!」

    男が商売道具である鋏を探して彷徨いている。その最中にキャスター付きワゴンに足をぶつけたのだろう声が聞こえたと思えばそこから滑り落ちる鋏に目敏く気付き、地面に接する手前でリングへと指を通して救い上げた。落下する鋏に手を伸ばすなんてただでさえ躊躇するというのに一切怯まず、それどころか指一本分しかないリングに的確に親指と薬指を通すなど只者ではない。
    桜がごくりと息を呑んでいると、男は相変わらず穏やかな雰囲気を纏いながらもたもたとシザーバッグを腰に下げて戻ってきた。

    「いやぁ危ない危ない。美容師の鋏って特殊だから、ちょっとぶつけただけでもすぐ修理に出さなきゃいけなくて大変なんだぁ。それにこれは爺ちゃんから貰った大切な鋏でねぇ」
    「爺さん?」
    「そお。オレの爺ちゃん、ここの先代でねぇ。歳で引退したいって言うから、鋏ごと譲ってもらったんだぁ」
    「へぇ……」

    桜には正直ピンときていないけれど、男の慈しむような眼差しで祖父との良好な関係だろうことは察せられた。そして、この男が決して悪い人間ではないということも。だから例え腕が悪かったとしても許してしまうだろうと思った。

    「それで?今日はどうしたいのぉ?」
    「ああ、思い切り短くしてくれりゃあなんでも良い」
    「え、なんでぇ?こんなに綺麗な髪なのに勿体なくなあい?」
    「き、きれい……!?」

    先程もさらりと言われた気がするがやはり気のせいではなかったようで、桜は初めて言われた言葉に面食らってしまう。白と黒にはっきり分かれたこの髪色は不気味がられるものであって褒められたことなどただの一度もない。ましてや今の桜の髪は自分で見える範囲を雑に切った上に数ヶ月放置したもの。お世辞にも綺麗とは程遠いだろう。

    「うん。色もそうだけど、こうして近くで見ると髪質も素直なストレートだし触り心地バツグン。寝癖もあまり付かないんじゃない?」
    「寝癖は……撫でれば、直る」
    「え〜羨ましい。オレは毛量多い天パだから毎朝大変でさぁ。もう面倒だから伸ばして結ぶことにしたんだぁ」

    ちょいと摘んで見せる三つ編みは本人の言う通り邪魔にならないように結んでいるという体で、手入れのされている様子はない。美容師であればもっと自分の髪にも気を遣ってあれこれ手を加えて宣伝しているイメージではあったけれど、自分で自分の髪を切る大変さを知っている桜はそういう奴もいるのだろうと特に口にはしなかった。

    「あ、良いこと思いついたぁ」
    「?」
    「一度オレの好きに切らせてくれない?それで気に入らなかったら改めてバッサリ切ってあげる。もちろんどっちのお代も要らないよぉ」

    にこりと微笑みかけられて桜は唖然とする。その提案は確かに『良いこと』ではあるけれど、それはあくまで桜にとってでしかない。
    桜に親切にするフリで悪意を持って近づく輩はこれまでもいた。それだけに桜は人の悪意や敵意には誰よりも鋭敏だというのに男からは欠片も感じられなくて、それが余計に桜を混乱させる。

    「そ、そんなん、お前になんのメリットがあんだよ」
    「メリット?あるある〜。だってキミの綺麗な髪たくさん触れてオレ好みにできるんだよぉ?」
    「なっ……!こ、好みぃ?」
    「それにほら、カットの練習にもなるしねぇ。あ、カットモデルってやつ?ねぇキミ、カットモデルって知ってる?」
    「ううう、うるせー!モデルでもモグラでもなんでもとっとと始めやがれ!」
    「んふふ。交渉成立だねぇ」

