拙作呪術師である僕には、何かを呪う際に対価を払わなくてはならない理がある。それは、髪だったり、爪の欠片だったり、血だったりする。自分自身で払えるものであり、そして 取引相手が納得するようなものであれば、何でもいいのである。
「……ュウ!ちょっとシュウ?」
「あぁ、ごめん。ぼーっとしてたよ」
久しぶりに行われている同期とのコラボ。最近の依頼が立て込んでたせいで、あまり休息が取れていなかった。少し気が抜けすぎていたかもしれない。
「え、ちょっとミスタ〜!!」
「POOOOOG」
「でた、ルカの脳死POG」
本当に兄弟みたいで 男兄弟がいたらこんな感じだったんだろうな、とか考えてしまう。特にミスタは昔からずっと一緒にいたような、何か忘れてしまっているような……気のせいかもしれない。とにかく、このコラボもせっかく時間があってできたのだから楽しまなきゃ。
「ふぅ…………」
コラボも無事終わり、いや、今回もルカの悪戯が爆発してたけど、機械の不調も無く終わってくれた。そういえば、最近話題になってる生まれ変わりの話に興味があるんだ、ってアイクが言ってたっけ。彼の小説に対する熱意は本当にすごいと思う。それにしても、生まれ変わりってどこからがそう定義されるのかよく分からないんだよな。記憶を持っていなかった時って、どうなるんだろう……
「ッ……!!痛い……なんで?急に頭が」
目の前が真っ白になって、意識が剥がれ落ちていった。
目の前には、僕とミスタがいた。え、ちょっと待ってほしい、僕?
ふたりは何か深刻な話をしているようで、気になって寄っていこうとしても、ガラスのような壁があるせいで全く身動きが取れない。瞬きをした瞬間、景色がガラッと変わった。木の下で何かを願っている僕がいた。僕の知らない記憶なのに、次に何を言うか分かってしまう。
「「ミスタを、かえして」」
自分じゃないのに、紛れもなくそれは自分だった。あたまが、われるように、いたい。こわくて、くらくて、どこにもいてはいけないような、どこにもあってはいけなかった。かなしくて、つらい。自分の知らないミスタとの記憶がこぼれ落ちていく。僕が未熟だったせいで、呪い返しを受けてしまって、そして。
「対価は、なんだ」
僕は、知っている。これが2回目じゃないんだ。何回も繰り返される中で、自分が愛したミスタはいつも死んでゆく。だから、いつもこう頼むんだ。
「何を持っていってもいいよ。彼との記憶を消して、彼が死ぬ前へ連れて行って」
なのに、どうして、会ってしまうんだろう。
ピ………ピピピピ……………………
「っ………………!!」
画面に表示されているのは、「着いたよ」という無機質な文字列。相手はミスタだ。イメージカラーがオレンジの、明るくて優しい君。オフコラボをしようよ!と言って、急遽駆け込んできたという。その行動力に驚かされるばかりだ。ベッドから身体を起こして、鏡で身なりを整えてからドアを開けて迎え入れる。
「やぁミ「会いたかったよ兄弟!!!」」
そういうなり胸元に飛び込んできた。あまりにも勢いが良かったせいで、尻もちをついてしまう。
「ンはは、勢い良すぎじゃない?」
「ごめんってば!会えたの嬉しすぎてハグしたくなっちゃった」
こういうところなのだ。好きになってはいけない、落ち着け。
「シュウ?!なんで泣いてるの……?!?!」
「んーん、大丈夫、大丈夫だから」
置いていくのだ、僕が君と出会う度に、何度も何度も何度も……
「苦しい?つらい?言いたくなかったら言わなくていーよ」
「ごめんね、ごめん……許して………………」
「落ち着いた?」
「ン、ありがと ごめん」
「気にしないで!何か力になれることがあったら言ってね」
「うん」
「それよりお腹すいちゃった!どこか出前取ろうよ、おすすめとかないの?」
「うーん、そうだなぁ」
いかないで、置いていかないで……
夜、ミスタが寝た後に考えた。
…二度と置いていかれないための方法って、ほかにあるじゃん。なんで、今まで気づかなかったんだろう。今すぐ、やらないとなぁ。彼が、生きてるうちに。
「彼と、二度と会えないようにして」
「対価は」
「僕の命」