ゆい恋2コラボ ゲ千字書きさんがSSにしてくれる②単調な作業は眠気との戦いだ。星が見え始める時間ともなれば余計に。俺と千空ちゃんは閉店後のレストラン・フランソワのテーブルを借りて、各々の日常業務を片付けていた。
お互いの仕事に嘴は突っ込まないように背中合わせに手を動かしながら、眠気覚ましに連想ゲームをする。と言っても、手元が狂わないようにシンプルに自分の好きなものを挙げるだけ。これは、コミュニケーションの意味もある。
「じゃあ俺からいくよ!『コーラ』」
「ー、『ラーメン』」
「それは猫じゃらしラーメン?」
「できれば小麦粉がいいがな」
千空ちゃんはくつくつと笑う。だよね〜!と笑い返しつつも、この世界でラーメンにありつけるだけ十分に幸せだとも思う。
「んじゃ、『かわいい女の子』♡」
キャラ作りだろそれ、と千空ちゃんが呆れたような声を出したので「本心だよ〜♪」と補足する。けれど千空ちゃんはそれ以上突っ込んでこなかった。
あら、と思っている間に次の単語が飛び出す。
「『ドラえもん』」
微笑ましいワードだ。千空ちゃんは冷静で大人びているけれど、この世界では特にそうならざるを得ないからであって、元はただの科学が大好きなだけの無邪気な少年なのだ。そんなことを思うと、内心少ししんみりしてしまう。
懐古的な言葉ばかり続いたので、今のこの状況をポジティブに捉えられるような言葉を、と考えながら視線を上に巡らせるーーあった、あった。
『石世界で見る星空』
「テメーそんなロマンチストだったか」
「ドイヒー!でも確かに3700年前の東京だったら星空なんて全然見てなかったかも」
街灯りは眩しすぎるし建物も高すぎて、空になんて目がいってなかった。自分の頭上にこんなにもたくさんの星があると知ったのは、石世界、もっと言えば小高くて拓けた場所にある石神村に来てからだ。見渡す限りの真っ暗い空のお陰ですっかり夜目が冴えている。
「そう言う千空ちゃんは俺と違って?ロマンチストな科学少年だから?もっと宇宙とか科学用語がどんどん出てくると思ったのにそんなことないのね」
いつも復唱すら難しいような言葉を容赦なく放ってくる千空ちゃんなのに、柄にもなく遠慮してるのかと訊ねると、「ー、考えてんだが一つの単語で表すのがムズいっつーか…」
確かに、千空ちゃんのストライクゾーンは多岐に渡りすぎてカテゴライズするのが難しいのだろう。
「上げ出すとキリねぇんだよ。しいて言やあ、『唆るもん』だな」
と諦めた千空ちゃんは、お得意の言葉で全てを括った。
「いいねぇ、分かりやすい♪」
まるで小さな子どものおもちゃ箱だ。千空ちゃんの好きなもの全部入れておける、便利なところ。ドラえもんの四次元ポケットにも通じるかも。
「そう言うテメーもマジック用語が出てきてねぇじゃねーか」
「あら、バレちゃった?でもなんて言うのかなー。『好きなもの』ていうお題にはそぐわないかも」
ずっと当たり前にあったもの。好きとかどうとか考える前に体に染み付いた手管。俺と常に共に在るもの。
俺にそれを始めさせたきっかけも、続けさせるのも、
「『歓声』かな…?」
めぐらせた頭の中に蘇る光景。ステージを照らすスポット。その向こうで、この世界の星のようにきらきら小さく瞬いていた無数の瞳。驚き、どよめく声やさんざめく拍手がホールの壁に反響していた。
記憶の中の懐かしい音を思い出した、急に鼻の奥がつんとした。
「……」
ちょ、自分で提案したゲームで勝手にしんみりしてどーすんのよ。慌てて明るい声を製造する。
「な〜んて、ちょっとクサかった?ほら次千空ちゃんの番〜♪」
「……」
少しの沈黙の後で、
「『テメーがマジックしてる時の手』」
ぼそりと発された言葉。ちょっと待ってよ、なんなのこのデレ!慰めのつもり?千空ちゃんはこういうとこ察しがいいから困る。やだなぁもう、メンタリストが形無しじゃん!
でもここは素直に受け取っておくところなので、俺は千空ちゃんの方に向き直り、声を張り上げた。
「うれしー!そんな風に思ってくれてたんだ⁈言ってくれればどんだけでもやったげるのに‼︎」
うるせー、と素気無い千空ちゃんの手に手を重ねる。
「ん〜、でも」
そのまま、手繰り寄せた彼の手の甲に唇をつけてみた。
「手、だけ?」
「手だけだ‼︎」
俺のファンサービスに千空ちゃんは吠え、調子乗んなと思い切り蹴ってくる。ミジンコパワーとは言え、足技はなかなか痛い。
ファンの子なら黄色い悲鳴をあげてくれるだろう(やったことないけどさ)手段が、千空ちゃんに通用するとは思ってないけどさ、もうちょっと可愛らしい反応してくれてもいいんじゃないですか?…まあ、俺としてはそういうとこも込みで。
「俺は千空ちゃんの全部が好きだよ」
そっぽを向いてしまった背中に向かって投げたら、しばらくの沈黙の後、「知ってる」とぶっきらぼうに返ってきた。
否定も無視もしないとこに、俺はしっかり愛を感じとっちゃうわけで。
仕切り直して、残りの作業と一緒に好きなもの選手権を再開する。作業はまだ少し続く。
「じゃあ続き行くよ〜。『フランソワちゃんが作る料理』!」
「ー、それは間違いねぇ」
変わり果てたこの世界の、もっとたくさんの物事を好きになれますように。千空ちゃんといれば、きっとそうできるんだろうなと思いながら俺は次の言葉を探すのだった。