    綺麗綺麗と恥ずかしげもなく言う男に耐えきれず、桜は喧嘩を買う威勢で男の申し出を受けて立った。
    ふわりとケープを掛けてから桜の髪の生えグセやら襟足を一通り観察した男は暫し考え込み、それから霧吹きを手に取ってからは滑らかな動きで桜の髪を丁寧に扱っていく。少しでも櫛が髪に引っ掛かれば無理に通そうとせず解すように下から通し、素早い鋏捌きは早く終わらせるためではなく負担を最小限にするために。はらはらと落ちていく白と黒の髪は苦い記憶が詰まっているのに、瞬く間に変わっていく髪型に桜はそんなことも忘れて鏡の中に映る光景に見入ってしまう。
    それまでのんびりとした印象しかなかった男とはかけ離れた手捌きと見るからに大きな掌からは想像できない繊細さで触れられて、そんな扱いをされたことがなかった桜の胸の中にむずむずとしたなにかが湧き上がってくる。鏡越しでも伝わる真剣な眼差しを見る度に強くなるそれは、原因がこの男であると後押ししている。

    「……!」

    盗み見していた表情にばちりと目が合って桜は咄嗟に顔を背けて視線を外すが、男は特に気にした風もなく軽く笑んだだけでささっと髪の毛を払うとケープを取り外した。

    「これで大体整ったから、後はシャンプーして乾かしてから仕上げるねぇ」
    「ん……おう」

    こっちへどーぞぉと誘導する男の下駄は見れても顔を見ることができない桜は、段差に気を付けてと言われるまでもなく俯いたままそれを越えていく。
    一層薄暗くなっているスペースにはシャンプー台が二台並んで設置されていた。

    「オレ、シャンプーには自信あるんだぁ」

    そう言って男が振るった腕がどこかに当たり、ガンッと音を立てたかと思うと勢い良く水が飛び出し辺りを濡らしていく。足元まで飛んでくる水に、自分がそのシャンプー台に寝ている時にやられたら……とゾッとする想像をして桜は不審な目を男に向ける。しかし男は軽く笑う程度で特に反省はしていないのか、水を止めただけでもう一つのシャンプー台に桜を案内することにしたらしい。今度同じ失敗しやがったらサングラスごとぶん殴ってやる……と睨みつけながら桜はひとまず指示に従った。
    ざぁっと頭のすぐ後ろでシャワーの音が響く。適度に温められたシャワーは心地良く、男の大きな掌に溜められたお湯が撫でるように桜の頭部を濡らす。

    「っ……、っ」

    心地良いはずなのに、頭部にシャワーが当たる度に何故だか背中がびくびくと跳ねて喉から声が漏れそうになり、桜はそれを必死に噛み殺す。桜の視界には男の姿は映っていないけれど、男には桜の姿が良く見えているだろうことは分かるから尚更。今更他人に変に思われるのが嫌だなんて、ここ数年の桜にはなかった心境の変化だ。

    「慣れてないと人に頭洗ってもらうのって擽ったいよねぇ」
    「!?」

    ひょっこり視界に入り込んできた男はいつの間にかサングラスを外していて、鼻先が触れそうな程の至近距離に逆さ向きの素顔がある。しかしぎょっとする桜を気に留める様子はなく、その位置のまま男はのほほんと続ける。

    「でもオレが頭持ち上げた時はオレの手に身体預けてねぇ。そうじゃないとさすがにオレでも背中の方濡らしちゃうからさぁ」
    「さすがにってさっき思い切り水浸しにしてたろ!」
    「あははぁ」

    笑い声を残して視界から消える男に笑い事じゃねぇぞと文句を告げようとすれば、見計らったように頭が持ち上げられ桜は咄嗟に頭を掌に押し付けた。少し違っただろうか、身体を預けるってなんだ?と桜が考えているとくすりと笑う声が落ちてくる。けれどそれが揶揄うものではなく髪を綺麗だと褒めそやす声色と似ていた気がして、桜は目を瞑って甘んじて受け入れることにした。
    自己申告の通り男はシャンプーも上手かった。大きな掌は安定感がありシャワーの温度に負けないほど温かい。顔周りを指で拭うのも強すぎず弱すぎず、水滴が垂れてくることもなく綺麗にしていく。こんなに長い時間人に触れられたことのない桜はまさしく夢見心地で、暗くて狭いスペースに響く男の声が脳までじんわり溶かしていく。それはシャンプーを終えてからカット台に戻るまで手を引かれて移動しているのにも気付かないほど。

    「熱かったら言ってねぇ」
    「んお……おぉ!?」

    顔の近くでドライヤーの音がしたことで漸く覚醒した桜はがたりと椅子を跳ねさせる。それは撫でられすぎて蕩けた猫が野生を思い出して威嚇する様に似ていたけれど、一度腹まで見せているようなものなのでその威力はないに等しい。

