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    Warren79768

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    Warren79768

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    ハッピーオメガバースの以晋
    没にした理由は会社説明会の福利厚生ビデオみたいだったから

    #以晋
    withJin

    オメガバ 以蔵の部屋は敷きっぱなしの万年床が床のほとんどを占めており、ハッキリ言って足の踏み場もないので、マスターは靴を脱いであがったことはない。用事があっても玄関止まりで、立って話すか、上がり框に座って話すかのどちらかである。以蔵も気の知れた相手といえど、年頃の少女を整頓されているとは言い難い部屋にあげるのは思うところがあるらしく、無理に酒を飲ませようとすることはあっても無理に部屋に連れ込むことはなかった。
     その日マスターは用事があって以蔵の部屋の前を通りかかったので立ち寄って、いつものように靴を履いたまま框に座り話をしていた。
     するとチャイムも鳴らずに扉があいて、マスターは驚いた。誰かと思えばそこにいるのは高杉だった。
    「高杉さん、こんにちは」
     高杉もマスターがいるとは思っていなかったらしい。勢いよく踏み出した足がマスターに当たらないように咄嗟に避けてよろけたのを、以蔵が支えた。
    「っと君もいたのか、ちょうどいいや。待っていてくれ、君にも話がある」
     玄関といっても靴が三足並べばいっぱいになる広さだ。高杉は器用に片足ずつ靴を脱ぎ捨てると、揃えもせずに以蔵の部屋へとあがっていった。
    「騒々しいのう、急ぎの用か」
    「急ぎも急ぎだ。一刻を争うぞ」
    「悪巧みじゃなかろうな」
    「だったらよかったんだけどな。もうすぐヒートの時期が来る」
    「えっ」
    「なっ……も、もうそんな時期か!?」
     以蔵は驚きのあまり大声で言って、立ち上がった。
     マスターもまた驚いていたが、それは高杉がヒートという単語を口にしたことによる反射的なものであった。彼らが恋仲であることは、マスターもすでに知っている。彼らはβとΩのパートナーだった。お互いの部屋を自由に行き来できるよう、彼らにカードキーを渡したのはマスターだ。
     どうやらここでは、サーヴァント同士で新たなパートナーができることも珍しいことではないらしい。多くのサーヴァントから要望があり、マスターらが制度を整えだしたのは、彼らが召喚に応じるよりもずっと前のことだった。
     高杉はすでに、いかにも勝手知ったるといったふうに断りなもく襖をあけ、衣類だなんだと漁りはじめていた。「いやー、僕としたことが最近充実しすぎて体調管理が甘かった。かっこつけてないでカレンダーに赤マルつけときゃよかったよ」言いながら、高杉は出した衣類を片っ端から後方へ投げ捨てていた。数枚に一枚は足元に置き、やがてすべての衣類を選別し終えると、彼は不満そうに振り返った。
    「ほとんど洗濯済みじゃないか」
    「そりゃ、こないだ出したばかりじゃき」
    「なんだってこのタイミングで。今更善行積んだってなんにもならないぞ」
    「……今着ちゅうの持ってくか?」
    「そうさせてもらうとしよう。ほら脱げ、早く脱げ、とっとと脱げ」
     平気な顔をしているが、襟元をぐいぐい掴んで脱ぐのを急かす。相当焦っているのだろう。首巻を引っ張って脱がせるどころか首を絞め、コートを剥いで袴をひん剥き、この様子ではマスターのことなど眼中にないと思いきや、しかし褌までは剥ぎ取ろうとはしなかった。
    「見たかマスター、まるで追いはぎじゃ」褌一枚でマスターの隣に座って、以蔵がいった。
    「それじゃあ追いはぎついでに肥前忠広も渡してもらおうか」
    「そりゃあ、さすがにまずいじゃろうて」肥前忠広は以蔵の脇差だ。以蔵はぎゅっと鞘を握りしめた。
     以蔵がちらりとマスターに視線を寄こす。マスターはこくりとうなづいて、「戦闘ができなくなるのは困ります」と加勢した。
    「ちぇっ、しょうがない。けど布団は持っていくからな」
    「好きにしや」
     高杉は布団のうえに戦利品をまとめて置くと、くるくると大きな巻きずしでも作るように布を丸めはじめた。マスターは脱ぎ散らかされた靴を揃えて、ふちに置いてやった。ありがとうと笑顔を向ける高杉に、「どういたしまして。お大事に」と声をかける。病気ではないのはわかっているが、マスターにはそれ以外の言葉が見つからず、他のサーヴァントにもずっとそうやって声掛けをしていた。
     そして出ていきざまに、布団を担いだ高杉は「いけないいけない。肝心なことを忘れるところだった」と振り返って、マスターにいった。「そういうことだから、一週間ほどヒート休暇をいただくよ」
    「申請しておきます。ヒートが明けたら、またお願いしますね」
    「うんうん、そのときはまかせてくれ。やっぱりこういうときは雇われ者が楽でいい。じゃあな、一週間後にまた会おう!」
     こうして高杉が去ると、マスターは高杉が散らかした衣服を拾って袖を通している以蔵に声をかけた。
    「以蔵さんも、休暇取っていいんですよ。別にαとΩだけじゃなくたって、βでも申請できるんですから」
    「いんにゃ、わしはえい」
    「でも……」
    「あれに来るなと言われゆう。来いと言われればいつでも行くが……まあそういうことじゃき、わしはえい」
     ふいと顔を背けて、以蔵は照れくさそうにいって、黙った。年頃のマスターはだんだんと照れくさくなってきたせいか、框から体を精一杯伸ばして、以蔵のふくらはぎをペチッと叩いた。

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