手のひら手のひら
ふと隣に座るキバナの手が見えた。机の上に乗っている彼の手はその身長に見合って大きい。モンスターボールを2個持ちできるぐらいだ、一般のトレーナーでは1個持つので精一杯だと言うとどれだけ大きいのか伝わるだろう。
彼の手に自分の手を触らない程度に近付けて横にそっと並べてみる。やはり自分の手より大きい。
「何してんの?ダンデ?」
並んだ手は整列を乱しキバナの手は俺の手をちょんちょんと控えめに触れてくる。
手から視線を外して彼を見ると右手で頬杖をつきながら小さく笑っている。
「いや、君の手を見ていてすごく大きいなと」
「手?まぁ、俺様の手人よりと大きいもんなぁ」
「触ってみてもいいか」
「ん、ドーゾ」
おずおずとキバナの手を両手で握り自分の手のひらと合わせてみた。俺の手も骨太でガッシリして大きい方だと思うが、こうやって合わせてみるとより大きさが分かる。
自分の指先から1センチ以上彼の指が飛び出しているのだ。
「おぉ...!!」
「ふふ、なんかこうするとダンデの手が小さく見えるなぁ」
こうやって近くでまじまじと彼の手を見る事など今まで無かった気がする。
両手でボールだこのある指先をふにふにと揉んでみる。固い、そして皮膚が少し厚くなっている。
だが、彼がポケモンに勝負に真剣に取り組み努力した結果だ。同じトレーナーとしてとても好ましい手だ。
「キバナの手は素晴らしいな。日々の積み重ねがよく手に現れている」
手のひらはダークブラウンの肌をしている彼の皮膚の色素が他より薄いところだ。夢中になって色素が変化する境目や手の指の腹などをさわさわと触ったり、手をにぎにぎと繋いでみたりした。
ピクリと手が強張った、自分の体温より少し低い彼の手は若干ひんやりしているが少しずつ暖かくなってきている。
「...ダンデ、ストップ。今の繋ぎ方はちょっと...」
「?...あっ!すまない!」
キバナの声にハッとし夢中になっていた手から目線をキバナに向け直す。
あっ...この繋ぎ方は世間一般的にいう恋人繋ぎでは...?
キバナの顔が赤い理由に気付き、つられてこちらも顔に熱が集中する。
真っ赤になって目が潤んでるのはあまり見られることがない姿でなんだかドキドキする。
心臓がどくどくとまるで違う生き物かのように脈打つ。手のひらは交感神経が優位になりじんわりと汗をかいていく。
そんな状態でもキバナは繋いだ手を解かなかったし、俺も名残惜しくて外せずに握ったままだ。
「つい夢中になって観察したり不躾に触ってしまった。嫌だったろうか?」
「....嫌じゃないけど...恥ずかしい...」
最後は俯き気味で声が小さくなっていったが俺の耳にははっきり聞こえた。〝嫌じゃない”と。
早鐘を打つ心臓がやけにうるさく聞こえる。
俺も嫌じゃないむしろ嬉しい...もしかしてキバナも俺と同じ気持ちなのか....?
「キバナ、その....」
「ちょっとお二人さんいいかしら?」
俺の声を遮るように同じ部屋にいたルリナから声を掛けられる。
「そろそろ会議を始めたいから切り上げてちょうだい」
はぁっとため息混じりで言われれば2人で手を繋いでいる今の状況が恥ずかしくなってどちらともなく勢いよく手を離した。
そうだったジムリーダー交えての定例会議前だった。
げっそりとした表情のネズはからは一言
「お前達、そういうのはよそでしんしゃい」