恋をしている俺は三年の教室にはしょっちゅう遊びに行っていたから、それが深津さんと同じクラスの先輩の声だってことはすぐに気が付いた。
「深津くんのことが好きです」
グラウンドから聞こえてくる野球部の声とか、実習棟の機械の音とか、風が吹いて木の枝が揺れる音とか、そんな何でもない音にすぐにかき消されそうな小さな声なのに、その一言は俺の耳にもはっきりと届いた。
授業が終わって部活に向かう前の時間に深津さんと話していたのは、髪の毛をいつも二つに結んで眼鏡をかけている、地味で大人しそうな女子の先輩だった。先月の合唱祭で、深津さんのクラスのピアノの伴奏をしていた人だ。静かで真面目っぽくて、俺は全然話したことがない。深津さんのクラスに行くと派手な女子の先輩は俺に絡んできたりするけど、あの人はそういうタイプじゃないからだ。
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