スワイヤーはポーチから小瓶を取り出す。
蓋を開けると、ブラシの先は淡い色を帯びた液体に包まれていた。彼女は膝を抱え、自身の爪先へブラシを向ける。
「~♪」
鼻歌と共に、彼女の爪が染まっていく。それはご機嫌な曲調にぴったりで、彼女の存在を瞬く間に華やかなものにしていったのだった。
「できた!」
スワイヤー最後にそう宣言して、蓋を閉めた。
「ほらどう? 綺麗でしょ?」
そのまま彼女はベッドの上でくるりと向きを変え、隣に座る人物に脚先を伸ばす。
「あ、ああ、綺麗だ」
ところが感想を求められたチェンの歯切れは悪い。彼女は曖昧な曖昧な返事をすると、気まずそうに視線を逸らしたのだ。
「なぁに? その適当な返事は?」
するとスワイヤーは先程の上機嫌さから一変、眉間に皺を寄せた表情で、チェンにずいと詰め寄る。
「さっきからずっと見てたでしょ? 気付いてたんだから」
「……」
チェンは黙秘を貫こうしたが、間近に迫ったエメラルド色の瞳はそれを許してはくれない。
「……見てた」
ようやくチェンが白状する。
その言葉を聞いて、スワイヤーは口角を上げる。
「いいでしょ。『これ』に合う色、難しかったのよ」
得意気に笑うと、今度はチェンの表情が苦いものになる。
薄手の部屋着からすらりと伸びるスワイヤーの脚。そしてその先端を彩るネイルの美しさは確かに見惚れる程だった。それはまるでラテラーノの美術品のようにすら感じる。
しかしそんな彼女の脚には、それ以上にチェンの注目を集めるものがあったのだ。
「……悪かったよ」
チェンはこの日数度目の謝罪を口にする。
それと同時に、彼女の尻尾が所在無さげに揺れた。
スワイヤーの脚を彩っていたのは、何周にも絡み付かれ、そしてきつく締め付けられた痕だったのである。