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    makinoarco

    @makinoarco_2022

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    makinoarco

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    くずはさん(@ikka_ryouran )のところの男審神者、いづるくんをお借りしました。ほぼ審神者しか出てきません。

    いづるくんとみそぎちゃん『久々にお会いしませんか』
     かつての顔馴染みから時候の挨拶と共に手短な連絡が届いたのは突然のことだった。
     前触れらしい前触れもなかった。審神者になってお互い数年。就労にはまだ早い若年の審神者を養成する研修会で彼女とは出会い、就任した最初の頃は講習やら途中経過の計測やらで共に召集される機会も多く、隅の方にいた縁で友人をやっていた。
     小柄な少女だった。素直で世間に疎く、人に騙されることも多かった。臆病になっていた彼女は他の女審神者候補と違って俺に色目を使ったり、変な目をこちらに向けてきたり、また詮索もしてこなかったので気楽だったとも言える。異性の友達、ということにはなるが、「そういう目」で見る必要の無いのは俺にとって得難いもののひとつだったように思う。
     それも今は昔のこと。この頃は集められることもなくなり、顔を会わせなくなって久しい。学校に通っていた自分とは違い、あっちは早々に専業になってしまったから、いつのまにやら縁遠くなってしまっていた。
     だから、何かあるな、と直感で思う。彼女に対して嫌な想い出は特にないが、彼女の「初鍛刀の短刀」については思うところがあった。だから断りの連絡をと最初はよぎったが、審神者としての経験がそれを許してはくれなかった。
     ――これが最後になるかもしれない。
     縁起でもない言葉が脳裏をよぎって振り払う。その後『構わない』と返信を返して幾度かのやりとりをし、再会の手筈を整えることとなった。

     そうして今、俺の目の前には俺より少し背の高い、恵まれた肉体を持った女が立っている。
    「……みそぎ?」
    「はい、お久しぶりですいづるさん」
     困ったように笑う笑顔は昔と変わらずで、間違いなく彼女が本人だという確信をくれる。
     しかし俺より高い背丈。前に後ろに突き出した女としての肉体。昔も長かった記憶があるけれど、身長もあいまってかつてよりうんと長い腰より下に伸びた髪の毛。
     そして漂うおびただしい霊力がかつての記憶と合致しない。まるで別物の誰かのようだ。
    「……女って、成長期そんな感じなんだ」
    「あはは、違うと思います。とりあえず、座ってお話をしませんか」

     そこは時の政府の管内にある、研修施設の中にある喫茶店だった。
     刀剣男士は外で控えることになっている。だから今この喫茶店には、他の客数人と俺たちしかいない。
     二つ頼んだ紅茶が湯気を立て、水面を静かに湯気の色を落としている。
    「霊力の、異常蓄積……?」
    「はい、こんのすけによるとそういうことになります」
     彼女が知らない間に長身になったのはこの数ヵ月のことらしい。原因は霊力の溜め込みすぎ。彼女は生まれ持った才能とやらで男士が傷つかないように各種の儀式を執り行えた。その度に男士の霊力を吸収し、その度に徐々に徐々に霊力の「器」が拡張せねばならなくなった結果、「器」たる肉体が育ってしまった、ということになるらしい。
     そんな話は聞いたこともなかったから面食らう。審神者には色々なことが起きると聞いていたがこういうこともあるのか、と無理矢理納得をして紅茶に口をつけた。
     俺にならって彼女も紅茶に口づける。座って顔だけ見ればかつての彼女と何ら変わらない。紅茶色の髪の毛に青いリボン。昔からのトレードマークだ。
     だから少し、心が翳った。自分は相変わらず体が弱いままなのに、彼女はずんずんと先へ進み、恵まれた体まで手に入れている。
    「ふうん、その審神者様が俺に一体何の用があって呼び出したわけ?」
    「私、多分もうそう長くないと思うんですよ」
     返された言葉にどきりとした。予感が当たっていた、そんなことあってたまるかと思う。ばくばくと早鐘を打つ心臓を押さえつけながら「なんで」と渋い声を絞り出した。
    「器の拡張……って、どこまでできるんでしょうか。今はまだ、いるかもしれない人間の背丈ですけど、例えばこれ以上身長が伸びたら? 例えばこれ以上お肉がついたら? それを心臓は支えられるでしょうか。魂は持つでしょうか。……こんのすけには言葉をはぐらかされました」
     そうして彼女は窓の外を見る。見晴らしのいいこの部屋からは訓練生たちがいる中庭が良く見える。
    「『お務め』ができるのは私の喜びです。でも」
    「審神者としての勘がその終わりの足音を告げている、と?」
    「はい」
     普通に考えれば、人に定まった器が広がることはない。だとすれば彼女は特例的に「器が水風船だった」ということになるだろうか。蛇口にぴったりとくっつけられた水風船を想像する。そこには蛇口から注がれる水がどんどんと溜まっていき、縦に横に伸びながら、薄い膜になっていく。
     想像するのはそこでやめた。キッチンの方でいやがおうにも連想を催促する、ガラスが割れ水がこぼれる音がしたからだ。
     沈黙が苦くて、悪態をついた。
    「……へぇ、それで改めて今日は何の用なわけ。俺も忙しいんだけど」
    「遺言を、預かって欲しいと思いまして」
    「……なんで、俺に」
    「友人、だからでしょうか」
     彼女はこちらの返答も待たずに、自分が死んだら自分の本丸の刀剣男士を一振でもいいから預かって欲しいと告げた。
    「俺が嫌だって言ったら?」
    「その意思を尊重します」
     そうして彼女は紅茶を飲み干す。窓の外からは相変わらず訓練生の声が響く。彼女はぼうっと、それを眺めていて、俺はその横顔を眺めている。
    「……初恋、って、叶わないものなんでしたっけ」
     ふと漏れた言葉にどきりとする。今の俺に、それは致命的な言の葉だった。
    「何を、藪から棒に」
    「私、失恋しまして」
     彼女が誰かに恋をしたなんて知らなかった。いや、その言葉を聞いてすべてを理解した。彼女はきっと自分の本丸の刀剣男士に恋をしたのだ。横顔を見て理解する。
     何故なら自分もそうだからだ。
    「いづるさんは、そちらの乱さんのこと、好きですよね」
     そして追い討ちをかけてくる。悪態をついてやりたいが、死を覚悟した女とやらの空気にすっかり飲まれてしまっていた。
     ――俺がそれに気づいたきっかけのひとつには、彼女が「私の初短刀です!」と元気良く乱藤四郎を連れてきたことがある。
     それを見たとき、ああ、違うと思ったのだ。俺の乱とは違う。なにもかも違う。俺が向けられる視線も、感情も違うと悟ったとき、どよめきが心の中に芽生えたことを覚えている。
    「いづるさん。いづるさんはいつか、叶えてくださいね」
     そう言い残して彼女は立ち上がり、会計を済ませて消えていった。
     残された俺は暗澹たる気持ちで帰路につく。
     初恋。
     それを甘酸っぱいなんて言ったのは誰だろう。くそ食らえ。こんなに苦いのに、甘いも酸っぱいもあるはずがない。
     本丸が見えてくる。果たして俺はこの門をくぐるべきなのだろうか。
    「あるじさーん!」
     ……玄関の方から声が聞こえる。ああ、そうさ。俺は会わなくてはならない。続けなくてはならない。
     俺の恋心という、人生への復讐を。
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