    「シャンプー気に入ってくれたみたいで良かったぁ」
    「別に……まぁまぁだろ。つーかわざわざドライヤー使わなくてもタオルで適当に拭けばすぐ乾く」
    「まぁまぁ。ここは美容院だからねぇ。最後までちゃんとさせてよ」

    照れ隠しでつっけんどんな物言いをする桜を軽くいなして男はドライヤーを続ける。手櫛で根本を持ち上げてさらさらと流しながら丁寧に丁寧に風を通していく。もうとっくに乾いている感覚なのに何度も掻き分けながら乾かすその動きは頭を撫でられているような気分にさせられて、再び桜の瞼がとろりと落ちそうになる。しかし、首がかくりと傾く前にドライヤーを切る音が聞こえて桜ははっとなって目を覚ました。

    「んふふ。キミの髪、本当に素直で綺麗だねぇ。簡単に乾かしただけでクセもなくサラッとまとまってくれる。ほらぁ、キミも見てごらん」
    「え……」

    鏡の中の桜の髪は特別なケアをしたわけでもないのに天使の輪のような艶が光り輝いている。それだけでなく、ところどろこ疎らだった毛先は収まりよく整えられあちこち好き勝手に向いておらず、ふんわりと空気を含んで柔らかそうに揺れる。

    「オレの髪……こんなんなんのか?」
    「うん。触り心地ももっと良くなったよぉ」

    鏡越しの目線に促されておずおずと指を伸ばす。表面は滑らかでざらつきもなく、掬い上げれば絡まることなくするする落ちる絹のような髪。右も、左も。左右で仕上がりに違いはない。

    「すげぇ……」
    「でしょお?」
    「すげぇ……けど、いつまで頭撫でてんだテメェ!」
    「あれ、バレたぁ?だってキミの髪気持ち良いんだもん」
    「だっ、だからって触りすぎだろ!」
    「はぁい。じゃぁあ仕上げのカットして終わりねぇ」

    残念とばかりに溜め息を吐いて言う男にまた食ってかかろうとした桜だけれど、再び鋏を取った男の表情に押し黙ってしまう。

    「はい完成〜。どお?言った通り格好良くなったでしょお」

    合わせ鏡で見せられた髪型はバッサリ切ったわけでもないのにすっきりしていて、髪の長さはある程度残っているのに煩わしくない。

    「元が格好良いんだからやっぱり前髪は分けないとねぇ。もっと顔が見えるように短くした方がオレの好みなんだけど、慣れっていうのもあるからさ」
    「ん、悪くは……ねぇ」
    「うん。良かったぁ」

    またさらりと撫でる手は前髪を避けて桜の顔を晒す。鏡越しではなく直接覗き込んでくる男の距離感に慣れない桜はもごもごと口籠るしかなく、なにやら引っかかる言葉も言われた気がするがつっこむこともできない。
    そんなことより、と咳払いで誤魔化した桜は当初の予定通り支払いをするつもりでレジに向かったけれど、財布を出す前に男がそれを手で制し、代わりに一枚の紙のカードをカルトンに置いた。

    「か、金は払う」
    「良いから良いから。それよりこれ、一応うちの会員証だから良かったら持っててよ。ここに名前書いてくれる?」
    「ぐぬぬ……くそっ」

    仕上がりに満足しているだけに適正料金を支払いたいと申し出る桜に有無を言わせない男は、カードを裏返してトン、と空欄を指で示すと笑顔でペンを差し出す。ケンカの気迫でなら負けたことは一度たりともなかったのに何故かこの男には逆らえなくて、桜は歯軋りしながらせめてもと男からペンを強奪した。

    「さくら……桜かぁ」
    「あ?」

    男が名前を読み上げるのに桜のこめかみがぴくりと反応する。

    「綺麗な名前だねぇ。また髪を切らせてくれるのを楽しみにしてるよぉ、桜」
    「ッ!?」

    瞳を覗き込まれながら名前を呼ばれて大きく跳ねた心臓は照れによるものなのかそれとも別の感情からなのか。
    今の桜には想像もできなかった。
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