Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    minato_kt

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 2

    minato_kt

    ☆quiet follow

    ファウスト先生が「幸せになるつもりはない」発言を東の子どもたちにうっかり聞かれて詰め寄られる話。ネロ視点。

    ※賢者もいます。性別はどちらでも読める仕様です。
    ※Twitterからの再掲です。レイタ山脈スポエピ初読時に衝動で書きました。

    しあわせを願う(東4人)「僕はもう、幸せになるつもりなんてない」
     その言葉が聞こえた時、あ、まずいな、とネロは思った。
    「えっ」
     案の定、絶句したような声がして、前を歩いていたヒースクリフがどさどさと荷物を取り落とす。彼の隣を歩いていたシノもぴたりと足を止めて、微かに背中を強張らせている。
     その音が聞こえたのだろう。何か話していたらしいファウストと賢者が、ゆっくりとこちらを振り返る。
    「おまえ、今、幸せじゃなかったのか」
    「先生、今、不幸なんですか……?」
    「シノ、ヒース、今のは、」
     口々に言い、駆け寄ってくる生徒たちに詰め寄られて、ファウストがたじろいでいる。賢者が空を仰いで、そろりと一歩後退った。
    「俺たちの授業をしている時も……」
    「中庭で猫と戯れている時も……」
    「俺の作ったガレットを食べてる時も……?」
    「……、ネロ!」
     戸惑った視線が、ショックを受けた表情のヒースクリフ、純粋に驚きを浮かべたシノの上を順番に泳いで、ネロのもとで止まる。一人だけ怒った声で名を呼ばれて、ネロは肩を竦めた。半ば面白がって便乗したのがバレたらしい。
     けど、俺を睨むより先に、目の前の相手のことを気にしてやった方がいいんじゃねえの、先生。そんな忠告を口にする前に、ヒースクリフが決然とファウストを見つめて、語気を強めた。
    「先生!」
    「……なに」
     平静を装った声音が、動揺を映して微かに揺れている。
     じり、と一歩踏み出したヒースクリフに気圧されたのだろうか、ファウストの踵が僅かに引かれる。それを見咎めたヒースクリフが、逃がすまいというみたいに、ぱっとファウストの手を取った。祈るように、両手でぎゅっと握りしめる。
    「俺は、魔法舎で先生と出逢えて幸せですし、先生にいろいろなことを教えてもらえて、先生と一緒にいられて嬉しいです。先生は、違うかもしれませんけど……」
    「おい、ヒース」
     震えた声が徐々に小さくなって、淡い色の睫毛が頬に影を落とす。ファウストがあからさまに狼狽えて、俯いたヒースクリフの顔を覗き込んだ。
     透き通る青と、レンズ越しの紫が、ぱちりと交わる。何かを察してファウストが身を引こうとするが、遅い。ファウストの手を握るヒースクリフの手に、ぐっと力が籠った。
    「……っでも!」
     ヒースクリフが顔を上げる。
     目尻に力を込めて、唇を引き結んで、真っ直ぐにファウストを見据える。
     そうだった。普段は控えめなくせに、こういう時、ヒースクリフは絶対に引かない。
    「先生に幸せだって思ってもらえるように、俺、頑張りますから!」
    「……、」
     何か言おうとしたらしいファウストが、何も言えないまま口を閉じる。助けを求めるような視線を向けられた賢者が、ふるふると首を振った。この件について、賢者はヒースクリフの味方らしい。
    「そうだぞファウスト。オレもおまえのことは気に入ってるし、おまえがオレたちの先生で良かったと思ってる。だからもっとシャンとしろ。辛気臭い顔をするな」
    「僕がどんな顔をしてようと関係ないだろ……」
     無造作なシノの追撃に、反論するファウストの声は力ない。
     シノがぱちくりと瞬いて、首を傾げる。思ってもみなかったことを言われた、という様子だ。
    「関係ある。オレは、好きなやつには顔を上げていてほしいし、笑っていてほしいからな。……それと。自分では気付いてないのかもしれないが、猫を構ってる時のおまえは結構幸せそうだぞ」
    「……っはは! そうそう。それに、こいつらの話をしてる時もな」
    「……シノ、ネロ」
     ぐっと親指を立て、ついでにウインクをひとつ飛ばすシノに、ネロは思わず吹き出した。茶化す声音で言葉を継いで、『こいつら』と言いながら若者たちの方を指さす。
     ヒースクリフの顔がぱっと華やぐ。シノはヒュウ、と口笛を鳴らしながらも嬉しそうな様子だ。無邪気な反応を正面から受けて、ファウストがぐったりと項垂れる。本当に彼は、子どもたちに弱い。
     ネロは小さく笑って、ボケットに手を突っ込んだ。
     この件に関して、ネロはあまりとやかく言える立場ではないかもしれない。けれど、それでも、今。頑なで優しいこの魔法使いの隣に、素直で真っ直ぐな子どもたちがいて、良かったと思えた。

    〈終〉
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖❤💗💗💗💗💗💗💗💗💗☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works